第22話 パヴァーヌ(1)

な! 

なに、コレ!


びっくりしていきなり動揺してしまった。


なぜなら

母がくれたその袋の中身は

コンドームだったから。


しかも

3箱も!


何考えてんのっ!!

もう!!


一人赤面してしまった。


もちろん今までの自分はこんなものに無縁で。

初めてこのブツを見たのは

高校生の時に友人がふざけて学校に持ってきた時であった。


こ・・

これを母親に渡されるとは!!


そしてその袋に手紙が一緒に入っているのに気づく。

それを開くと


『夏希にもそうやっておつきあいする男の人ができたのは、喜ばしいことです。 あんたももう大人だし、おつきあいする人をお母さんはどうこう言いません。 夏希が選んだ人ならきっといい人なんでしょう。 でも、子供ができたりするようなことだけはないように。 いくら好きな人とでも、そのことで運命を変えてしまうこともあるから。 恋愛と妊娠は別だよ。 しっかりとその気持ちでいて欲しい。 今度、機会があったらその人を紹介してください。』


いきなりのことに慌てふためいていた夏希だったが、

母の手紙を読んでいるうちにちょっと涙ぐんでしまった。


も~~。

心配しすぎだよ。

お母さんてば。


ひょっとして

ひょっとして

いつか

高宮さんとそういう風になるときが来るのか、わからないけど。



「おれが帰るまで。 誰にも触らせないで。」



彼の言葉を思い出し

胸がきゅんとなった。


そして

ドキドキが

止まらなかった。


ありがと。

お母さん。


夏希はふっと微笑んだ。





「ただいま~!」


気がつけば

夢中で毎日を過ごして、2月も半ばになってきた。

夏希はいつものように張り切って外出から戻った。


「おまえは何を考えてんねん!!」

いきなりすごい怒声が聞こえてビクっとした。


見ると、志藤の前に一昨日帰国した真尋がふてくされたように立っている。


「それでもプロか?? できてへんてどういうことや!」


険しい顔で真尋に食い下がる志藤。


「だから。 おれには合わないよ。 ショパンに変えたいって言ってるだけじゃん!」

真尋は面倒くさそうにそう言った。


「おまえ、ウイーンに行く前に確認したよな? ラヴェルでいいって承知したよな?? もう曲順も決めてパンフも作ってしまってるってわかってるよな??」


「わかってっけどさあ。」

煮え切らない真尋に志藤はものすごく大きな音を出してデスクを叩き、


「アホか、おまえは!! そんなんやからな! いつまでたっても二流やって言われるねん!!」

彼を睨みつける。


「ど、どうしたんですか・・」

夏希が八神にそっと聞く。


「3月の頭にある真尋さんの横浜でのコンサート。 いきなり曲変えたいって言い出してさあ。」

八神も夏希に耳打ちした。


「はあ。」


「ほんっと真尋さんって感情の赴くままに生きてるからさあ。」

八神はボヤいた。



それにしても。

本部長があんなに怒ってるトコ、初めて見た。


いつもにっこり笑って。


優しいわけじゃないけど、

いつもどこかで見守ってくれているような、

心の広さを感じて。


ふざけたことばかり言ってるけど、

たまに

ものすごく深いこと言ったりするし。


「でけへんかったら徹夜で仕上げろ! 命令や!」

志藤は真尋の顔に向かって指を指して、ずんずんと部屋を出て行ってしまった。


みんな凍りついたようにシーンとしてしまった。

その緊張した空間の中、



ぐうううううううう。


夏希のおなかの虫が無神経に響き渡った。


「加瀬~~~!」


八神は夏希の後頭部をひっぱたいた。


「す、すみませーん!」

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