第21話 母の上京(4)

その晩は

母が夏希の部屋に泊まった。


母の布団の仕度をしていると、携帯が鳴る。


「あ、ハイ。 さっき帰ってきました。 なんっか・・ウチのお母さんがいきなりこっち来ちゃって。」


高宮からだった。


母が風呂に入っていることを確認してそっちを伺いながら話をした。


「お母さんが??」


「そうなんですよお。 で、さっき南さんにホテルのレストラン予約してもらって、栗栖さんと4人で食事をして帰ってきたんですけど、」


「加瀬さんのトコに泊まるの?」


「今、オフロ入ってるんで。」


「そっか。 いろいろ心配してるんじゃない?」


「心配ってゆーか。 ほんともう、図々しくていきなり会社に来るんですから。」


「連絡もなしに?」


「そーですよ! 今日の昼前ころにいきなり電話があって、今そこまで来てるからとか言っちゃって。 何のサプライズなんだかって、」


高宮はその言葉に笑って、


「一人娘だもん。 そりゃ心配だよ。 東京なんか、」

と言った。


「東京は関係ないんですけどね・・」



しばし話をしたあと、


「じゃ、おやすみなさい、」


と電話を切って、ふっと後ろを振り向くと母が聞き耳を立てていたのでビクっとした。


「な・・なに??」


「例のカレシ?」

すっごい疑いの目を向けてきた。


「・・えっ!」

携帯を握り締めて視線を外して真っ赤になった。


「う・・うん、」


「ほんとにそんなスゴい人とつきあってんの?」



そんなに

真剣に聞かないでよ…


夏希は恥ずかしくてたまらなかった。

男っ気ゼロだった自分は親にそんなことを聞かれることも今までに全くなく。

そんな心配だって今まではされなかった。


「す、スゴイのかどうかわかんないけど。 でも、ほんと優しくて、いい人なんだ、」

母は娘をジッと見た後、


「そう。」

とだけ短く言った。


「ね! 明日さ午前中ミッドタウンに行ってみようかなって思って! 今日は六本木ヒルズの展望台にも行ったんだよ。 眺め良かった~。」

いつもの母に戻った。



本当に自分に負けないくらい明るくて。

父が死んだ時も。

あたしに涙を見せることはしなかった。


たぶん

あたしのいないところで泣いていたのかもしれないけど。


もう

家族二人きりなんだなァ。


つくづくそんなことを思ったことを覚えている。




夏希は昼休み会社をちょこっと抜けて、東京駅に母を見送りに行った。


「そんなにおみやげ買っちゃって、もう。」

いっぱいの紙袋を持つ母を見て言った。


「近所の人にあげるから。」

と屈託なく笑う。


もうそろそろ出発の時間になりそうだったので、

「もう乗ったほうがいいよ。」

と促すと、


「ああ、そうだ。 コレ。」

母はいっぱいの荷物から小さな紙袋を取り出して、


「これ。」


と夏希に手渡した。


「なに?」


「後で開けて。 じゃあ、ちゃんとゴハン食べるんだよ。」

と言って母は乗り込んだ。


それに手を振って別れたが。


なんだろう。


駅のホームのベンチに座ってその紙袋の中を覗く。


「・・・?????」


目を凝らしてしまった。


「えっ!!」


ひとり大声を出してしまい、周囲に不審がられた。

周りをきょろきょろしながら、慌てて口を閉じた。



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