第20話 母の上京(3)

南はワインも入ってどんどん聞かれてもないのに饒舌になり、


「加瀬はいつも一生懸命やし、あたしはわりとそういう根性ある子が好きやから。 もう高宮が惚れるのもわかるっていうか、」


いきなり彼の名前を出され、


「わーっ!!」


夏希はいきなり南の口を押さえた。


レストラン中の注目を浴びてしまった。


「・・惚れる?」


夏希の母は怪訝そうな顔をした。


夏希の大きな手に口を塞がれた南はもがきながら、


「ちょ、ちょっとも~~。 え? なに、あんた高宮とつきあってることお母さんに話してへんの?」

彼女を見た。


「も、もー! いいですから!」

夏希は真っ赤になってしまった。


「なに、アンタ、付き合ってる人、いるの?」

母の興味がグイっと引き寄せられた。


「あ~~~っと・・え~~~、」


しどろもどろになる夏希を見て、萌香が


「ほら、加瀬さん、男の人とおつきあいしたことないし。 いきなりそんな風に言うとお母さんが心配しますよ、」


南にコソっと言った。


「あ・・そっか。」


ハッとした。


「あっと。 あの! 別に疚しいつきあいではないし! 高宮って、えっとあたしのダンナと一緒に秘書課で仕事してる男なんですが。 か、顔は・・いいです! 背も加瀬より高いし! んで、頭も良くて、アメリカの大学を出てるし!」


南はどんどん勝手に高宮の説明をし始めた。


「仕事ももちろんデキて! もう女子社員の憧れの的なんです! そんな彼がもう加瀬に夢中で。」


一生懸命フォローしているようだったが


どんどんぬかるみにはまっていき。


「お父さんが元財務大臣ってお坊ちゃんなんですけど。 最初は嫌な男やなあって思ってましたが、加瀬と知り合ってからはもう・・別人みたくなっちゃって、」


「財務、大臣・・?」


どんどんしゃべる南に萌香はまた小突いた。


「あんた、そんな人とつきあってるの?」


母は夏希を見た。


「え、まあ。 でも! その人、去年の秋から大阪勤務で春には戻ってくるけど、」


伏し目がちにそう言った。


萌香は一気に心配モードに入ってしまった夏希の母に


「大丈夫です。 高宮さんて見た目は派手ですけど、本当に真面目な人なので。 私も感心するくらい。 加瀬さんのことを本当に真剣に考えて下さっているので。 こんなこと言うと加瀬さんが鬱陶しいと思うでしょうが、あの斯波さんも私も加瀬さんのことは心配して気を配っているつもりですから、」


ほんとに

同じ女性なんだろうか


夏希はそう思うほど萌香は美しく、キレイな声で言ったので

思わず傍観してしまった。


その

彼女の美しさに惑わされたか、母も


「そうですか。 ほんっと、いい人と一緒に仕事ができて。 夏希は幸せです、」


ボーっとしながらそう言った。

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