第13話 とまどい(2)

「う~~、すっごいおいしいですっ!」


夏希は牧村にその焼肉屋に連れて行ってもらい、ニコニコだった。


「そう? よかった。 加瀬さんってほんと美味しそうに食べるから食べさせがいがあるね。」


牧村は頬杖をつきながらそんな彼女を嬉しそうに見ていた。



彼は年のころは40くらい。


だけど、おじさんという雰囲気は全くなくて。


見るからに


『クリエーター』


という匂いがプンプンするような人だった。


しかし


業界風をふかすわけでもなく。


穏やかで、新人の夏希にもいつも優しく接してくれた。



「加瀬さんは、いくつだっけ?」


「え? 23ですけど、」


もぐもぐと口を動かしながら言う。


「若いな~。 23かよ・・」


牧村は苦笑いをした。

「牧村さんはいくつなんですか? すっごく若く見えるけど、」



「おれ? 40。 オヤジだよ、オヤジ。」


「そんなことないですよ。 ほんと若々しくって。 結婚してるんですか?」


「・・正確に言うと、したことはある。」


ニコっと笑った。


「あ~。 バツイチ、ですか、」


夏希の声のトーンが少し落ちた。


「まあね。 もう別れて5年くらいになるかなァ。 小学4年になる娘がいるんだけど、向こうがひきとってて。 たまに会うくらいだけどね。」


「お子さんがいらっしゃるんですかあ。」


「一緒になるときはねえ。 すっごい燃えてたのになあって思うよ。 向こうの両親に反対されてね。 一人娘で大店のコだったから。 ほんっと駆け落ち同然で一緒になったのに。」


牧村はビールをグイっと飲む。


「離婚の原因も正直、ハッキリとわかんないっていうか。 おれがすっごく忙しくなってあんまり家に帰れなくなってから、ちょっとずつすれ違ってって・・みたいな。 ある日、彼女から離婚届をつきつけられて、『あたし、もう耐えられない』って言われた。」


「そう、だったんですかあ。」


夏希は肉をひっくり返す手を止めた。


「ま、でもね。 愛情ってそんなもんなのかなあって思ったりする。 四六時中一緒にいないと持続できなかったりするもんってあるし。 最初は許せていたこともね、だんだん許せなくなってくるんだって。 些細なことだよ。 歯の磨き方だったり、ゴハンの食べ方だったり。 まあ離婚してひとつだけわかったことはね、結婚って相手が好きだから一緒になるんじゃないんだってこと。」


「え?」


「相手を・・許せる気持ちだよ。 お互いに許しあえる気持ち。」


牧村はにっこり笑った。



許しあう


か。


夏希はぼーっと高宮のことを思ってしまった。


好きなだけじゃあ


続いていかない。



すると


いきなり牧村は話題を変えるように、


「・・加瀬さんっていいよね、」


と言い出した。



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