第14話 とまどい(3)

「は・・?」


夏希は我に返った。


「元気だし。 いつも明るいし。 斯波さんにすっごい怒られてもタフだし。」


彼はにっこり笑った。


「や~~、もう勢いだけなんで、」


夏希は照れて頭を掻いた。



「・・好きだよ、」



そこから続けて言った彼の言葉は


すんなりとは夏希の耳には入ってこなかった。


「・・???」


まるで


ハムスターが覗き込んだ飼い主を見るようなまんまるの目で彼を見た。



「加瀬さんが。 好きだなあって。」



牧村は再び頬づえをついて夏希を見てニコっと笑った。



まるで


空気圧みたく


徐々に徐々に夏希にその言葉が圧し掛かる。


「へっ????」


もう焼肉どころではなくなっていた。


牧村は笑いながら、


「その『へ?』って言うのやめてくれる? 気が抜ける・・」


と言った。


「あ~・・はあ・・えっと・・」



え?


え?


なに???


なんで、牧村さんが???



もうプチパニックに陥った。


「ま、親子つっても不思議ないけどね。 でも、自分的には加瀬さんは女性として対等に思えるし。」


夏希は呆然としつつ、そこにあったビールをゴクゴクと飲み始めた。



「だ、大丈夫??」


牧村は心配した。


「び・・びっくりして。」


正直にそう言った。


「ああ、ゴメンね。 なんか、言いたくて。 きみを困らせるつもりはないんだけど。 もし、カレシとかいなかったら、つきあってほしいなあって。 そういう意味で。」


心臓がバクンバクンと音を立てた。


「かっ・・カレシは・・」


夏希は高宮の顔を思い浮かべて、


あたしたち


つきあってんだよね?


カレシってこの場合


高宮さんのことだよね?



自問自答してしまった。


そして意を決して、


「・・か・・カレシは・・います。」


自分の発した言葉が恥ずかしくて赤面した。


牧村はそれを聞いても、特に動揺することはなく、


「そうだよねえ。 加瀬さんみたいなコがフリーなわけないもんね、」


と笑った。



あたしみたいなって


どーゆーこと??


「気にしないで。 こんなバツイチ子持ちのおっさんの戯言。 なんかちょこっと言ってみたかったから。 また、みんなと一緒に食事、してくれる?」


優しくそう言われて、


「は、はあ・・」


あやふやに頷いた。



23年間カレシなしだったのに。


いきなりこの1年で2人にコクられた。


それだけでもう


『事件』


なのに!



家に帰ってシャワーを浴びてテレビのスイッチを捻った頃、携帯が鳴った。


はっとして取ると、高宮からだった。


それ以前に2度ほど着信していたようだった。


「も、もしもし!」


「ああ、でかけてた?」


「ごめんなさい。 なんか気づかなくて。 えっと・・れ、レックスの方と食事に、」


それを言うだけでドキドキした。


「レックス? 広告代理店の?」


「はい。 部長の牧村さんて人に焼肉をごちそうに・・」


何も言わないと怪しまれると思い、夏希はペラペラと饒舌に話をした。


「二人で?」


探るように聞いてくる高宮にさらに鼓動は速くなり、


「えっ! ええっと。 ハイ・・」


正直に答えてしまった。


「あ・・そう。」


急に声のトーンが落ちる。



「ほ、ほんっと美味しい焼肉で! なんか、ご馳走になって悪かったなァって!」


電話なのに身振り手振りが出てしまう。


「メシ行くのもいいけど。 あんまり食い物につられてフラフラ行くもんじゃないよ。  じゃあね、」


何だか冷たくそう言われて、早々に切られてしまった。



は・・。


なんか


怒った?



鈍い彼女でも


なんとなくそういうことをヒシヒシと感じてしまった。


異性とつきあうことも初めてなのに


いきなり遠距離恋愛になって


そばにいれば、何でもないことも


離れていると


相手の気持ちが


つかめない。


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