第10話 彼女の理由(4)

理沙は翌日も東京本社にやって来た。


芦田と打ち合わせをした後、もう12時を回っていたので、お昼をどうしようかと考えていた。


コンビニで何か買って来よう。


と思い廊下に出ると、夏希とバッタリ会ってしまった。



「あ・・」


夏希は目をぱちくりして


そして


また固まった。


理沙がちょこっと会釈をすると、夏希は手に持っていた紙袋をサっと彼女に差し出した。


「は・・?」


無理やり無言で押し付けられたその袋はほんのり温かかった。



そして


そこから、タイヤキが顔を覗かせていた。


「タイヤキ?」


理沙が不思議そうな顔をすると、


「こっ、ここのタイヤキ! 最高なんです! 皮はもちろんアンコが・・もう! 絶妙な甘さで! 23年の人生一、美味しいタイヤキです!」


夏希は必死にタイヤキの説明をした。


タイヤキ。


なぜ


タイヤキ・・。


理沙はぐるぐると思いを巡らせた。



そして、しばらくしてこれを彼女がくれたのだ、ということにようやく気づき、


「い、いいんですか・・?」


上目遣いに夏希を見た。


「ど、どうぞ!」


「3つも入ってるけど、」


「よかったら、どうぞ。」


目が必死だった。




理沙はだんだんとこの状況がおかしくなって、クスっと笑いながら


その袋から1コタイヤキを取り出して、



「ありがとうございます。 でも3つはちょっと多いから。 私は1コ頂きます。」


とそれを手にして後は夏希に袋を返した。


「え! 1コでいいんですか?? あたし、食後のデザートにって4個にしようかと思ったんですけど、数が悪いし・・んじゃ3個で我慢しよっかって・・」


本気で言っている彼女に、


「4個も??」


理沙は驚いた。


「だ、ダメですかね・・」


「いえ・・ダメではないと思うけど。」



ほんっと


変わった人だ。


理沙はその温かいタイヤキを手にしてふっと笑った。


「あ! コレ、休憩室で食べませんか? ここじゃあ、なんなんで、」


夏希はすぐそこの休憩室を指差した。


「はい、」


理沙はにっこり笑った。



ほんっと


カワイイ人だなあ・・


背も小さくて、手もちっちゃくて。


ちょっとタレ目で鼻にかかったような甘い声で。


そうだよね


タイヤキ4個なんて絶対に食べそうもない!


しかも食後に!



休憩室で二人で向き合ってタイヤキを食べながら夏希はつくづく理沙を見てそんな風に思ってしまった。


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