第6話 愛の不思議(2)
「昨日はごちそうさまでした。 ほんっとおいしかったです。」
午後から外出先から直接出社した志藤のところに行って夏希はお辞儀をした。
「よく食べるコね~って、ヨメも感心してたで、」
志藤はタバコをくわえながら笑った。
「すっ・すみません。 つい・・」
かあっと赤くなる。
そんな夏希を見て、志藤はツボが疼いてまた笑ってしまった。
「なにがおかしいんですか?」
「いや。 おまえはええなあって。」
「は?」
「深い意味はないけど。 なんかそんな思った。」
タバコの煙をふうっと吐いてにっこり笑った。
「あのう、」
夏希はどうしても聞きたくて切り出してしまった。
「ん?」
「・・出会って6ヶ月で結婚して、戸惑うことはなかったんですか?」
志藤はいきなりの質問にきょとんとした後、また笑顔になって
「まあ、結局。 子供ができてなかったら、まだまだ結婚なんかしてなかったわけで。 おれの子供だもん。 彼女一人に押し付けるわけにいかないやん。」
ドライなことを言われたので、ちょっと気が抜けた。
「だけど。 娘が生まれてからは、ちょっと考え方がかわった、というか。」
「え?」
「ああ、コイツがこの世に生まれてきたくて。 おれたち二人を導いたんやなあって。 おれと彼女を親に選んだんやって。」
静かに
そして
優しくそう言った彼の言葉は
夏希の心にダイレクトに響いてきた。
「つきあってもなかった彼女とな、なんでそういうことになってしまったのか。 ほんま理屈やなくて。 説明でけへんかった。 お互いな。 だけど、生まれてきた娘の顔を見たときに、ああ、そういうことやったんかって。」
志藤にソックリだったひなたの笑顔を思い出す。
なんか
スゴイ。
子供ができて、仕方なく結婚したわけじゃなくて。
運命に導かれたって
そういうことなんだ。
夏希は志藤が吐き出した煙の行方を追って天井に目をやった。
「そう、だったんだ。 おれもあんまりあの人のことは知らなかったけど。 奥さんが元社長秘書ってことは聞いていいたけどね。」
その晩高宮にさっそく電話をした。
「南さんは、いろいろあったんだよって、言うけど。 ほんっと幸せそうな家庭で。 もう、子供たちもみんなかわいくって。」
「会社ではあんなにカッコつけてるのに、5人も子供がいるってのが笑うけど。」
「そのギャップがいいんですよ~。 なんか今日はいい話聞いた~。」
夏希は感動していた。
「あ、そうだ。 足はどうですか?」
思い出したように言った。
「来週にはギブスも取れるよ。 ほんっとこの重さに体中が痛くなってきた。」
「そんなで仕事できるんですか?」
「ああ、水谷さんがね。 おれの分まで動いてくれて。」
ちょっとドキンとした。
「すごく逞しくなって。 おれの出る幕もないみたいに。」
「そう、なんですか。」
いいことなのかな・・。
夏希にはそれはよくわからなかったが、高宮の声が落ち着いていたのでホッとする。
「本当は来週、芦田さんが東京に出張で。 おれが一緒にいくことになっていたんだけど。 こんなんだから、水谷さんがついていくことになったんだよ。」
「あ、そうなんですか。」
夏希は少しガッカリした。
「おれも行きたかったけど。 今後のためには彼女に行ってもらったほうがいいのかもしれない。 おれがこんなになってから、芦田さんも彼女を頼りにするようになったしね。」
やっぱり
彼にとっては嬉しいことなのだ。
安心して東京に戻ってこれることが一番で。
夏希は携帯を握り締めながら
微笑んでる自分を実感した。
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