第5話 愛の不思議(1)

「え~? 志藤ちゃんち行ったの?」


翌日、ランチを一緒に採った南に夏希は昨日のことを話した。


「はあ。 なりゆきで。 なんかびっくりしちゃって。夕飯もごちそうになってしまいました。」


「え、なににびっくりしたの? 子供の数?」


南は笑った。


「まあ、それもありますが。 奥さんが・・フツーの方だったので、」


夏希はパスタを食べながら言った。


「フツーって。」


南はまた笑う。


「でも、お家の中ももすっごく趣味がよくて。手作りのおやつも頂いたし、ゴハンも美味しかったし。 お子さんを5人も育ててて、すっごい奥さんだなって。 かわいくって、」


南はハンカチで少し口の端を拭きながら、


「ゆうこが元北都社長の秘書やって聞いた?」


夏希を見た。


「あ、はい。んで・・知り合って6ヶ月で結婚決めて、その時奥さんが妊娠3ヶ月だったって。 なんかそこにも驚いちゃって、」


正直にそう言った。


「ウン。 すっごいやろ? 志藤ちゃんは、北都フィルを作るために大阪から来たんやけど。 そのころは事業部ってなかったから、秘書課で秘書の仕事しながら並行してその仕事してたの。 その時、元々社長と真太郎の秘書をしてたのがゆうこやねん。」


「奥さんとは親しいんですか?」


と聞くと、南は苦笑いをして、


「まあ、いろいろあってな。 そのいろいろはあの二人が結びつく話になっていくねんけど。 彼女、ほんまにいい子やから。 あの二人、つきあうって感じの前に子供できちゃって、」


カタっとフォークを置いた。


「えっ?」


「ゆうこはめっちゃ悩んでた。 ほんまに。 堕ろそうか、とか。 一人で産んで育てようか、とか。」


ちょっとショックな話だった。


「志藤ちゃん、大阪から来たばっかの時は、ほんっまにヤなヤツやってんで。 高宮の比やないくらい。」


いきなり高宮の名前を出されて、夏希はドキンとした。


「そっ、それって・・」


「まあ、志藤ちゃんもね。 そんなんやったのも理由があったんやけど。 今の彼とはぜんっぜんちゃうかったよ。」



いったい、何が・・



夏希は聞きたかったが、すごくデリケートなことのような気がして聞けなかった。


「すっごくいいダンナさんで、いいお父さんって感じですけど。」


「ウン。 今はようやく落ち着いて。 10年もったし?」


南はいたずらっぽく笑った。


「ゆうこってめっちゃ尽くすし。 仕事辞めてからは、子育てして、志藤ちゃんの面倒も見て。 管理職になった彼を気遣って部下たちを家に呼んでゴハンごちそうしたり。 妻の鏡、と言うか。 あの男が会社で好き勝手にやってられるのもゆうこのおかげやし。」


夏希は昨日受けたゆうこの印象と寸分変わらないことを南が言ったので、思わず頷いた。


「でも、つきあってもないのに、子供ができちゃって。結婚ってできるんでしょうか、」


夏希は食後のコーヒーにミルクを入れて、スプーンでぐるぐるとかき回した。


「ま、普通はでけへんて。」


軽く笑い飛ばされた。



だけど


本当に幸せを絵に描いたような家庭だった。


奥さんの実家の近くに家も構えて。


本部長は奥さんのことを本当に大事にしているみたいだった。



「ま、加瀬にはわかんないか。 大人ってな、いろいろ複雑やねん、」


そう言われて、少しムッとして、


「いちおう成人してるんですけど??」


ジロっと南を睨んだ。

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