第4話 浅草(4)

「パパ、これわかんない。 やって、」


ひなたが宿題を志藤のところに持ってきた。


「おまえ、やって、やないやろ? 教えてって言うのが正解やん。 ほんまに、小学校4年にもなると算数も難しいなあ。」



小学校4年生。


10歳か。



夏希はボーっと考えていた。



『この部署は10年前に志藤ちゃんが大阪から来て立ち上げたの。』



入社してすぐ南に言われたことを思い出した。


え?


普段はそんなにピンとこないほうなのだが、夏希はハッとした。


「あ、そっか。 わかった! ありがと!」


ひなたは走って部屋に戻ってしまった。




「本部長・・東京に来て10年てききましたけど。」


「ああ、そう。」


「ひなたちゃんは10歳ですよね、」


「うん、そう。」


「てことは・・」



志藤は夏希を見て笑って、


「お察しの通り。 できちゃった結婚です。」


と言った。




じゃなくて!


来てすぐですかっ!


ってそこに驚いてるんですけど??



志藤はまたもそんな夏希を見てぷっと吹き出した。


「出てる、出てる!」


頭のてっぺんを指差した。


「えっ!?」


また驚いて頭を押さえた。


ゆうこも夏希の素直さに笑いが止まらずに、


「また、ダダモレ?」


と言った。



志藤は笑いながら、


「おれら、知り合って6ヶ月で結婚決めたの。 そん時はもう、彼女妊娠3ヶ月目だったから。」


そう説明した。



「はっ・・」


計算は苦手だが。


それが


とてつもない


スピードだということくらいは夏希にもわかった。



「もう、改めてそんなこと言われると恥ずかしい、」


ゆうこは志藤を小突いた。



なにソレ。


え、


結婚ってそんなに簡単?


で、


10年間で子供が5人???



恋さえも


まだまだ初心者の夏希には、


理解しがたいことばかりだった。


「加瀬さん、よかったら夕飯食べて行きませんか? 時間も時間だし、」


ゆうこは時計を見て夏希に言った。


もう6時半を過ぎていた。


「おまえ、これから仕事戻るの?」


志藤が聞くと、


「帰って来いとも言われてないし、帰っていいとも言われてません、」


自信なさげに言った。


「なんや、それ。 ま、ええやん。 おれがいいって言ったらいいんだから。」


また


無敵の笑顔でそう言った。



本部長って


不思議な人だなあ。


優しいのか冷たいのかよくわかんなくって。


冗談なのか本気なのかもよくわからない。


相手の目をジーっと見て話をするし。


こっちが恥ずかしくなるくらい。


んで。


この笑顔がすっごく


心を掴まれると言うか。



サイドボードには家族で撮った微笑ましい写真がたくさん飾ってある。


子供たちを愛しそうに抱っこして。



いいお父さんなんだなァ。


会社では


若い女の子にちょっかいばっか出してるけど。


話が上手くて。


南さんの話じゃ、いまだに合コン行ってるとか言うし。



今までつかみ所のなかった志藤の一面が見えてくるようだった。



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