第3話 浅草(3)
しっかし
この子供の数じゃなくて。
オドロキなのは
この奥さんだ。
夏希は手作りのケーキを出してくれたゆうこをじっと見てしまった。
「お口に合うかわからないけど。 アップルケーキなの。 どうぞ。」
「あ! 何でも合いますから! この口は・・」
夏希は元気に言った。
ゆうこはそんな夏希を見てクスっと笑い、
「元気でおもしろい人ね、」
志藤を見やった。
「ああ。馬力だけはあるねんけどな。 頭がついていかへんねん。」
この
ホストNo.1のような本部長に
何とも言えない透明感があって、すっごい美人じゃないけど、優しそうで可憐で。
こんな奥さんがいたなんて。
そのギャップに激しく驚いていた。
「でも、芦田さんがいらっしゃらなくなったら取締役のポストも空いてしまうし、大変ですね、」
ゆうこは志藤に言った。
「まあ、人材はいるけどね。」
「真太郎さんも忙しくなりそうですね、」
会社のことに
詳しいんだなァ。
凛太郎にケーキを食べさせてやりながら、
そんな風に思ってポカンとしていると、
「ああ、ウチの奥さん、元北都社長の秘書なの。」
それを察して志藤が言った。
「社長の・・秘書、ですか。」
意外なことを言われて驚いた。
「私は秘書と言うより、家政婦みたいなもんでしたから。 そんなにテキパキ仕事もできなかったし。」
ゆうこは笑う。
「社内恋愛ですかあ・・」
「おれも事業部の本部長になる前は秘書課にいて、ジュニアと一緒に仕事してたから。」
「へええええ、」
色んな意味を含んで頷いてしまった。
「おまえが今考えてること当ててやろっか。」
志藤は笑った。
「えっ?」
「なんでこんなホストみたいな男に、こういう奥さんがいるんだろって。」
ドキンとして、頭のてっぺんを押さえた。
「???」
その突飛な行動に志藤もゆうこもきょとんとした。
「でっ、出てましたか?? ここから!」
その意味がわかって、二人は大笑いした。
「おまえ、ほんっと。 わけわからんて。 ほんま頭のてっぺんから思考ダダモレやったで。」
「よく言われますから。 『えっ! 志藤さんの奥さんですか!?』って。」
ゆうこもにっこり笑う。
「い・・いえ! あのほんっとお家もステキで。 花がキレイ・・」
夏希はどうしていいかわからず、話をそらすように言った。
「彼女の趣味。 一応、フラワーアレンジメントの講師の資格も持ってるし。 結婚してからもしばらく仕事続けてたんやけどな。 2番目の子供妊娠してた時、経過が良くなくて仕事辞めてしまって。 それからは花を趣味にして。 子育てに専念してる。」
志藤が説明した。
「そうなんですかあ。 でも、5人もお子さんを育ててて、えらいですねえ・・」
夏希はヘンな感心をしてしまった。
「実家が近所なんです。 一人で子育てなんて偉そうなもんじゃなくて、いつも母の助けを借りています。」
「実家、」
そこで
なぜ
この本部長が
彼とはかけ離れたイメージの『浅草』に住んでいるのかがようやくわかった。
「彼女は浅草生まれの浅草育ちでね。 ほんっと、おれもここに住むようになってからカルチャーショックっていうか。 おれの地元の京都と全然違うし。 今は慣れたけど。 もう10年かあ・・」
志藤は思い出すように懐かしげに言った。
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