増援
–––––やめて!
–––––子供を、犠牲にしないで……!
そんな声が聞こえ、レギオは目を覚ました。
自身を串刺しにしている杭を口で引き抜き、立ち上がる。
体はまだ睡眠を欲しているが、戦闘はまだ終わっていないという根拠のない感覚がレギオを動かしていた。
ソルティアムウォールの展開を解除させる。
そのモニターに映し出されたのは、バラフミアの大艦隊が超兵器に特攻していく異様な光景。
だが、レギオの頭の中には不思議な声が響いてくる。
誰かの悲鳴。
それは、子供の悲鳴。
特攻していく艦艇の中身のようだ。
そして、炉心そのものの悲鳴。
長い時を一つの使命に縛られ生きてきた種族の末裔が、何よりも望まなかった結末に嘆く悲鳴。
それがタルギアに立ち向かい、最後にここまで追い込んだ敵の正体らしい。
なぜこんな言葉が聞こえてきたのかは不明だが、眠りについたところを叩き起こす程度にはうるさい。
レギオは声が聞こえてくる超兵器から、艦隊の方に目を向ける。
何をしているのかについての詳細は不明だが、古代文明の超兵器には機動に際し厳重な封印が仕掛けられていることが多い。
あの超兵器の詳細は不明だが、頭に響く声の主は特別な力のある種族なのだろうというのは、これまでの戦闘に起きた不可解な現象の数々で証明できる。
起動に際する条件に触れずに力を引き出すことができるとか、条件を満たさずに起動できる特権を有する種族なのだろう。
そう考えると、あのバラフミアの艦隊は超兵器を無理やり起動させるべくその条件を満たそうとしている。この状況と響いてくる声を鑑みるに、そのような推測を立てられる。
正規のバラフミア軍であれば、ここに来れたことと封印を解除する方法を知っていたと仮定するならば、この超兵器を手に入れてなければおかしい。
カミラース星系に彼らが辿り着いたのは、ルギアス艦隊よりもかなり前の段階なのだから。
ということは、可能性は一つ。
「革命軍か……」
マクスウェルほどの男が、自分たちが戦えなくなったからといって早々に諦めるとは考えられない。
オリフィードの次元転移機構を備えた艦隊ならば、ここに戦力を送れる手段を有しているはず。
アルフォンス艦隊に関しては未だに残存戦力が多数残っていると思い違いをしているレギオは、事実とはかなりかけ離れているが結果的には革命軍という正解にたどり着いている憶測より、シェグドアの艦隊を次元転移機構を手に入れてやってきた革命軍と判断した。
そして、レギオはすでにマクスウェルから彼の目指す革命とその犠牲に対する考え方を聞いている。
「体制の変換などという些事を成すために、国家の臣民……それも子供に犠牲を強いるか」
シャイロン星雲も、いずれ帝政クラルデンの支配下となる時が来るかもしれない。
その時、彼らの子供達は皇帝の臣民……すなわち、クラルデンの庇護されるべき臣民であり宝となる。
「軍人ならばいざ知らず、民間人に犠牲を強いる革命を、許容できるとでも思っているのか?」
それを無為に浪費する革命軍のやり方を、帝轄軍の軍帥としてレギオは許容することなどできない。
タルギアにまともな艦隊戦を行える力は残っていないが、それでもレギオは立ち向かう決断をして立ち上がる。
軍人とは–––––国家の敵を倒す鉾であり、国家の財産を守る盾である。
それが皇帝であれ、臣民であれ、国民であれ、貴族であれ、国を形成する「人」ならば、かけがえのない財産である。
例え仕える国が違えど、例え種族を違えていたとしても、掲げる旗をを違えていたとしても、軍人ならばその使命に変わりはない。
「……行くか」
誰かに聞こえるはずもない、呟き。
だが………
『
返答が、聞こえた。
「!?」
その時のレギオの顔は、おそらくこの様々な不確定要素が入り乱れた戦役において、それでも最大の驚愕を浮かべた表情だった。
『遅参の件、誠に申し訳ありません軍帥』
『この失態は戦闘にて返上致します!』
タルギアの後方から、多数の次元峡層が形成され、その中から来るはずもなかった増援であるルギアス艦隊の姿が現れた。
数は50隻。輸送艦を含めない革命軍の戦力と互角の数である。
『ルギアス7番艦隊並びに14番艦隊』
『以後、軍帥の指揮下に入ります!』
モニターに出てきたのは、7番艦隊の司令官ムズルと、14番艦隊の司令官ワイズだった。
≡≡≡≡≡≡≡
デーヴィット艦隊との決戦に参加しなかったこの2つの艦隊は、オリフィードに集結した艦隊に一足遅れてその宙域に到着した艦隊である。
その時すでに集結していた艦隊はリフレクター・バスターから逃れるために退避を終えており、彼らが到着した際にはもぬけの殻となっていた。
オラフスへの先発行動の際にはメゼロにちゃっかり付いてこられ、やる気が空回りしており何の活躍もできていなかったムズルとしては、この戦場が既に終わったものと判断して急いで次の戦場に向かおうとしていた。
「また出遅れた!? これ以上はまずい、急がねば!」
『味方艦隊の姿がない中で勝手に動くのはよせ』
暑苦しいムズルに対して、呆れ気味なワイズは落ち着かせようとしたが、ムズルはたまたま見つけたシェグドア艦隊に目をつけてそちらに勝手に移動を開始する。
ワイズも遅れるわけにもいかず、それに巻き込まれる形で[レステネー]の軌道に向かうことになった。
だが、シェグドア艦隊は直前にマクスウェル艦隊と合流するべく移動。
2つの艦隊は、またももぬけの殻となった宙域に空間跳躍を果たす。
「今度はどこへ行った!? 探しだせぇ!」
『勝手に動き回るのはやめろ』
「遅れをとるわけには行かんのだあ!」
なんだかんだで彼らはタイミングよくシェグドアに引き離されながら、それでもしつこく彼らの艦隊を追いかけ回し、最終的に突然爆発的に数の膨れ上がったシェグドア艦隊をそれでも追跡して、そしてここまでたどり着いたわけである。
メッザニアに行ったり、オリフィードに行ったり、かなりあちこちを動きまわったが、それが逆にムズルの闘志に油を注いで、次元転移でしか来られないこの空間にまでしつこく追いかけ回す結果となった。
帝政クラルデンは空間跳躍を主として活用しているが、次元転移機構を用いる艦艇も少なくはない。
艦載機を飛ばす用の母艦の次元転移機構で、無理やり艦隊をこの空間に飛ばしてきたというわけである。
≡≡≡≡≡≡≡
『……という次第で、ここまできました! 軍帥と合流できるとは』
『ともかく、あのバラフミア艦隊が敵であることは明白。攻撃を開始します。軍帥、指揮を』
『ワイズ、てめえ! 俺のセリフを遮るな!』
『先陣いただきます。攻撃開始!』
『抜け駆けすんな! 遅れをとるな、てめえら突っ込め!』
軍帥の命令を聞く前に、勝手に判断して攻撃を開始している。
敵も応戦をしているが、数で互角の戦力であるならば個艦性能の上回るクラルデンの攻航艦が押し込めるだろう。
1人で抱え込むな、か。
出陣前夜にニコルに向けた言葉が、自身に帰ってきた。
現状のタルギアでは、あの艦隊に勝ち目はなかった。
「人の和、か……」
1人で戦える戦などない。
いつしか、祖父の教えを自ら無視していたらしい。
この場は増援の力を借りるとしよう。
タルギアの操舵桿を握りしめ、レギオは再び白銀の艦艇を動かし始めた。
≡≡≡≡≡≡≡
「やっぱり、最後まで障害がありますねぇ」
こめかみを人差し指で叩きながら、増援に来たクラルデンの艦隊を見て、シェグドアはそんな言葉をこぼした。
アストルヒィアを利用して、クラルデンを利用して、バラフミアを弱らせ、カミラースから一掃して、貴族の子供を排除しガイルの炉の起動に王手をかけた。
だが、この隔絶した空間であれ、何かを成そうとすれば必ずと言っていいほど様々な障害が入る。
そして、その障害というのはいつも最後の最後が1番大きい。
機動艦隊で、数において互角のクラルデンの艦隊を迎え撃つ。
まともに正面からやり合えば勝ち目のない戦力差。
シェグドアとしてはこんな事態も想定していたからこそ、保険としてバラフミア軍が残した兵器を持ち出してきたが、デーヴィット艦隊に配属されていたクラフト・バスターを破壊されていたのは大きかった。
戦力は十分とは言い難い。
それでもやるしかない。
「まあ、乗り越えてみせますよ。革命の障害は、予想外で大きいのが立ち塞がるものでしょう」
次元転移システムを機動させ、母艦に配備されている各艦載機の発艦準備を進める。
「ガイルの炉を支配下に置けば、我々の勝利です! 奮戦せよ、革命軍! 次元転移システム、起動!」
艦載機を次元転移でクラルデンの艦隊に直接送り込む。
バラフミア王朝軍が早々に敗退したカミラース星系で、この戦役の発端となった革命軍と、誘われたクラルデン軍の、ガイルの炉をかけた最後の戦いが幕を開けた。
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