空間跳躍
亜光速誘導弾に搭載したカメラが送った映像記録。
そこに映されていたのは、オリフィードに駐屯するバラフミアの艦隊の姿。
そして、機動艦隊だろうか。惑星強襲用の母艦に、アストルヒィアの母艦が搭載している次元転移機構が見えた。
テュタリニアを巡る攻防戦において、バラフミアが拿捕したアストルヒィアの艦艇と、次元転移機構を持ち出してきた。
おそらく、それでアストルヒィアの無人となった艦艇がオラフ41にいたのだろう。
アストルヒィアの艦艇を置いていたことといい、レギオがオラフ41に艦隊を出して来ることを想定していたのかもしれない。
艦載機の奇襲攻撃によって戦死した者たちの名簿と棺を見てから、レギオは無言で目を閉じて、彼らに向かって一度礼をした。
まだ戦闘は終わっていない。
次の攻撃が来るまでに、オリフィードに対し攻撃を仕掛けることに決定した。
映像から解析したところ、オリフィードの駐屯部隊は100隻からなる艦隊である。おそらく、死角となる箇所にいた艦艇も含めればそれ以上だろう。
1番艦隊の現在の戦力では、オリフィードの駆逐は不可能である。
亜光速誘導弾による攻撃に効果があったとしても、最低でも70隻以上は残っていると想定し、レギオは戦闘継続が困難となったり、ある程度損害を受けた艦艇を撤退させた。
そして、オラフ29に展開していた各艦隊に回線を繋げ、3番艦隊・8番艦隊・9番艦隊・11番艦隊の4個艦隊の戦力に現在の1番艦隊の残存戦力を加えた艦隊を以って空間跳躍を敢行し攻撃を行う事とした。
その際、先遣艦隊に混じって勝手にオラフ29にメゼロが出てきたことが発覚。
ムズルからそのことを聞いたレギオは、溜息を零した。
「……メゼロ」
『は、はい……』
「罰として、本戦役終了まで貴様の11番艦隊司令の任を解く。11番艦隊所属の各艦艇は1番艦隊に組み込む。以上」
『
これ以上、敵に見つかっているオラフ41に駐留する理由はない。
僅かに残った艦隊をまとめ、レギオは空間跳躍の座標をオリフィードに設定させる。
「これより、オリフィードに向かう。バラフミア艦隊のおそらく主力部隊がいると思われる戦場だ。気をぬくな」
「空間跳躍地点、オリフィードに空間接続完了」
「3番艦隊、8番艦隊、9番艦隊、11番艦隊、空間跳躍の陣に入りました」
「空間跳躍」
クラルデンの二つの空間を繋ぎ開く無限であり、ゼロである距離の回廊を強行突破する瞬間移動機構。
空間跳躍。
それにより開かれた二つの空間をつなげる円に、タルギアは加速して飛び込んでいった。
入るときはどうあれ、出るときは何故か時計回りに回転して目的地に出現する。
帝政クラルデンで開発された特徴的なテレポート航法技術、空間跳躍を用いてオリフィードに出てきたクラルデンの艦隊は、4個艦隊107隻。
11番艦隊については、一時解散し1番艦隊の指揮下に入っている。配下の艦隊指揮を放置して勝手にオラフスの前線に旗艦だけで移動してきた剽軽な艦隊司令に対する罰である。
カミラース星系に眠ると目されている古代文明の遺跡があると思われる、第3惑星オリフィード。
そこは今回の任務の第一目標確保のための目的地と言える場所であり、同時にカミラース星系に展開するバラフミア艦隊の本拠地と言える場所である。
先ほどの亜光速誘導弾の攻撃によるものか、それとも古代文明の遺跡の多くに仕掛けられているトラップによるものか。
亜光速誘導弾から得た映像データでは100隻はいるとみていたバラフミアの艦隊は、しかしわずか20隻程度しか残っていなかった。
その代わりというように、敵残存艦隊を上回る大量の残骸が漂っている。
「前方、敵艦隊確認!」
『……少なくない?』
ニコルが想定と違う敵艦隊の姿に、疑問の声を上げる。
先ほどのアストルヒィアの艦艇のような廃棄された存在かもしれない。
発生した次元峡層を警戒して退避したという可能性もある。
あからさまに弱り切っている艦隊。
油断して叩こうと近づいたところを猛反撃、挟撃、増援による包囲殲滅。
様々な想定ができるが、いずれにせよレギオは亜光速誘導弾が挙げる戦果を牽制程度にしか認識していなかったため、目の前の本当に壊滅状態の艦隊を囮と断定した。
「餌ということか……」
『……如何するの?』
「本命の登場前に、背中を撃ち抜きやすくなる位置に陣取る可能性が高い艦隊は最優先で消すことが賢明だろう」
レギオは瀕死の敵艦隊を過大評価し、容赦のない命令を出した。
「敵増援に備え、さらに7番艦隊並びに14番艦隊にも空間跳躍にてオリフィードに展開するよう命令を出せ。1分で駆逐するぞ。攻撃開始」
降伏勧告を発する間も惜しいと、問答無用で圧倒的に勝る戦力を持ってバラフミアの残存艦隊の殲滅に踏み切った。
100隻以上の艦隊の一斉砲撃に、バラフミアの20隻の残存艦隊、しかもその半数近くが戦闘不能という虫の息の艦隊が晒されれば如何なるか。
最初の一斉攻撃で行動不能艦も含め、14隻が撃沈。
幸い、クラルデンの攻航艦の主砲であるトイ・ロールガンは、回転砲座を用いた連射性に優れる代わりに命中精度が低い特徴を持つ砲であったこと。
そして壊滅した艦隊の残骸が、盾の役割を果たしてくれたこと。
この二つの要因があったから、ハルコルのツラファントを含めたわずかな艦艇は生き残れた。
だが、幸運もここまで。
「前衛、攻航艦突撃!」
レギオの命令により、クラルデンの攻航艦が直接残る艦隊に狙いを定めて突撃してきた。
瀕死の艦隊という本当の姿ではなく、この艦隊を囮として見ているため、その攻撃は容赦のかけらもない。
たった6隻、そのうち一隻は航行不能の艦隊めがけて、攻航艦が30隻以上で突撃してくる。
トイ・ロールガンの砲撃の嵐により、駆逐艦一隻が瞬く間に撃沈。
軽巡洋艦が反撃をするが、たった1発撃っただけで次の瞬間には蜂の巣にされた。
虚しい反撃は宙に消え、さらに航行不能の駆逐艦が攻航艦の砲撃により撃沈する。
残るは巡洋戦艦1、駆逐艦2。
挽回を狙うメゼロのユピリカ級攻航艦[メメゼロロン]が先頭となって突撃していく。
『さらに一つ!』
駆逐艦1隻が撃沈。これにより残る敵艦は2。
このまま片付け、来るだろう増援の艦隊を迎え撃つ。
手柄を競う前衛に任せ、その艦隊戦の準備を進めるレギオ。
その時、残る艦艇がわずか2隻になったところで突然敵艦が武装放棄宣言のコードを飛ばしてきた。
『攻撃中止!』
8番艦隊司令であるシトレの号令により、攻航艦の攻撃が止む。
敵の増援も確認できない。
そして、たった2隻にまで追い詰められた艦隊は白旗を上げた。
「オリフィードの制圧を完了。7番艦隊は合流後、周辺宙域警戒任務に当たれ」
さすがに、降伏宣言をした相手に砲火を向けては軍人の汚名となる。
バラフミアの増援が来る気配がないことを確認したレギオは、オリフィードの制圧を宣言し、一時戦闘停止命令を発した。
≡≡≡≡≡≡≡
降伏宣言。
クラルデンには、降伏した敵を戦死したほうがマシだと思える目に合わせる狂気の軍帥がいる。
そんな話を聞いたことがあったハルコルは、たった2隻に追い込まれるまで白旗のコードを打つのを躊躇ってしまった。
結果、微かに残っていた艦隊はさらにその数を減らした。
空間跳躍でクラルデンの艦隊がその主力の姿を現した時に発していれば、少なくともあんな蹂躙をされることはなかった。
悔やんだが悔やみきれない。
ほんのわずかな間に行われた次元峡層を介した戦闘で、ハルコルはほとんどの戦友たちを宇宙の塵に変えられてしまった。
「クラルデン艦隊が白旗を受け入れました」
「そうか……」
しかし、仇を取ろうという気力さえ奪われた先ほどの容赦のかけらもない蹂躙。
それから解放されただけでも、ハルコルは一つの緊張から脱したことによりその場にへたり込んだ。
「勝てるわけない……」
しかし、白旗を上げて終わりなはずはない。
敗者に向けた勝者の要求がある。
当然のごとく、敵の旗艦と思われる未確認艦級のおそらく大戦艦クラスの艦から通信が入った。
それに応じるべく、ハルコルは立て直す。
「回線を、接続してくれ……」
噂の軍帥が出てくれないことを祈る。
そんなことを強く願っていた彼の眼の前、ツラファントの操縦指令室の大画面に出てきた。
『貴艦隊2隻の降伏宣言を受諾する』
二つのねじ曲がって伸びたツノと、青白い肌。
映像に出てきたのは、クラルデンの中核を担う種族である、惑星トランテスを起源とする戦闘種族と名高いトランテス人だった。
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