逆転
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オリフィード。
それは、古代文明の遺跡が存在するカミラース星系第3惑星のバラフミアが命名した星の名前である。
そのオリフィードには、カミラース星系に眠るといわれている古代文明の超兵器を手にするために、アストルヒィアの拿捕艦も動員した311隻の艦隊が展開している。
その本隊であるヴァゼラード級航宙戦艦[ユトランド]を旗艦とした艦隊は、遺跡調査のために来ていることもあり、情報の流出したクラルデンの出兵は警戒していたものの、戦闘陣形とは言えない密集した艦隊配置をしていた。
仮に、ルギアス艦隊が全艦艇を持ってオリフィードに出てきたとすれば、数で優っている分、対応が遅れるバラフミアの艦隊を圧倒できたかもしれない。
戦場の過ぎたことを持ち出して、たらればの話をしたところで、一度なされた選択は変えられないだろうが。
そして、先ほどユトランドにクラルデンの艦隊が古代文明の遺跡や超兵器とは関係の無いと思われる第7惑星オラフスに出現したという報告が入ってきていた。
それはバラフミアが発見したというよりは、オラフス周辺に廃棄していたアストルヒィアの拿捕艦が、クラルデンの1番艦隊の攻撃で反応が消えたことを不審がり確認した結果だった。
クラルデンも内惑星系を狙うと考えていたバラフミア側にとって、オラフスへの空間跳躍は想定内であり、発見はまさに偶然だった。
次元転移システムによる奇襲も含め、アストルヒィアとの戦争があったからここにたどり着いたとも見れる、偶然の敵の発見から成功した奇襲攻撃といえた。
遭遇した艦艇がアストルヒィアだったことから、クラルデンの艦隊はバラフミアではなくアストルヒィアを想定した防御行動に移った。
艦載機を使った奇襲攻撃を敢行したバラフミア側にとって、そのクラルデン側の行動は想定以上の打撃を与える結果となった。
オラフ41に展開したルギアス1番艦隊は、100機以上の艦載機による第一次攻撃により、全26隻中5隻が撃沈、8隻が大破、4隻が中破という被害を受ける。
ユトランドを旗艦とするバラフミアの艦隊を率いるアルフォンスは、クラルデンの残る艦艇を駆逐するべく、第二次攻撃隊の発艦準備を進ませた。
だが、第二次攻撃のために大量の無人艦載機にありったけの対艦装備をさせていたところに、その攻撃は唐突に訪れた。
「敵はすでに虫の息だ、この第二次攻撃隊でケリをつけるぞ!」
号令を出すアルフォンス。
そんな中、ユトランドの索敵システムにそれは唐突に現れた。
「前方に次元峡層……?」
ユトランドがとらえたのは、突如として前方に発生した本来交わることの無い異次元の狭間である[次元峡層]が出てくる反応だった。
「アルフォンス司令」
「なんだ?」
念のため上官に報告しようと、アルフォンスに声をかける。
一通り催促と叱咤をし終えたところだったアルフォンス。
「前方に次元峡層の反応があります」
「バカを言うな。次元転移の予兆でも無いのに、そんな自然で起こりえないこと–––––」
アルフォンスが取り合ってくれず、一笑に付そうとした。
–––––その時だった。
それは、本当に目の前にいきなり次元峡層の中から現れた。
その存在を感知し解析した索敵システムが、画面に「クラルデンの亜光速誘導弾が前方に多数」という表示を出した時。
それを見る間もなく、加速した亜光速誘導弾はユトランドの艦橋を白い光で覆う。
それが爆発によるもので、先ほどの亜光速誘導弾の大群がクラルデンの反撃だと。
アルフォンスたちがその事実を判別できたのは、既にあの世に旅立った後のことだった。
直撃を食らったユトランドが爆沈する。
それだけではない。亜光速誘導弾が狙ったのは、バラフミアの艦隊。
その多くの空母らは、第二次攻撃隊として艦載機に大量の対艦兵装を施した直後だった。
そんな爆弾が大量に無防備な状態で晒されている中に、ミサイルが撃ち込まれたら。
それは。容易に想像がつく。
次元転移を用いた一方的な攻撃を展開できる。
そう、たかを括っていたバラフミアの艦隊は、クラルデンが反撃することを想定しておらず。
大量の兵装を抱えた艦載機は、空母の中に無防備にさらされていた。
その空母にも、クラルデンが衛航艦をつけるような盾を用意していなかった。
結果、ただ一度の逆探知による反撃を受け、艦載機の装備の誘爆に巻き込まれるのも含め、艦隊が密集していたことも仇となり、本隊の100隻以上からなる艦隊のほとんどが宇宙の藻屑とされてしまった。
その反撃から起きた、味方艦艇や艦載機への誘爆。
それによる被害は非常に大きく、旗艦ユトランドをはじめとする本艦隊戦力の8割、80隻以上の艦艇が失われてしまった。
オリフィードに駐屯していたバラフミア軍は、一気に全滅に等しい損害を被ってしまったのである。
残った20隻の艦隊も撃沈の難を逃れたというだけであり、半数近くが戦闘不能に追い込まれていた。
アルフォンスらが死体も残せずに戦死した他、艦隊の中枢の指揮官たちはこの大爆発に巻き込まれて全員が既にこの世にいない。
バラフミアの本隊であるオリフィードの駐留艦隊。
先程の攻撃で壊滅状態となったその残存部隊の最上級士官は、ヒストリカ級航宙巡洋戦闘艦[ツラファント]の艦長であるハルコルとなった。
「……味方の損害は?」
背中を椅子に打ち付けたハルコルが立ち上がる。
幸い、痣にもならない程度のもので済んだようである。
不幸中の幸いか、巡洋艦クラスにおいては最大の等級であるヒストリカ級のツラファントは、ほぼ無傷だった。
機動部隊や旗艦がいた箇所からかなり離れた場所に配備されていた、距離的な幸運からである。
そしてツラファントの艦長であるハルコルは、アルフォンスの側近の1人であり、艦隊の作戦立案にも関わる立場にあったことで、20隻程度の艦隊指揮ならば取れる能力を持つ人物だった。
そんなハルコルが艦長を務めるツラファントが、なぜ旗艦から離れたところに展開していたのか。
それは、ハルコルがとある理由からアルフォンスの不興を買っていたからである。
ハルコルは、超兵器入手に反対する立場だった。
サメット艦隊を失ったバラフミアは、超兵器に依存しすぎたことで容易な補充のきく通常戦力をおろそかにしすぎていた。
兵器や艦艇の質だけではなく、それを扱う戦術なども含めた全てが。
それを改善するべく、超兵器の入手よりも通常戦力の増強を進めるべきだと、ハルコルは主張していた。
アストルヒィアから得た次元転移技術を用いた戦術案を提案していたのも、ハルコルである。
しかし、超兵器を頼らない戦術を発展させようとしている立場のハルコルに、アルフォンスは反論を取り下げるように警告。
それをハルコルが無視したため、今回の作戦の艦隊中枢から外し、僚艦どころか警邏艦に降格させていたのである。
それによる配置。
皮肉なことに、自らが進言して手柄とした戦術に艦隊を壊滅させられ、反論して降格された配置にハルコルは命を救われた。
旗艦を含め、当艦隊の8割以上の戦力が失われており、残存艦艇20隻も戦闘可能なのはわずか13隻のみ。無傷なのはツラファントだけ。
この現状の艦隊戦力の報告を受け、ハルコルは大きく息を吐いてから次の事項を尋ねた。
「現残存戦力の最上位士官は?」
「ハルコル艦長です。軍務規定により、一時的に残存艦隊20隻の艦隊司令官代理となります」
「そうか……」
アルフォンスたちが生きていないのは明白だが、艦隊の中枢を担う将たちは全員戦死してしまったらしい。
自分が艦隊司令官代理となったことで、そのことを認識したハルコルは、再三の進言を受け入れてくれなかった上官たちの死に、嘆けばいいのか笑えばいいのかわからなくなり、ただ短くそう呟いた。
だが、どちらにせよこの艦隊の指揮を引き継いで、残存艦隊をなんとか安全圏に撤退させなければならない。
そう判断し行動に移そうとしたところ、突然索敵システムが何かを感じった。
「空間が歪んでいる……? いや、これは! 空間跳躍の予兆を感知!」
「ッ!?」
索敵システムに出た反応は、空間跳躍の予兆。
つまり、クラルデンの艦隊がここに来る証だった。
「ま、まずい……!」
現状の戦力で対抗できるとは思えない。
戦っても無駄と判断したハルコルが撤退命令を出そうとする。
だが、それよりも早く無数の異なる宇宙のどこかと繋がる縁が渦を描くように広がり、一つの道を持たない境界の通路が開かれる。
その中を煙を突っ切るように、次々にクラルデンの艦艇が回転しながら出てきた。
10……20……30……40……。
「これが本隊、ということかよ……!」
悪態つくハルコル。
その目が見る先には、107隻もの艦艇からなる艦隊がオリフィードを見下ろしていた。
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