戦術


「かん、さい、き……?」


 百機を超える艦載機は、次元転移により指定した座標に奇襲の形で出現した。

 それが先制攻撃と言わんばかりに、ガントレイド砲回避のために迎撃態勢を整えていなかった艦隊に多数のミサイルを撃ち込む。


 レギオのとった陣形は、強力なガントレイド砲が相手ならばタルギアの機能を持ってそれを封殺し被害を出さないものだった。

 だが、次元転移の奇襲攻撃の原点、バラフミアが最新の技術と考えて繰り出してきた艦載機の攻撃には無防備な陣形だった。

 遭遇した対象がアストルヒィアの艦艇だったからこそ、敵をアストルヒィアと見てしまった。バラフミアがアストルヒィアの拿捕した艦艇を使っているというところまで考えが及ばなかったが故の、判断ミス。

 陣形を変えていなければ、逆に艦載機の奇襲の被害は抑えられただろう。


『バロート被弾!』

『何でバラフミアの艦載機が!?』

『テブリシカとエンダートにも直撃!』

『こちらダルタニャン! 敵の攻撃で機関を損傷、このままでは爆沈します!』

『消火作業急げ!』

『まずい、プラズマ・カノン砲をやられた! た、退艦しろぉ!』


 味方の混乱する通信が錯綜し、それによりレギオは何とか意識を戻した。

 やるべきことは敵に対する迎撃、のまえに救援活動を急がせること。この混乱を抑え、これ以上被害を出さないようにパニックになっている艦隊に命令を出し、収集させることにある。


「はっ……! 大破以上の艦艇の乗組員は直ちに脱出! 艦載機を出し救援活動! 戦闘可能な艦は対空戦闘により敵艦載機に対し迎撃行動を開始!」


 立ち直ったレギオの指令により、すぐに1番艦隊の各艦が行動に移る。

 今回はガントレイド砲ではなく敵艦載機による奇襲攻撃だったとはいえ、敵にガントレイド砲を有する艦艇がいないとは限らない。

 それに、艦載機はバラフミアのものという識別が出た。

 アストルヒィアとバラフミアは交戦中である。テュタリニアの価値を考えると、二つの勢力が手を結ぶ事は考えにくい。


「いや……」


 今は外交情勢の前に、敵艦隊を無力化し味方の被害を抑える事が先決である。


「ソルティアムウォール解除」


 艦隊の命令の次はタルギアの指揮。

 脱出ポッドを飲み込んでは部下を手にかけた将帥の風上にも置けない外道となる。ソルティアムウォールの展開を解除させる。

 そのままタルギアの舵を傾け、艦載機を飛ばすトトリエ級攻航母艦から離れるように展開する。


 まずは敵艦隊を叩き増援を封印する事から始める。

 次元転移を用いた奇襲の基本的な戦術は、既に先人達が編み出している。過去の軍人達が編み出してきた戦術は、確固たるもの。奇抜な戦術も確かに評価されるものだが、堅実に重きをおくレギオは余計な事を考えず、先人の遺産を参考とする。

 艦載機を飛ばすやり方は、魚雷やガントレイド砲など攻撃そのものを転移させる新たな方法が出てからも、使われている。

 それだけ有効な手段であり、そしてその対抗策も確立していた。


「次元転移座標を逆探知」


了解ですクァンテーレ!」


 クラルデンにおける次元転移奇襲攻撃の対抗策は、逆探知による敵艦隊に対する反撃という手法が取られる。

 既にアストルヒィアの次元転移機構のカラクリを解析、応用して自勢力に取り入れているクラルデンは、当然のことながら次元転移座標の逆探知も行える。

 それにより判明した敵艦隊に対し、同様に次元転移による艦載機による攻撃、または空間跳躍を用いた艦隊による直接的な反撃をするのである。


 レギオが無人艦艇を囮だと判断した要因であるヒルデがアストルヒィアに対して勝利を収めた戦闘も、これを利用したものだった。


 そして次元転移を用いた遠距離攻撃の先駆者であるアストルヒィアは、艦載機だけでなく、この攻撃手段を光学兵器やミサイルなどにも利用している。


 救援活動を優先している現状、1番艦隊の艦載機に余裕は無い。

 そこでレギオはこの二つの勢力の運用方法を組み合わせ、逆探知した座標にミサイルを送り込む事にした。

 艦載機と違い送れば敵に打撃を与え続けるわけでは無いが、対空戦闘や救助活動で艦載機が使えない現状、使えるものを使うしか無いだろう。

 ミサイルでも運用できるのは、アストルヒィアが前例を作っている。


「逆探知完了! オリフィード近郊!」


「逆探知した座標に、こちらの次元転移機構の座標を入力しろ。そこに亜光速誘導弾を送り込む」


「艦載機ではなく?」


「今の状況で使い捨てにできる艦載機は無い」


了解クァンテーレ!」


 当然、敵の艦載機はタルギアも狙う。


「友軍への誤射に注意しろ。対空戦闘開始」


 味方の収容が終わるまではソルティアムウォールの展開ができないため、艦載機の攻撃がタルギアの装甲に直撃すれば損傷を負ってしまう。

 連射性の高い回転砲座という特殊な形状をした砲が主流のクラルデンの艦艇は、トイ・ロールガンの性質により対空性能が高い。

 次元転移システムも混戦状態の戦場で使えるようなものでは無いため、艦載機の撃破を優先する。


 タルギアは軍帥専用戦闘艦。ソルティアムウォール無しでも、対艦ミサイルの十数発程度で沈められるような装甲では無い。


 レギオは味方艦艇と距離を取り、タルギアに搭載されているソルティアムウォールを最大限活用するために搭載していたロックオンシステムハッキング信号をバラフミア軍コードに設定して放った。

 このハッキング信号は、該当するコードの誘導兵器のロックオンシステムを全てタルギアに強制変更させるというもの。

 元より搭乗員のいない戦闘プログラムで動く艦載機である。

 ロックオンを乗っ取られて仕舞えば、他の艦艇を完全に無視してタルギアにハエのごとく集っていく。


「敵全機、こちらに向かっています!」


「釣れたな。ソルティアムウォールを1番から7番まで展開させる。展開が確認できたら、1番艦隊各艦は艦載機を殲滅しろ」


「了解!」


 旗艦に誤射する可能性を度外視したこの命令。

 しかし、ソルティアムウォールをすべて展開して仕舞えばそれは別である。


「動力機関より艦速機構を分離。タルギア停止」


「ソルティアムウォール、1番から7番まで展開します」


 タルギアに搭載されたソルティアムウォールが全て発動する。

 それは、防御の概念を覆した暗い盾の中に閉じこもることを意味する。


「ソルティアムウォール、展開完了。外界との隔絶を確認」


 その白銀の艦体は、宙の闇よりも暗い漆黒に包まれた。

 そこに艦載機がミサイルを大量に撃ち込む。

 しかし、その全てがソルティアムウォールに触れたそばから、その存在が消えていく。


 そして、タルギアがソルティアムウォールに閉じこもったのを確認した戦闘継続可能だったクラルデンの艦艇が、一斉に砲火を放ち艦載機を一方的に殲滅した。

 その火力は、タルギアにも誤射をする。

 しかし、その何一つもタルギアに届かない。


 やがて艦載機が駆逐された時、ソルティアムウォールを解除し白銀の艦体を再び晒した、展開前と全く変わらない姿のタルギアが出てきた。


「艦載機、殲滅を確認」


「次だ」


 敵の戦力が未知数である事には変わり無い。

 理由は不明だが、バラフミアが次元転移技術を得ている。ならば、艦載機による攻撃を一度でやめるとは思えない。


 これ以上後手に回り被害を拡大させてしまう前に、敵の次元転移機構を一つ以上潰す必要がある。

 レギオはすぐに次の行動に移るべく、命令を飛ばす。


「次元転移機構、座標の入力は?」


「完了しています」


「よし。亜光速誘導弾を発射する」


 タルギアが多数の亜光速誘導弾を発射、加速前状態で展開する。


「亜光速誘導弾の加速信号を伝達、受信と同時に次元転移を稼働し指定座標に送り込む」


「了解!」


 アストルヒィアの艦隊と次元転移機構。

 そしてバラフミアの艦載機。

 亜光速誘導弾には念のためカメラを設置している。

 この逆探知の先にいる勢力がどこであるかによって、カミラース星系にてルギアス艦隊が倒すべき敵がどちらであるかはっきりする。


 共倒れ後の兵器を拿捕したテロリストという線もあるが。


 考えすぎかもしれないが、可能性がゼロでは無い以上は、選択肢に含め対抗策を講じる必要があるだろう。


「……攻撃開始」


「亜光速誘導弾加速!」

「次元転移システム作動!」


 レギオの命令に、同時に返事を返したそれぞれの担当が、亜光速誘導弾を加速させ次元転移でオリフィードに飛ばす。

 着弾するか、しないか……敵勢力の正体を含め、それは映像が受信されてからで良い。


「負傷者の救護活動を急がせろ」


「了解」


 まずは、味方に出た被害を立て直す事から取り掛かった。



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