出征
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夜が明け、ルギアス艦隊は出陣の日を迎えた。
「夜明けか……」
首都星であるトランテスにおいてはすでに日中の時刻だが、ルギアス艦隊が駐屯している惑星ヴィオネラスでは夜明けである。
朝日を一瞥してから、レギオはヴィオネラス基準による五日間、不眠不休で編み出した出征予定のデータを持ち、タルギアの艦隊司令室を後にした。
今回の出征につくのは、27個艦隊で構成されるルギアス艦隊の1〜17番艦隊、艦艇総数431隻である。
時折艦隊司令や参謀達の意見も交えながら構築した第一段階の予定に関しては、すでに各艦隊司令に予め送っている。
今回の出兵の発端である、クラルデンにもたらされたテュタリニアの航宙軌跡の記録。
それによりカミラース星系の概要は確認している。
そこからデータを解析、惑星軌道の計算を行い、現状のカミラース星系の状況を割り出している。
カミラース星系に存在すると言われる古代の超兵器に関する情報。
これに関しては、カミラース星系における艦隊派遣の記録と古代文明の遺跡に関する伝承から、第3惑星[オリフィード]に存在する可能性が高いと予測されている。
主にバラフミアの艦隊は内惑星系を行き来していることを示すデータが、その航跡記録にあった。
オリフィード周辺から、内惑星系に関しては敵艦隊が多数集結している可能性が高い。
空間跳躍直後から敵艦隊と接敵することを避けるため、先遣艦隊は外惑星系に存在する第7惑星[オラフス]の衛星、[オラフ41]、[オラフ26]、[オラフ29]にそれぞれ1個艦隊ずつ空間跳躍を行い、可能な場合に拠点構築をして本隊を迎える事とした。
現在のオラフスの位置は、オリフィードに対して恒星であるカミラースを挟んだほぼ反対側にある。
ただでさえ液体の水を抱える惑星のない辺境の星系である。全ての宙域に敵艦隊が展開しているとは考えにくい。
オラフスの衛星を跳躍先に選択したのは、レギオが考えた中で最も敵が配備されている可能性が低い星と判断したことによる。
それでも接敵の可能性はゼロではない。
バラフミアもクラルデン側がカミラース星系に関する情報を入手したことは把握しているはず。警邏艦艇がオラフスなどに出ている可能性は十分にあった。
敵の戦力が未知数である以上、初手は危険を冒さずに進む。
先遣艦隊の編成は、オラフ41を1番艦隊、オラフ26を6番艦隊、オラフ29を7番艦隊が担当する。
いずれかの衛星に拠点を確保後、残る艦隊を随時カミラース星系に空間跳躍させる。
警邏艦隊との接敵があった場合は、拠点構築は他の艦隊に任せこれを直ちに迎撃する。
その後、現状のカミラース星系の情報を調査、敵の配置などを調べる。
–––––以上が、作戦の第一段階となる。
第二段階に関しては、カミラース星系の情報を集めてから方針を決定する事となっている。
可能性としては、オラフスに来る敵艦隊を一部の艦隊で迎撃。バラフミアをオラフス側に誘い込み、その隙にオリフィードへ戦力を送り制圧行動に移る、などを予定している。
あらゆる事態を想定して準備しているので、それにあたる行動で敵艦隊との戦闘に発展した場合の対応は可能だが、戦場には想定外のことも多くある。戦術パターンは製作したが、想定外の事態が起きた際にも対応できるようにしておかなければならない。
カミラース星系の制圧も任務の一つだが、最優先目的は古代文明の超兵器の確保にある。撤退する敵艦隊の追撃戦は余計な被害を生むため、無理に行うつもりはない。
この兵器はバラフミア内部のテロリストも狙っている可能性がある。バラフミアの調査員にも紛れ込むようなものたちなので、バラフミア軍に紛れ込んでいても不思議はない。テロリストに超兵器の発動権を奪われるようなことになれば、最悪の事態となる。
そのため、今回の出征に関して降伏した敵はカミラース星系からの退去勧告を行い、捕虜を取る選択肢は捨てることにしている。
レギオとしては、今回の出征の目的は超兵器を使用されないようにすることにしている。
決して、クラルデンが超兵器を手に入れるための戦いではない。
この超兵器によるクラルデンと、のちにクラルデンに下ることになるかもしれない人民の生命を守るためだ。それを巡って出す被害が、使われた時に出る被害に匹敵するようなことがあっては何の意味もない。
今回の出征では、無用な戦闘を極力避けることにし、場合によっては超兵器を破壊することにしている。
ルギアス艦隊作戦指揮所。
既に各艦隊司令たちとの通信が整った場に来たレギオは、カミラース星系を記した立体宙域図を背にして立ち、艦隊司令たちの顔色を見て回った。
全員、十分な休息はとれているようす。コンディションは、見渡す限りは良好だ。
レギオは強がりを見抜くのに長けている。何しろ自分が1番強がりというものをやっているから。
「休息は十分なようだな」
不眠不休のお陰で1人だけ顔色が悪い自分のことを完全に放置している。
言っても聞かないことはルギアス艦隊の面々は承知しているので、誰も返事をしない。
早速、レギオは作戦概要の確認を行うため、まず立体図にある第3惑星であるオリフィードを示した。
「既に承知していると思うが、改めて確認する。
作戦の第一目標はカミラース星系に存在するとされる古代文明の遺産の確保、または破壊。第二目標は宙域に展開しているバラフミア軍の駆逐だ。
第一目標に関しては、第3惑星に遺跡が存在する可能性が高い。クラルデンに流された航宙記録と、遺跡に関する伝承から検証した結果、バラフミアの主力艦隊は内惑星系に展開しているとみられる」
『そこで、未知数の敵戦力との接敵を避けるために外惑星系に空間跳躍の座標を指定する、と』
6番艦隊司令ベインの言葉に首肯する。
先遣艦隊の一角を担っているということで、気持ちが高ぶっている様子だ。
一番槍の名誉は、トランテス人にとって戦の花である。
あくまでも拠点構築のための先遣艦隊なので、一番槍というわけではないが。
次に、立体図のオリフィードから見て恒星であるカミラースを挟んだほぼ対極の角度にある第7惑星オラフスを示した。
「第一段階として、先遣艦隊は第7惑星オラフスの衛星三箇所に空間跳躍を行う。敵との接敵がなければ拠点を構築、バラフミアの艦隊がいた場合は他の艦隊に拠点構築を任せ、早急に殲滅しろ」
『降伏勧告は……必要ないな』
「本隊の到着前に敵の援軍を呼ばれては拠点構築どころではない」
警邏艦隊を放置すれば、敵の増援を呼び寄せられる可能性がある。
それを利用してオリフィードに他の艦隊の空間跳躍座標の変更をさせ、その戦力を持ってオリフィードの制圧を行うのも一つの手だが、敵戦力を把握していない段階ではリスクが高すぎる。最悪、分断された戦力を各個撃破されかねない。
そのため、オラフスの各衛星における接敵に関しては、敵に情報を送られる前に殲滅することを優先する。
「先遣艦隊は1番艦隊、6番艦隊、7番艦隊だ。担当はそれぞれ、オラフ41を1番艦隊、オラフ26を6番艦隊、オラフ29を7番艦隊とする」
『『
ベインと、7番艦隊司令官であるムズルが敬礼をする。
『一番槍は軍人の誉れ。7番艦隊に先遣を任せていただいたこと、感謝いたします』
『一番槍ではないけどね〜』
やる気をみなぎらせているムズルの言葉に茶々を入れたのは、11番艦隊司令であるメゼロだった。
戦闘民族の風潮が強いトランテス人に比べ、メゼロの口調は軍人からは離れている軽いものがある。
メゼロが他のトランテス人の艦隊司令と少し雰囲気が違うのは、その出自も関係している。
トランテス人とクラルデンにおける被征服種族の一つであるニファルナ人とのハーフであるため、母親の影響か軍人然とした態度ではなく飄々としたのが目立つ異質な存在だった。
しかし将帥としての能力は非常に高いものがあり、彼の父親が左丞相の昔の同僚だったこともあり、その推薦でルギアス艦隊に配属された。
しかしその剽軽な性格から茶々を飛ばすこともあり、他の艦隊司令の神経を逆なですることもよくある。
今回もムズルは看過できなかったらしく、怒りをあらわにした。
『メゼロ! またお前か、この半ケツ野郎!』
『ん〜? はいはい、またオイラですよ!』
『半ケツって、聞きちがえてくれと言ってるようなものだぞ』
『うるさい』
『レギオ軍帥の前で喧嘩をするな、みっともない』
他の艦隊司令たちが止めようとしているが、2人は聞く耳を持たない。
レギオは一旦作戦概要の確認を中断し、喧嘩をする2人とのみ回線を接続して一言発した。
「黙れ」
『も、申し訳ありません……』
『失礼しましたぁ……』
2人の艦隊司令の喧騒を沈めたレギオは、再度回線を全艦隊司令につなげる。
「第二段階の確認に入る」
第二段階に関しては、情報収集が主となる。
カミラース星系の現状やバラフミアの戦力を確認し、オリフィードに降下する機会をうかがうことになる。
敵戦力の総数や配置によって、艦隊線をどう展開していくかを修正していく予定だ。
『つまり、敵の概要を知るまでは動かないと?』
「情報如何によってはすぐに動くことになる。承知しておけ」
『
作戦の第二段階に関しては、カミラース星系に集結してからになる。
この現状で第三段階以降の確認をしても意味はない。
ここで一旦作戦会議は終了。
最後に、参加する各艦隊司令たちに言う。
「今回の作戦は陛下の勅命である。帝政クラルデンと陛下に忠誠を捧げろ。そして……任を全うし、生きて凱旋を果たせ」
一呼吸置き、レギオは艦隊に号令を発した。
「……出陣」
カミラース星系に向けて、ルギアス艦隊が出航した。
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