始動

 自由浮遊惑星テュタリニア。

 どこの恒星系にも属さず、広大な宇宙空間を不確定軌道で浮遊する特殊な星である。

 この自由浮遊惑星があるのは、シャイロン星雲の外側である。

 シャイロン星雲には、かつて9つの銀河を統一した古代文明が創り出し、宇宙に伝説として散らばった数多くの超兵器を集め、宇宙の制覇を目指す勢力[バラフミア王朝]がある。

 この特殊な星であるテュタリニアに目をつけたバラフミア王朝は、宙域間超光速移動ネットワーク、[フォトンラーフ]のゲートとして改造した。

 これにより、より効率的かつ長距離間のフォトンラーフを用いた移動交通網の作成が可能となり、星雲外への大規模遠征行動が可能となった。


 –––––だが、バラフミア王朝内部の内通者により、その存在が他勢力に知られることになる。


 宙域間超光速移動ネットワークの拠点。

 そこには宙域間航行ネットワークの拠点そのものとしての機能だけではなく、数多くの古代文明の伝承や遺産を発見してきたバラフミア王朝の開拓してきた航宙軌跡の記録がある。

 これにより、バラフミア王朝は莫大な価値のあるこの星を狙う他勢力との大規模な戦争に発展していくこととなった。


 さながら仕組まれたような戦端。

 何を目的に、祖国が他勢力に狙われ、大規模な戦争に発展することは明らかだったこの星の情報を流したのか。

 内通者であるテュタリニア管制局の職員は自殺したことにより、真相は闇の中である。





 ≡≡≡≡≡≡≡


 自由浮遊惑星テュタリニア。

 そこに集積されている航宙軌跡に、恒星カミラースを中心とした星系へ頻繁に艦隊の派遣が行われている記録がある。

 テュタリニアの情報が漏えいしたことにより他勢力との大規模な戦争に発展しているバラフミア王朝の現状において、国防に割くべき貴重な艦隊戦力をこのような辺境に回るのは非合理的である。

 実際、これらの航宙軌跡は本来存在しないものとして扱われている。

 つまり、極秘に行われている航宙ということ。


 国防に回すべき戦力を割いてでもカミラース星系に艦隊を送り込む理由。

 それは、バラフミア王朝の行動と、この星系に存在する古い伝承を照らし合わせれば、自ずと見えてくる。


 バラフミア王朝は、古代文明の超兵器を用いた艦艇1万隻で構成される、ロストテクノロジーの集合体とも言える『サメット艦隊』という最強と呼ぶにふさわしい艦隊を有していた。

 しかし、このサメット艦隊は兆円銀河にて急速に勢力を拡大していた惑星テラを中心とする[宇宙連邦政府]との戦闘において壊滅させられている。

 他勢力から恐れられるサメット艦隊を失ったことで、大きく戦力が衰えているバラフミア王朝は、早急にサメット艦隊に替わる戦力を補填するために古代文明の伝承が残る星々の発掘調査を進めていた。


 シャイロン星雲は、古代文明滅亡後に9つの銀河において最も多くの文明が勃興を繰り返したと言われている。

 そのため、古代文明に関する伝承の記録が多く遺されていた。

 それを利用して、かつての古代文明のような、9つの銀河を征服する勢力を目指し、バラフミア王朝は積極的な伝承調査と外征活動を行ってきた。


 そして、カミラース星系には、まさにその古代の超文明が遺した遺跡があるといわれている。


 国防戦力を割いてでもバラフミア王朝がカミラース星系に艦隊を派遣したのは、その地に眠る伝承から1発逆転につながる超兵器を入手するためだった。



 だが、この極秘とされているバラフミア王朝のカミラース星系に対する行動が、カミラース星系の座標とともに調査団の一員の手により他勢力に漏れてしまった。

 カミラース星系はシャイロン星雲の辺境である。バラフミア王朝の動きを考慮すれば、この時期に辺境の星系に対して何のために繰り返し艦隊を派遣しているかは、容易に想定ができる。

 古代文明の超兵器は再現不可能なロストテクノロジーの結晶であり、一つでさえ戦場を大きく変えてしまう存在である。

 それをバラフミア王朝が入手しようとしている事態を、他勢力が見過ごすはずもない。

 バラフミア王朝は、テュタリニアだけでなくカミラース星系においても他勢力との戦争に発展することとなった。


 まるでバラフミア王朝を他の勢力との戦争にわざと発展させようとしているかのような行動。

 情報漏えいを行った調査員はすぐに自殺してしまった。

 それにより、動機も、真相も、再び闇の中に沈む。


 そんな中、カミラース星系に関する情報を受けた別の勢力が、大規模な艦隊戦力をシャイロン星雲辺境に送り込んできた。




 ≡≡≡≡≡≡≡


 これは、二つの大国がとある組織の思惑により誘われた戦場において、仕組まれた戦争を繰り広げることとなった一幕である。




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