第14話 憂流迦


 ミアカシの背に乗って森を進むにつれて、辺りに生える木々がまばらになっていく。

 それは森が東側の終端に近づいていることを示していた。


 木々が疎らになるにつれて、空を覆う枝葉も少なくなり、段々と森の中からでも空が拝めるようになってくる。


 本来、その日のような月夜であれば、月明かりが空を満たし、また森の中へも月光が格子状に差し込んで地面を照らすのであるが、ことその夜に至っては、夜空は月光にではなく、不気味な赤に染まっていた。


 その空の赤はナギ達が森を東進するほどに濃くなっていき、やがて空を染める原因そのものが木々の向こうに視認できるようになっていった。



 木々の奥。

 そこはナギの記憶では、森の中にあって、木々の生えていない平らな地面が広がる、稀な場所であった。


 森の中に棲む亜人達は、そう言った場所に拠点を築き、普段は森に分け入って狩猟・採取などをして暮らしているのが殆どである。


 そして今、ナギの視線の先にある開けた場所にも、リンとランの暮らしている村が存在しているはずで、以前ナギがそこを訪れた際には、木造の簡易住居が立ち並び、住民達は森で狩った獣の肉や皮をなめしたり干すなどして、穏やかな暮らしが営まれていた。



 しかし今、その集落にかつての穏やかな光景はどこにもなかった。



 立ち並ぶ住居へは火がかけられ、空を焦がすほどに巻き上がったその炎の中に、炭化した骨組のみがくっきりとした黒い影となって浮き出て、かつての住居の面影をわずかばかり思わせていた。


 住居を燃やす炎は、集落を囲む森の木々を威圧し、森に棲む闇はその熱気と光から逃れるように森の奥へと逃げ隠れ、集落周辺は今やおどろおどろしい赤色に支配されていた。



 「(そんな……酷い――‼)」


 集落へ近づくにつれて湧き上がって来ていた焦燥感が、集落の変わり果てた姿を目の当たりにしたことで極致に達し、ナギは臓腑をギュッと締め付けられるような苦しさに顔をしかめた。


 『ここから先は身を隠していくぞ』


 ミアカシに促され、ナギはその背から降りる。


 両者は体勢を低くして、さながら二匹の獣と化したように、木々に紛れながら集落へと接近していった。



 集落の外縁に築かれた土手に辿り着いたナギとミアカシは、腹這いになってそろそろと土手を這い登った。



 土手の頂上に辿り着いて、覗き見た集落の光景は悲惨な物であった。



 集落の至る所に、剣や槍で切り殺されたり突き殺された村人の死体が、点々と横たわっていた。


 死体は住居のそばに倒れたものもあり、そういったものにおいては住居の纏う炎にまかれて、その皮膚を焦がしブツブツと体内の黄色い脂を煮え立たせていた。



 森の中でも終始匂ってきた鼻をつくような匂いはそれであったのだと悟り、ナギは思わず吐き気を催すも、必死にそれを堪えた。


 「こんなのって――」


 嘆く様に零した言葉を聞いてミアカシが冷静な様子で口を開いた。


 『よく見てみな。殺されているのはオスばかりだぜ?』


 ミアカシに指摘されて、ナギは自分を奮い立たせて改めて村を観察した。


 ミアカシの指摘した通り、村の中に倒れているのは全て男であった。


 「他の村人は……」


 そう思って視線を右往左往させた末、ナギは見つけた。



 炎の熱気に乾く目をしばたきながら集落の奥を睨むと、炎を避けたわずかな空き地にて、熱気に揺らめくいくつもの人影があった。


 見れば、どうやら立っているのは兵士達で、彼等に囲まれて座らされているのが村人達のようであった。


 「子供達も捕えられている」


 ナギは、村人たちの中に護られようにして小柄な姿があるのを見た。

 子供達は不安そうな視線を辺りに配りながら、恐怖に慄いて震えている。


 ナギは反射的に土手から身を乗り出して彼らの元へ駆けだそうとしていた。


 それを予期していたかのように、ミアカシがナギの腕を咥えて彼女を押し止めた。


 「ミアカシ!」


 『馬鹿者が。何をする気だ』


 「何って、彼らを助けないと」


 『助けるだと? ろくに妖力も残っていない奴がどうやってだ?』


 ミアカシの言葉は正鵠せいこくを射ており、ナギは返す言葉もなく、渋い顔を浮かべてミアカシを見た。


 『……言っておくが、俺様も役に立たんぞ。お前と同じで、先程の契約で相当な妖力を消耗した。そしてあの下衆共を消し炭にして殆ど尽きた』


 「……でも、協力すれば何とか」


 『お前は相手を見て言っているのか?』


 その言葉にナギは眉を寄せる。

 ミアカシは呆れた表情を浮かべると、ナギの視線を誘導する様に、集落の中に佇む兵士達へと鼻先を向けた。


 『あそこにいる兵士達の腕は差こそあれど、ほとんど先の男どもよりも上だ。先の奴らに遅れを取った分際でまさか勝てるとでも言うのか?』


 「……どうしてそんなことが分かるの?」


 『獣は鼻が利く。相手の戦闘力くらい手に取るように分かるものさ。そして、それは何も獣に限らず、優れた戦士であれば例外なく身に着けているべき能力だ。そう言う点でもお前は、戦いにはずぶの素人なのだろうよ』


 そこまで言ってミアカシは『それに――』と言葉を続ける。



 『奥に居る男。……あれは挑まない方が賢明だ』



 そう言いながらミアカシが目を細めて見た先には、兵士たちの奥でふてぶてしく座っている若い男の姿があった。


 若いというよりも、青さが色濃く残る外貌であり、他の兵士達よりも遥かに上等な鎧を身に着けて、無邪気ともとれる表情を浮かべて捕らわれた村人達を眺めていた。


 「それは、どういう……」


 『奴は、不自然だ。……本来、実力のある奴はそれなりの、そうでない奴もそれなりの「匂い」を持つものだが、奴にはそれらが混在している。そういう奴に安易に噛みつけば、予想外のしっぺ返しを食らうものだ。……そう、あの種の手合は大抵「邪道」の者だ』


 「『邪道』……?」


 『兎に角、今ここにおいてこちらが出来る事はない。奴らの実力をうかがえただけでも僥倖ぎょうこう。すぐに身を隠すのが利口な選択さ』


 ミアカシの言葉とは裏腹に、ナギはなおも食い下がるような表情を浮かべて、捕えられた村人達を見つめていた。


 「でも、それじゃあ……」


 ナギが泣き出しそうな表情を浮かべた時、その視線の奥にいた例の若い男がふと立ち上がった。







 男は、鼻歌混じりに歩き、絶望した表情でうつむく村人達を愉快そうに眺めてまわった。


 「ふ~ん。いいじゃん。これならまあ高く売れるっしょ」


 若い男はニタニタと笑いながら、銅色あかがねいろの鎧を纏った兵士に向かって言った。


 「淫魔サキュバスは、総じて顔貌かおかたちが良く、その上どれだけ歳を経ても老いず、死ぬまで繁殖可能な種です。亜人の中でも愛玩用奴隷として特に高い値のつくものです」


 兵士達の中でも上官に位すると思しきその男は、つらつらと言葉を返した。


 「マジかよ。凶星の捜索は空振りだったけど。いいもん見つけたぜ」


 若い男はそう言うと、捕えられた村人に歩み寄り、その中の若い女の傍らへしゃがみ込んだ。


 彼は、顔を背けようとする彼女の下顎に手をあてがって自分の方へ顔を向け直させると、その顔をまじまじと観察した。


 「ふ~ん。まあ、俺んとこにも一匹くらい置いてもいいなあ。前のには飽きて、スラムに捨てたさせたところだったし」


 若い男はニタニタと笑いながら言う。


 「奴隷商はいつ来る?」


 「三日後に駐屯地へ」


 「三日後か……。帰るのにどれくらいかかる?」


 「我々だけであれば一日もあれば足りますが、亜人共も連れてとなると二日は要すでしょうな。更に、体力の少ない子供もとなると二日では足りない可能性も」


 兵士の言葉に若い男は顎をさすりながら何やら思案する。


 「……なら、ガキは捨てていこう。どうせ高く売れるのは大人だけだ」


 「ええ。辺境の奴隷商は子供を嫌います。国境を超える際、体力のないものは結局死にますので」


 若い男は頷くと、他の兵士に何やら指示を出し始める。


 すると、村人達を取り囲んでいた兵士たちが、村人達の輪の中へズカズカと分け入り、彼らが護っていた子供達を掴み上げた。


 子供達は泣き叫びながら抵抗し、大人たちも兵士の足元にすがりついて懇願するが、駆け付けた兵士たちがまるで物を扱うかのように、彼らを荒っぽく蹴散らしていく。



 兵士に引き連れられた十数人の子供達は、めらめらと燃え続ける住居を背にして一列に並べられた。


 すると、十数名の別の兵士達が、ある程度距離を隔てた場所へ整然と並び立つ。

 

 彼等のその手には弓矢が握られていた。





 若い男は弓矢を持った兵士達の背後に立ってニヤニヤとしながら、その肩の向こうで恐怖に怯える子供達を眺めた。


 銅色の鎧の上官が弓矢を持つ兵士達に指示を出す。


 「構え‼」


 すると、並び立った兵士たちが揃って弓を子供達の方向へ向けた。


 「矢をつがえろ‼」


 兵士たちは腰に提げたえびらから矢を取り出して弓につがえ始めた。



 ……だが、それまで整然としていた一連の行動に、一部乱れが見られた。


 弓を構える兵士のうち、何人かが矢をつがえるのを躊躇ためらったのだった。


 「貴様ら、何をもたもたしている⁉」


 上官に問い詰められた兵士達は恐れを為しながら、懇願するような視線を上官へ向けた。


 「お、俺にはできない!」


 一人が言った言葉に、他の兵士も頷いた。


 「できないだと⁉」


 上官の顔が怒りに燃えるのがハッキリと分かった。


 狼狽えながらも兵士は言う。


 「里に、ちょうどあれくらいの子供がいるんだ。俺には無理だ――‼」


 兵士は苦しそうに言葉を紡いだ。


 「貴様、亜人を庇うのか‼」


 上官は亜人の子供達を指さして叫ぶ。



 そこへ、ふらっと若い男が歩み出て、矢をつがえるのを躊躇ためらった兵士の前に立った。


 「は、ハルト……様」


 兵士は恐怖を顔に浮かべて、彼の異様な笑みを見つめた。



 直後、ズンという音が鳴り響いた。

 そして、兵士の背中から、血を纏って真っ赤に染まった鋭利な何かが飛び出した。


 兵士は声も上げられない様子で、驚きに見開かれた目を、自身がハルトと呼んだ若い男へと向けた。


 ハルトは嘲るように鼻を鳴らすと、右手に掴んでいた何かをズルッと引き抜いた。


 兵士の背中から突き出ていた物がズブズブと体の中へ引っ込み、兵士の体は支えをなくしたかのように、その場にズルリと崩れ落ちた。


 兵士がヒューヒューと呼吸をしようとする度に、彼の鎧の背に穿たれた穴から、ゴポゴポと音を立てて間欠泉のように血が噴き出して辺りの地面を赤く染めていく。

 やがて、彼は自身が作り出した血の池に沈んだまま死んでいった。



 その光景を詰まらなさそうに見下ろすハルトが手にしていたのは、血を纏った細身の直剣であった。


 ハルトはその刃にこびり付いた血脂を見ると汚らしそうに顔を歪めて、倒れ伏した兵士の纏っていた衣服でそれを拭った。



 村人達を始め、周囲の兵士達も黙りこくったままその異様な行動に視線を奪われていた。


 血脂の下から現れたギラリと輝く刃を見て満足そうに微笑むと、ハルトは口を開いた。


 「子供がいるとか何とか知らねえけどよ。俺の命令を聞かなかった奴は、その子供の顔すら拝めなくなるぜ」


 そう言ってハルトは、矢をつがえなかった他の兵士達を順繰りに睨みつけた。


 恐怖に息を呑んだ兵士達は、慌てて震える手で弓に矢をつがえ始めた。


 「それでいいんだよ。……あいつらに情けをかけてやりたいなら、しっかりと狙いをつけてやることだ。そうすれば、下手に苦しまずに死ねるからなあ」


 ハルトはさも愉快そうに言いながら、弓矢を構える兵士達の背後をゆっくりと歩いた。


 「弓を引け!」


 上官が叫びながら腕を直上に持ち上げると、兵士達の弓の弦が引き絞られ、キリキリという緊張感ある音が辺りに響きわたった。



 兵士達が弓をいっぱいに引き絞り、上官の指示を待った。


 聞こえるのは住居が燃えるパチパチという音と、捕えられた村人達がすすり泣く音のみであった。









 集落の外からその光景を見ていたナギは、湧き上がる緊張感に眩暈と吐き気を感じながら、奥歯が砕けそうなほどギリギリと歯噛みしていた。



 今にも飛び出そうとして力のこもるナギの体を、ミアカシがガッチリと抑え込んでおり、彼女は動こうにも一切の身動きが取れなかった。




 そのナギの視線の先で、上官の腕が遂に振り下ろされる。




 ナギの思考からは一切の余念が消え去り、視界から入って来る映像だけがコマ撮りのように知覚される。



 そして、上官の腕が振り下ろし切られるか否かのタイミングで、兵士達が構えた弓の弦が一斉に弾かれ、矢が射出された。




 その瞬間、ナギの視界が何かに覆い隠される。

 

 ミアカシが、これから広がる光景を彼女に見せまいと、その身を乗り出して視線を遮ったのだった。




 ナギはその耳に、飛翔する矢の放つ甲高い風切り音だけを聞いた。




 絶望に朦朧とするナギ。





 だが、そこへ突如、ドッと唸るような轟音が鳴り響いた。




 爆音に始まり、そして嵐が大地を削るかのような轟音が辺りに響き渡った。




 音に遅れて、砂と熱気と火の粉を含んだ突風が襲来し、ナギを庇って前方に立ち塞がったミアカシの蔭で、彼女は吹き荒ぶ熱風に耐えた。





 暫くして、辺りには再び、炎の燃えるパチパチという音だけが響くようになった。




 ナギが恐る恐る顔を上げる。


 すると、ナギの眼前に立ち塞がっていたミアカシが苦笑いを含んだような表情で集落の中を見つめ、そしてこう零した。




 『あいつめ……。やっと来やがったか』




 ナギはゆっくりと、ミアカシの視線を追う様に集落の中へ目を向けた。

 そして、視線の先に広がる光景にその目を見開いた。











 突然襲来した暴風を身を低くしてやり過ごした兵士や村人は、暴風が止んでからそろそろと顔を上げて、そこにあった光景を見て驚きに目を丸くした。



 兵士達の放った矢は、全て圧し折れたり粉砕したりして、兵士と子供達の間の地面に散らばっていた。




 ……そして、その矢の残骸に囲まれて立つように、人影があった。




 その人影は、茶けたローブを纏い、フードを目深に被っている。

 フードの蔭になっていることと、光の加減から、その顔ははっきりとはうかがえなかった。




 だが、兵士達から見たそれは、火焔を背負い、ローブの裾を風にばたつかせ、尋常ならざる悪魔的な雰囲気を放っていた。





 「……まったく妙な地獄だぜ。まさか、鬼の側が虐げられているとはな」





 良く通る声で朗々と放たれたのは男のそれ。


 飄々ひょうひょうとした物言いとは相反して、かげになった男の顔に爛々らんらんと輝いている瞳は、猛禽もうきんのように鋭く、相対する兵士達は得も言われぬ恐怖を感じていた。





 「……だが、これはいささか目に余るな」





 笑みの中に静かな怒りを宿すように、男は言う。


 兵士達の背後にいたハルトは、男が背にした眩い炎の光に目を細めながら、腹立たし気な表情を浮かべた。



 「(こいつ……。どこから現れやがった?)」



 ハルトはそして、未だ唖然としたままの兵士達に合図する。



 「もう一度射掛けろ。そいつごと殺せ!」



 ハルトの合図があったにも拘らず、兵士達は先程の異常な現象と男の放つ雰囲気にてられてか、その動きは極めて緩慢なものとなった。


 「早くしろッ‼」


 ハルトが腰の直剣を引き抜いて恫喝どうかつする。


 兵士達はビクっと肩を震わせ、慌てて弓に矢をつがえたはじめた。


 「どんな魔法を使ったかは知らねえが、詠唱させる隙を与えなければ、どうって事はねえ」


 ハルトは兵士達を急かした。


 矢をつがえ終えた兵士達の弓が、キリキリと引き絞られていく。



 一方の男の方は、やじりを向けられたところで少しも慌てる事なく、目深に被ったフードの陰からジッと兵士達を観察している。



 「 放て‼ 」


 

 ハルトの合図で、一斉に矢が放たれた。


 矢はヒュッと風を切って、あっという間に男との距離を詰め、彼の目前に迫った。




 矢が自らの体に達する直前。

 男がふいに動く。



 男のローブの裾から、何かを握る彼の手がのぞく。


 そして男はそれを横薙ぎに振るった。



 すると、男の手の動きに連動するように、目前の大気がドッと膨張すると、即座に決壊して巨大な空気の波が起こった。


 それは先程現れたのと同様の暴風となり、大気を洗い流すようにして、飛翔する矢をも枯れ枝のように容易く蹴散らした。

 

 風は矢を蹴散らしてもなお止まらず、矢を放った兵士達をも呑み込んだ。


 兵士達は踏ん張って風に耐えるも、その風は鎧を纏って重いはずの兵士達の体ですら薙ぎ倒し、彼等は地面をゴロゴロと転げた。




 ハルトは、風に抗うようにかざした腕越しに、男を睨みつける。



 そして彼は、吹き荒ぶ風の向こうに見た男の姿に思わず息を呑んだ。




 男の目深に被っていたフードが、彼自身の放った風によってまくれていた。




 そのフードの陰から現れ出たのは、恐ろし気な顔であった。




 炎の光に艶々と輝く黒い肌に象られているのは、怒りを表すようにへの字に曲げられた太い眉、しかめたように皺の寄った眉間と目元、爛々らんらんと輝く瞳。

 そして最も目を惹いたのは、その鉤型にたわめられた鋭利なくちばしである。



 男の晒したそれが、「仮面」であることは誰の目にも明らかであった。


 しかし、彼の起こした現象とその異様な顔貌は、それを目の当たりにした人間に畏怖いふを抱かせるには十分な迫力があった。

  



 さらに、ハルトの注目は男の顔だけでなく、彼が手にしていた物にも及んだ。



 「(……‼ アーティファクトだと⁉)」



 男が手にしていたのは、扇であった。


 黒く艶のある親骨に、絢爛な模様の描かれた地紙が貼ってあり、炎の光を反射してギラギラと輝いていた。




 「……テメエ‼ 一体、何者だ‼」



 ハルトは男に吠えるようにして叫んだ。



 仮面の男は、鷹揚な挙動でその異様な顔をハルトに向けた。




 「何者? ……俺がか?」




 仮面の男はそう呟くと、わずかに考える様な仕草を見せ、やがて自嘲的にクツクツと小さく笑う。


 やがて、居住まいを正すようにクッと顎を引くと、両足で地面を踏みしめさながら仁王のような佇まいで兵士達に向かい合った。



 その時、それまで男が纏っていた恬然とした雰囲気が消え去り、一転してヒリヒリするような張り詰めた空気が辺りを包み込んだ。

 






 「 戸 隠 山 九 生 坊 憂 流 迦とがくれやまくじょうぼううるか 、 推 し て 参 る 」






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