第2話

 いつも精一杯に背伸びをする姿が年相応の声をあげると、いつも以上にそちらを見ていたくなる。

「先生、トリックオアトリート!」

「ハロウィンも随分普及したよね」

 今日ばかりは向けられる表情も教師向けに作られたものが剥がれてくれるだろうか。そんな期待をしつつ、数泊だけ視線を外して、会話を続ける。

「ああ、昔はここまでじゃなかったんでしたっけ」

 返る答え。表向きの反応は、そうだよという相槌だけに、どうにか留める。昔、と何気なく形容する時間が、ほんの十数年前のことだと、目の前の子は本当の意味では分かっていない。どう頑張ったって越えられないものが、こちらとあちらの間には横たわっているということを。それを知らないまま、越えようとするのなら。

「先生、トリックオアトリート」

「……お菓子がないなら悪戯してやろうなんて、考えるのは百年早いよ」

 この話が喜劇ならきっと数年で終わる永遠を以て、先延ばそう。

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