第14話 ルーク対ベルガー2

「ご主人様、後でちゃんと説明して下さいね!」

「わかったわかった、てか、お前剣を壊しても消えないの知らなかったのか?」

「そ、そ、そんな事は」

「知らなかったんだな...そんなことよりロゼッタは?」

「何とか無事みたいで岩陰に隠れてますぅ」

「ちゃっかりしてんなぁ」


 セラの膨れっ面を後目に今の現状を整理したルーク、とにもかくにもロゼッタの無事を再確認し、再びベルガーに視線を向ける。肝心のロゼッタはルークに声援を送っている。呑気なものだと思い、ルークの緊張も一瞬ほぐれた。

 ルークを見てベルガーの足がすくみだす。段々とルークの圧力に押し殺されそうになってる。

 こんなレベル1のガキに負けるのか? と。

 何か手を打たないと、ベルガーに焦りが生じた。だが、ベルガーの視界にロゼッタが入りロゼッタの背後を取った。


「うげっ! ル、ルーク!」

「おい! ロゼッタを放せ!」


 ロゼッタを人質に取るベルガー、ロゼッタを後ろから片手で首元を抑え、喉元に隠し持っていたナイフを突き立てていた。

 形成逆転、今攻撃をしたらロゼッタを巻き込んでしまう。一体どうすれば? 今度はルークが動けず仕舞い。


「いいか! 動くんじゃねー! 動いたらこの女を殺すからな!」

「ルーク!!」


 ロゼッタの叫びも無情にも届かずルークは今、金縛りにあった状態だ。まるで水面の底から何者かに引きずり込まれるように、ルークの足取りが段々と重くなる。

 何か、何か手はないか? 考えろ! 足りない脳を絞り出せ! ふと父ザックスの言葉が脳裏に浮かぶ。


「...わかってるよ親父」


 足りない知恵を絞りだし、相手を一撃で仕留める策を思い付いたルーク。腕力よりも脚力に自信のあるルーク、我流で磨き上げた取って置きの必殺技を閃き出した。しかし、魔物化しているとは言え相手は人間、一歩間違えば殺してしまう。


「そういやお前、俺の一撃を受け流したのは見事だが、忘れてないか?」

「??」


 その一言にルークがふと気が付いた。聖剣セラフィムを真っ二つにしたあの剛腕。ルークの足がガクッと膝をついてしまう。良く考えたらあの剛腕を、何発もガードしていたのだからルークの体へのダメージが蓄積していた。ルークご自慢の手甲のおかげで腕に損傷はなかったが、何発も攻撃をガードしていたので、手甲に亀裂が入り出した。


「こ、この野郎....俺の自信作を...」

「何だぁ? 恐怖でチビったか? さっきまでの勢いがねーぞ!」


 確かに今危機的状況ではあるが聖剣をへし折られ、自信作の手甲に亀裂が入り、危機感よりもやるせない気持ちが葛藤していた。気持ちを切り替え、ベルガーを倒した後に、王国とギルドからたっぷり報酬を頂こうと考え始める。

 とは言うものの、ルークが考えてた必殺技が使えないとなると、次なる手を考えなければならない。ロゼッタが人質となってる今、先ずはロゼッタを解放する事が最優先と認識し、あまり時間もかけてはいられなくなった。


「どうすればいい? どうすれば?」


 無情にも時間だけが過ぎていく、ふとロゼッタ見るとロゼッタは静かに指を動かしている。長い付き合いのルークにとって、ロゼッタの思考が読めてきた。ロゼッタの行動にルークは賭けに乗り出した。


「ご主人様?」

「少し黙ってろ!」


 ロゼッタは今動けない。下手に声を発すると、自分の命が危うい。

 考え込んでいる内に、ベルガーが付近の岩を粉砕し破片を拾い出す。


「いいか? 動くなよ!」


 ルークが動けないことをいい事に、拾った岩の破片をルーク目掛けて投げ出し、ルークの体にあちこちと破片が当たりだす。


「クッ...」

「ギャハハッ! ざまぁねーな!」


 ルークが徐々に痛めつけられ、見るに見られなくなったセラとロゼッタ。

 このままではルークがやられる、アタシ何も出来ないのかな? このままやられっぱなしは嫌だ! アタシも冒険者なんだ! 何か...何かしないと...ルークを助けたい。


「いいですか? 魔法は詠唱が必要です声を出して唱えるのが基本。でも口を封じられたり、喋れない状況だったらどうしますか?」


 教師の講義に生徒たちが頭を抱え悩みだす。


 「簡単です無詠唱で唱えればいいんです」


 アカデミーでの講義がロゼッタの頭の中に流れ込み、映像を何度も再生するかの様に、ロゼッタは今少ないMPで一か八かの無詠唱魔法を使おうと試みている。

 いつベルガーに勘づかれるかわからないこの状況、ロゼッタは必死でルークを助けたいと抗っている。


「オラオラッ! さっきの勢いが全くねーな!」

「こ、この野郎...覚えておけよ...ん? ロゼッタ何を?」


 痛めつけられながら、ロゼッタの行動をずっと見ていたルーク、ロゼッタの動きに変化があったのを見逃さなかった。

 勘づかれないようにベルガーの攻撃を受けながら、静かにロゼッタを見る。

 ただ、体力的にルークの身が持たない、このままだとルークが死んでしまう。

 ロゼッタ急いでくれ! 心の中で叫びながらロゼッタの策を静かに待っていた。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る