第11話 奪われた聖剣セラフィム
シルバーフォックスの牙が襲い掛かる今、ルークは街の酒場を巡りザックスを探し回っている。ホルンの街の酒場は一般の人が集まるリーズナブルな酒場と高級酒場、現代で言うキャバクラのお店がある。ルークはおそらくザックスは高級酒場にいるとにらみ、一目散に心当たりのあるお店に。ホルンの街の高級酒場は一軒だけだから、迷う事もない。
「キャハハッ! やだぁザックスさん、そんな口説かれたらワタシ困るぅ」
「何言ってるの! ルーシィちゃん! 毎回指名してあげてるんだからこれくらいのお礼してくれてもいいんじゃないのぉ」
店の外まで甲高い声が響き渡る。明らかにザックスの声だ。こんな所はルークには刺激の強いお店だが、意を決して店のドアを勢いよく開ける。そこには香水の匂いをぷんぷんと漂わせた若い女の子が、客を相手に酒を振舞ったり、会話をしている。
「いらっしゃいませ、一名様ですか? ご指名の子はございますか?」
一人のボーイがルークに接客を開始。何も言ってもいないのに、ルークを店の中に案内しようとしている。まだ何も言ってねーだろ! と心に呟き、立ち止まってもしょうがないからボーイに案内される。
「ここには人を探しに来ただけだ! 飲まねーし、指名する子もいねー!」
「あーら、可愛いらしいお客さん。ビールじゃなくてブラックシュワーでいいかしら?」
「おい.......」
ブラックシュワー、簡単に言うとコーラである。子供から大人まで愛飲されている、ポピュラーな飲み物。店の女の子がグラスに氷を入れ、ブラックシュワーを注ぎ入れ勝手にルークに差し出した。
「おや? ルークじゃないのぉ? ダメだぞ! 未成年がこんなところに来ては」
「親父を探しに来たんだろうが! 母さんめちゃくちゃ怒ってたぞ!」
完全に出来上がったザックス。ハイテンションマックスで言葉が呂律しているが、ルークの一言でザックスは青ざめた。
「おい、マジか?」
「マジだ.....かなりブチギレてたからな、俺でも手がつけられないぜ」
勝手に出されたブラックシュワーを飲み干し、会計はもちろん、金貨20枚、キャストドリンク付きをザックスが払い慌てて家に戻る。こんな酔っぱらった親父を見るのは初めてだと......ルークは思ってしまった。
家に着くなり、家には知らぬ間に客人が。暗がりだったので顔が良くわからなかったが、近づくにつれ客人の顔が明らかに。
「「ルーク君!」」
「おじさん、おばさん! どうしたの? 血相を変えて」
その客人は誰かと思えば、ロゼッタの両親。ただならぬ気配でルークに迫る。ルークの母親マリーはザックスを直ぐに鉄拳制裁し、家の中が修羅場になったのは言うまでもない。
「ロゼッタが居なくなってるんだよ!」
「ルーク君何か知らない?」
ロゼッタの両親が目を覚まし、ロゼッタの部屋のドアが開きぱっなしだった。おかしいと思い、部屋に入ったらロゼッタの姿がどこにも居なかったと言う。
ロゼッタの両親を家に招き入れ、両家の両親とルークの五人で話し合いが始まる。ザックスは当然母親マリーにボコられ顔がアザだらけ。
「アタシに眠り薬を仕込んだ矢で不意打ちしやがって! どこのどいつだよ! 元戦士を舐めやがって!」
完全にお怒りの母親マリー。もう手が付けられない....それよりか、これはもう誘拐事件と見て、王国とギルドに依頼するしかないとルークは言うが。
「ルーク何言ってやがる? 今こそ聖剣セラフィムの勇者様の出番じゃないの?」
ザックスがそう言い放つが、ルークは確信した。飲み代と生活費、店の経費に追われ、冒険者達に払う報酬が一銭もない事に。
「親父.....金がないなら、はっきり言おうぜ」
「全くだよ! 若い女の子にうつつを抜かしやがって! このダメ亭主!」
「マリーちゃん、そこまで言わなくても.....」
ロゼッタ両親が心配するが、ルークはいつもの事だと軽くあしらう。一応盗まれた物はないか家中を探し回るが。
「な、ない!」
ルークの部屋に置いてあった聖剣セラフィムが見当たらない。ついでにセラの姿も忽然として見当たらない。
「まさかな........」
ロゼッタとセラは誘拐され、更に聖剣セラフィムが盗まれる始末。ルークは確信した。恐らく犯人は何でも屋の店主だろう。証拠に昼間影からルークを襲った矢は、何でも屋で見た矢と同じであった。冒険者かもと言う発想もあるが、ホルン王国で殺人を犯した者は死罪確定、冒険者がいくら金をつぎ込まれようとも危険なリスクは追わない事にしているからだ。
「親父! セラも居ねーし聖剣セラフィムもねー! こりゃ完全に俺を狙った犯罪だぜ!」
「何! ルーク! お前何か恨みを買う事したのか?」
「ルーク! アタシはそんな子に育てた覚えはないよ!」
「母さんまで.........何もしちゃいないよ! ただあの何でも屋の亭主の詐欺を暴いただけだけど」
ルークが何でも屋での出来事を話すと、両家の両親は納得した。明らかに何でも屋の店主が臭うと。誘拐だけでなく、整備不良の武具、偽エリクサーの販売だけでも罪なのに殺人まで手を出す事に怒りが収まらなくなった。
「それよりも母さん、テーブルの上の紙切れは何?」
「あぁっ! 何だこれは?」
マリーがザックスをボコボコにしていたので気付かなかったが、一枚の紙切れがテーブルの上に。
「なになに........小僧テメーのせいで赤っ恥かいちまったじゃねーか! そんなわけで口封じのためにテメーと一緒にいた女を始末する事にした。ついでにあのちっこい奴もな! 人質として女とちっこいのは預かったぜ! それとテメーの剣も奪ってやったぜ! 返して欲しいなら深夜二時、ホルン平原まで一人で来な! 仲間なんぞ連れて来たら人質速攻でぶっ殺す! だとーーーーー!」
まさかの店主からの犯行声明。ルークは黙って手甲を身に着け、足早にホルン平原へと向かう。
「ルーク! この事は王国に伝えといてやる! ケジメをつけて来い! 後なわかっていると思うが殺すなよ!」
「あぁ....」
「ルーク! あんたはアタシがお腹を痛めて産んだ自慢の息子だ! 女の子一人助けられない様じゃアタシの息子じゃねー!」
「わかってるよ....」
ルークの両親はわかっていた。ここまでされて黙っているほどおしとやかではない事に。ルークがマジギレ寸前な事に。
「ルーク君、すまない......娘を頼む!」
「無茶だけはしちゃだめよ!」
ルーク達はまだ知らない。店主が盗賊団シルバーフォックスだと言う事に。ロゼッタの両親にも心配されながら、二人の思いを受け止め後ろも振り向かずにホルン平原へと足を運んだ。
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