第9話 悪徳商人を懲らしめろ3
「そんなのはデマカセだよ、そんなに即効性があるなら金貨300枚じゃ売れないからね」
たかが小娘の戯言、店主も負けじと折れない。ロゼッタはアカデミーで得た知識と家業の道具屋知識を武器に口論する。
「だったら、ルークは何でエリクサーを飲んだのに傷が塞がらないの?」
「だから、言ったじゃない。効果は人それぞれ」
これでは話が平行線のまま埒があかない。
ここは一旦出ようと考えるルーク。
「おいっ! 親父! 何だこれは刃こぼれしてるじゃねーか!」
モヒカン頭でゴツイ体をした冒険者が押し掛ける。
見たところ職業は戦士のようだが。
「先週金貨20枚払って買ったこの銀の斧! まだ何もしてねーのにいきなり刃こぼれしたぞ!」
ルークがちらりと銀の斧に目を向けると、確かにまだ使ってはいないし刀身も輝いている。それにしてもひどい作りだ! 職人としてこれを作ったやつが許せない。
「定期的にメンテナンスに来てって言ったじゃん! あんた来なかったよね?」
「そんな毎回来れるわけねーだろ! しかもまだ使ってねーって言ったよな?」
「そんなのは理由にならないよ」
確かに武具のメンテナンスは必要だが、冒険者でも刃のメンテナンスはできる。それにしてもこの扱いは酷い、酷すぎる。
「ふざけるな!」
「ウチは返品は受け付けないからね!」
「二度と来るか! 死ね!」
そう言ってモヒカン頭の冒険者は店を後にしたが、ルークがこっそりと自分の店なら修理可能と耳打ちをする。
「おいっ何だこの特薬草は? 本当なら銅貨20枚のところを銅貨5枚で良いって言うから買ったのに! これただの薬草じゃねーか!!」
「あっごめんごめん渡すやつ間違えたね」
「ごめんじゃねーよ!」
今度は特薬草を買った冒険者が押し掛ける。特薬草は通常の薬草の二倍の効果のある薬草。色は通常の薬草は緑、特薬草は赤であるが品物を間違えて冒険者に渡した店主、どこか抜けている。ロゼッタの店でも特薬草は銅貨二十枚もしくは銀貨二枚で販売しているが店主が冒険者に渡す特薬草を見ると確かにこれは本物だとロゼッタは言う。
「こいつまさかな.....おっちゃんここの武器とか防具はあんたが作ったのか?」
「ん? そうだよ。俺が一生懸命作った代物だよ」
ルークは思った。この店主は単に武器とかの知識もなく、道具の知識も知っている範囲しか知らず、そして冒険者に売りつける。あえてわざと壊れるように仕向けて金儲けしているのか? と。それならエリクサーの効果説も、ロゼッタと店主の主張が平行線なわけだと納得が行く。
「おっちゃんこのお試しエリクサーをもう一杯貰っていいか?」
「ん? いいよいいよ飲んでみて」
「サンキュー! セラこれ飲んでみな!」
「ん? エリクサーですのぉ! 久しぶりに見ますのぉ!」
ルークからエリクサーを手渡され、一気に飲み干す。
「どうだ?」
「これエリクサーじゃありませんのぉ....」
「へっ?」
セラの発言に店主が固まる。精霊なら何か感じるだろうと思い、ルークは賭けに出たのだ。その賭けは見事に的中し、エリクサーが偽物説と浮上する。
「おっちゃんさぁ……精霊様が違うって言っているならこれは違うんじゃねぇの?」
「うっ………」
これはやばいと察した店主。なんとか話をはぐらかそうと試みるが、ルークとセラの視線が怖くて何も言えずにいる。これ以上は揉め事になると面倒だから話を切り替えるルーク。
「それでよぉ、おっちゃんは商業組合から営業許可出ているの?」
「それはもちろんあるさ!」
一枚の書類をルークに見せる。確かに正真正銘のホルン王国印の許可書だ。
「ふーん、なるほどね..........それでさぁ、この鉄の剣買いたいけどいくら?」
「背中に立派な剣背負っているのに、この剣が欲しいのかい?」
「あぁ、ちょっとこれ一本じゃ足りないからな! 保険でもう一本くれ」
「だったら、この鋼の剣の方が丈夫で長持ちするからこっちをお勧めするよ」
口だけは上手い店主。背中に背負っている剣も聖剣セラフィムとは知らずに、より髙い物を勧めて買わせようとする手段に出る。その手には乗るまいとルークも対抗する。
「じゃぁ、この鋼の剣買うからさ、おまけで鉄の剣付けてよ」
「えっ? それじゃウチが赤字じゃないか!」
「俺は鉄の剣が欲しいだけで、あんたは鋼の剣を買わせようとしている。押し売りまがいな事をしているんだから、これくらいは良いと思うけど」
そう言うと店主の表情が曇りだす。このガキただのガキじゃねーと感じ、どうしようか考える。
「わかった。鉄の剣を銀貨五枚でどうだい? 通常なら銀貨七枚のところを五枚でお安くするよ」
「おっ! 気前いいねぇ買った!」
銀貨五枚を支払い交渉成立。ルークの店でも鉄の剣は銀貨五枚で販売している。
それにしてもこの剣に名前が彫られてない、おそらく店主が打った剣だろうが。
「ロゼッタ帰るぞ!」
「う、うん」
これ以上は居ても何もないだろうから、一旦帰る事に。
店主からは、週一回は定期的にメンテナンスに来いと念を押されるが、当然ルークは行く気はさらさらない。
「あのエリクサーは偽物ですの! 味も風味も全く違いますの! あれは詐欺ですのぉ!」
「セラちゃんは本物がわかるんだね」
セラとロゼッタの会話、本物を知るセラが言うなら間違いなくあのエリクサーは偽物。ロゼッタも本物は見た事はないが、あの店のエリクサーは完全なる偽物。
「ルーク、傷は?」
「痛いし、肋骨も完全じゃねー」
「ご主人様、怪我まだ治りませんの?」
「そう簡単に治るわけねー」
「そうですかぁ......クレープをごちそうしてくれたお礼に、良い物あげますのぉ」
静かに瞑想し、羽を羽ばたかせるセラ。何が始まると言うんだ? ルークとロゼッタが真剣な表情でセラに視線を送る。
「すーはーすーはー」
何やら深呼吸をし、次の瞬間。
ガブっ!!
「おいっ! 何しやがる?」
ルークに噛みつき、そのまま息を送る。小さいからそこまで痛くはないが、何かくすぐったいし、生温かい吐息がルークの体を駆け巡る。次第と自分で傷つけた手の傷が塞がり、肋骨の痛みも引いていく。
「あれ? 何か体が楽になったぞ」
「セラちゃんの特技、癒しの吐息ですのぉ、これくらいは余裕ですのぉ」
不思議な事もあるものだと、現実を目の当たりにするルークとロゼッタ。
家に帰り、何でも屋で買った鉄の剣を調べ、店主の粗探しを開始。
***
「あのガキ......何かウチを陥れようとしているな! しかも、あの小娘と小さいヤツこのエリクサーはただのハーブを混ぜ合わせただけの代物、偽物と見技きやがって」
エリクサーが偽物とはっきり断言した店主。そうそう市場に出回ってないから、冒険者、ましてやこのホルンの街ではわからないだろうと。それをロゼッタ、セラに見破られ、ルークには武器の作りを怪しまれ、怒りがこみ上げる。
「こうなったら、あのガキ共を始末して口封じをしてやる!」
何か不穏な事を考え出した店主、ルーク達を暗殺しようとボウガンを取り出した。
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