第8話 悪徳商人を懲らしめろ2
「見事な銀の剣だな、眩しいくらいに輝いている」
冒険者が見せたのは銀の剣。だが、見事に刀身と柄が真っ二つに折れていた。刀身が輝いているだけに何か勿体ない。
「これ、どこで買った? 後、いくらした?」
「つい先日、ホルンの港に何でも屋が出来てな、中々手に入らないから金貨20枚のところ、割引きで金貨百18枚で買ったのよ、それで試し斬りに周辺のモンスターを討伐した矢先、これさ………」
ホルンの街で商売をするには、王国管理のホルン商業組合に登録しないといけない。その後は商業組合から王国印の営業許可書を発行されるのだが、これは何か犯罪の臭いとルークは感じた。
「とにかく、これ預かるわ。それまではこの鋼の剣を使ってくれ! 銀には劣るが切れ味は保証するぜ」
「ありがとう、じゃぁ、一週間後にまた来るわ」
父親ザックスの魂込めた鋼の剣を手渡し、紙に冒険者の名前を書き、誰の物か管理する。そうでもしないとわからなくなる。
「ルーク、鋼の剣なんていつの間に?」
ロゼッタが不思議そうに尋ねる。確かに今までは鉄製の武器を始め、銅製や木製の武器しかなかったのに。
「何かクエストの報酬のおまけでな、鉱石屋のおっちゃんが、鋼を親父にあげたらしいぜ。それで親父は鋼の剣を何本か作ったんだよ」
「あの鉱石屋さん太っ腹だねぇ」
早速修理に取りかかるが、気になっているのはこの銀の剣を誰が作ったのか? 刀身に制作者の名前が彫り込まれているはずだが、制作者の名前が見当たらない。ルークの店にも、Z&Rとザックスとルークの頭文字が彫られている。
「ルーク帰ったぞ、何だ? この折れた剣は」
「あぁ、親父ぃ実はな」
事情を説明し、二人はしばらく黙り込む。
修理だけなら、お茶の子さいさいだが、この銀の剣のいい加減な作りに怒りを覚える。
「親父ぃ、これ柄の部分ピン止め出来てねーぞ」
「あぁ? 本当だ! これ振り回したら刀身が抜けちまうじゃねーか! しかも柄に剣の根元残ってやがる!」
銀の剣のいい加減な作りに、二人の怒りに火に油を注ぐ。二人が思った事、武器職人の風上にも置けない、懲らしめてやると。
「親父ぃ、例の店に偵察行ってくるからな!」
「おう、相手は人間だ手を出すなよ!」
「わかってるよ!」
「ルーク!!」
出かける矢先に、ロゼッタが大騒ぎでかけつける。この慌てっぷりは尋常じゃない。
「はぁっ、はぁっ、これ見て!」
ロゼッタが見せたのは、エリクサー。どんな傷でも病気でも完全回復する貴重な回復薬。単価は金貨三百枚と高価な品物。
「冒険者からアタシの店にクレームが来てね、ウチはエリクサーは取り扱ってないのに、もう大変だよぉ! 冒険者さんは金貨10枚で買ったと大喜びしてたのに、帰ったら中身が抜けてたの」
ロゼッタの持っているエリクサーの容器を見せてもらうと、容器はガラス細工の瓶だ。
「おい、これ瓶に亀裂入ってるぞ」
ルークがすぐに気づく。エリクサーの空き瓶の底に数センチの亀裂が、これを金貨10枚で売るとは……商売人として許してはおけない。
「ルーク、港の何でも屋に行こうよ、アタシ達いい迷惑だよ」
「あぁ、ちょうど偵察行こうと思ってたからな」
セラを連れて行こうとしたが、呑気にお昼寝中。この大変な時に優雅な寝顔で眠っているし、起こすのもしのびないからそっとしておく。
ホルン港、様々な食材が運ばれ、漁業も盛んなホルンの街の港。特にホルン名物エビエビ君が街の住人には最も受けの良いポピュラーなお菓子。エビエビ君とは、小海老を砕いて粉にして米粉を混ぜて薄く焼き上げた物、出来立てパリパリ感がたまらない。
「ルーク、エビエビ君買って行こうよ、あっ、クレープ屋もあるよ」
当初の目的を忘れていないか不安になる。
ホルンの港は観光客目当てで、港にもエビエビ君を始め、クレープ屋とかの屋台が数件並んでいる。勿論ホルン商業組合から営業許可は出ている。
「エビエビ君も買ったし、クレープ買って行こう」
「お前なぁ……」
「お兄さん、バナナスペシャルデラックスクレープ一つ!」
「あいよ、銅貨6枚ね、後悪いんだけどこのちっこい女の子何とかしてくれない? さっきから隣でよだれを垂らしてマジマジ見てるわけよ」
「「げっ!!」」
クレープ屋のお兄さんが指摘した女の子、それは紛れもなくルークの店で昼寝していたセラだった。
「もぅ! ひどいじゃないですかぁ! 二人で抜け駆けしてこんな美味しそうな物を食べようだなんて」
「お前、昼寝してたよな? どうやって?」
「私は精霊ですよぉ、私は聖剣セラフィムの中に入れるのですから、聖剣が遠くに行っても瞬間移動でバッチリですぅ、精霊ナメるなですよぉ!」
こいつはセンサーでも付いているのか? それとも聖剣セラフィムに? と思う二人。やむを得ずクレープを二つ買い、銀貨八枚を支払った。美味しそうにクレープを頬張るセラ、どこか憎めない可愛らしさを持っている。しかも、大口開いて三口でペロリと完食。
何百年ぶりに人間の食べ物を食べたと言い、すっかりご満悦のセラ。港を歩いて数分後、綺麗に着飾った建物が見えてきた。
「ここか……」
他の屋台とは違う新築の匂い、一際目立っていたので迷う事もなく到着。
「ルーク、エリクサー置いてあるよ。後、銀の剣も」
店内に入り、商品を物色する二人。確かにこの周辺ではあまり市場に出回らない貴重な物や、お馴染みの鉄制商品がズラリと並んでいた。
「いらっしゃいませ」
店内を物色していたら、いかにも胡散臭い店主が現れた。丸メガネと白髪頭が特徴の小柄のおじさん。
「ここは武器防具に、エリクサーがあるんだな」
「そうそう、ウチは何でも屋だからね、エリクサー欲しいの? 試飲もできるよ」
「マジか? ちょっとこの前怪我しちゃってまだ治らねーんだよ」
頼んでもいないのに、小瓶に入ったお試しサイズのエリクサーをルークに手渡す店主。これで肋骨のヒビが治るならラッキーとルークはカマをかけた。
「おっちゃん、ナイフ借りるぞ」
いまいち信用できないルーク。借りたナイフで自分の手を切り、これでエリクサーの即効性を検証する。
エリクサーをぐぐっと飲み干し、まろやかなハーブの香りが口の中に広がる。
「どうだい?」
「どうと言われてもなぁ……」
即効性抜群なら傷つけた手の傷も、肋骨の痛みも治るのに変化を感じられない。
「エリクサーと言っても、即効性はあるけど効果は人それぞれだからね」
「おじさん、エリクサーいくら?」
何かを感じたのか、ロゼッタがエリクサーの値段を問いただす。
「本当なら、金貨30枚だけどお嬢ちゃんは駆け出し冒険者みたいだから、金貨20枚でいいよ」
ロゼッタの冒険者カードを見て、駆け出し冒険者とわかった店主。誰も買うとは言ってないのに買わせる方へ誘導する。
「アタシアカデミーで勉強したんだけど、エリクサーの即効性は十秒もかからないよ、後ねアタシの家は道具屋だから嘘じゃないからね!」
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