第7話 悪徳商人を懲らしめろ

「あ、あれ? ここはどこだ?」


 ルークは知らない部屋のベッドに横たわっていた。


「あ、目が覚めました?」

「アドバイザーのお姉さん!」

「ここは冒険者ギルド内の病院よ。君の連れの女の子がここまで連れてきたのよ。あっ紹介が遅れたわね、私はエミリー初級冒険者のアドバイザーをしているわ」


 エミリーの話だと、あの後街に帰った早々にルークは倒れてしまい、ロゼッタがギルドまで運んだ。冒険者は危険と隣り合わせ、いつでも治療が受けられる様にギルド内に設置されている。それにしても、何て優しい瞳を持った人なんだろう。すらりと長いサファイアブルーの髪が眩しいし、美人だ。


「幸い骨折まで至らなかったけど、オーガを倒すなんて……あなたはやっぱり勇者様ね」

「だから、違うって! 痛っ!」


 大声を張り上げたため、肋骨に痛みが響く。本当に無我夢中だった。正直勝てたのが不思議なくらいに。


「まだ夜中だから、寝てなさい。明日には迎えが来るから」


 そう言って、エミリーは病室を後にする。病室のカーテンを開けると外は綺麗な満月。月明かりが眩しいくらいに輝いている。


「綺麗な月だな……」


 思いにふけり、これまでの戦いを振り返るルーク。そう言えばロゼッタはクエストの報酬をちゃんと受け取ったのか? など考えに考え眠りについた。


「うーん、朝日が眩しいぜ。まだ肋骨は痛むな」

「ルーク君、おはよう。丁度朝食が出来たから食べてね」

「エミリーさん、何かすいません……色々と……何で俺の名前を?」

「それはね、連れのロゼッタちゃんから色々聞いたわ、幼なじみなんだって?」

「腐れ縁ですよ。俺の家は武器屋で、あいつの家は道具屋」

「一生懸命彼女を守った君の男気に、お姉さんうっとりしちゃったじゃない。君の事はこれからルー君と呼ぶわね」

「ル、ルー君!」


 いきなりエミリーから、ルー君と呼ばれ照れ隠しをする。恥ずかしさをこらえながら、用意された朝食にかぶりつく。パンとミルク、取れたて野菜のサラダとスープが彩り、栄養バランスもしっかり取れた朝食。


「食べ終わったら広間に来てね」


 言われるがまま広間に、そこにはたくさんの冒険者が集まっていた。


「皆さん、ここにいるルークはあのオーガを退けた強者つわもの

「ちょっとエミリーさん!」


 いきなり何を言い出すかと思えば、ルークの武勇伝を語るエミリー。冒険者達は驚きの表情を見せる。


「ウソだろ! あのオーガを流石聖剣セラフィムの勇者」


 ホルンベアーとの戦いの時から、ルークの噂は冒険者達の間で広まっていた。


「皆さん耳が早いですね、ここにいるルークは冒険者じゃないけど、彼に勲章を与えたいけどいいかしら?」


 ギルドから与えられる勲章とは、戦いや人助けをした者が功績を称え、金、銀、銅の三つの勲章がある。特に恩恵はないが、勲章の数が多い程上級冒険者と見なされる。それは毎月ギルドの掲示板に貼り出される。


「「構わねーぞ! 英雄ルーク!」」

「お前ら茶化すんじゃねー!」


 断るにも断れないから、勲章を受け取るルーク。その色は金の勲章。冒険者達から温かい祝福を受ける。


「お前ら! 本当は勲章なんて要らねーけど、ありがたく受け取る事にした! ここまで俺を持ち上げたんだから、当然ウチで武器買うよな? てか絶対買え!」

「「は、はい....」」


 ルークの発言に圧倒され、二つ返事した冒険者達。そう言い残しルークはギルドを後にする。


「ルーク!」

「ご主人様ぁぁぁぁ!」


 迎えが来るとは言ってたが、迎えの相手はロゼッタとセラだった。


「ルーク! ルーク!」

「ご主人様ぁぁぁぁ!」

「痛い! 痛いってば! ちゃんと生きてるから離れろ! まだ肋骨が痛いんだよ!」


 手厚い抱擁を受け、安堵したルーク。家に帰ればまた仕事が待っている。


「そうそう、ルークこれアンタの取り分」


 ホルン鉱山のクエスト報酬の一部をルークに手渡すロゼッタ。


「ん? いやいや受け取れねーよ。それはお前が受けたクエストの報酬だからな」

「で、でも、ルークが居なかったらこのクエスト達成出来なかったんだよ。だから受け取って!」


 要らないと言っても、ロゼッタも中々折れないどうしたものか....。


「ロゼッタ戦利品のルビーはどうした?」

「ちゃんとあるよ! セラちゃんが大事に保管してるよ」

「ルビーが必要なのですね? ちょっとお待ち下さいですぅ」


 口を大きく空け自分の手を口に入れると、セラの口から手のひらサイズのルビーが出てきた。


「どうぞなのですぅ」

「お、おぅ」


 受け取ったはいいが、何か抵抗を感じる。こいつの胃袋はどうなっているんだ? 幸いルビーは唾液まみれではないが。


「ロゼッタ、クエストの報酬はこのルビーでいいぜ! これならいいだろ?」

「う、うん、ルークがいいなら」


 話が成立し、帰宅したルーク。家には鉄鉱石が沢山届いていた。


「おっ、英雄様のお帰りだな」

「親父ぃ、こんなんなったのは誰のせいだよ!」

「ルークアタシも店番あるからまたね」

「ロゼッタちゃん、困ったらまたウチの息子を連れていけ!」

「ありがとう、おじ様、だーい好き」

「よせやい! おじさん照れちゃうじゃないの」


 この二人のやりとりにルークは思った……。俺って実は本当の息子じゃなくて、実はロゼッタが本当の娘じゃないか? と。


「ルークのおかげで鉄の剣100本無事完了したぜ納期に間に合ったわ! んじゃ、ちょっと城に行ってくるからな」

「お、おぅ」


 ザックスを見送り、ルークも鉄鉱石で聖剣セラフィムを鍛え直す。熱を加え、トンカントンカンと剣を打ち続ける。


「あ、あん、だから、ダメですぅ! い、いけませんわ」

「お前いい加減にしろ……」


 相変わらずセラがいやらしい声で、ルークにちょっかいを出す。ルークの手により、聖剣セラフィムは鉄製に生まれ変わり、切れ味も前より増していた。当然セラのお肌にもツヤが増してピチピチ肌に。やはり、聖剣だけあって、オリハルコンやミスリルが欲しいとルークは思った。


「ルーク! 見なさい! ギルドでレベルアップしてステータス振り分けたわ」


 店番はどうした? と言わんばかりにロゼッタが押し掛けてきた。冒険者カードを拝借する。


 ロゼッタ レベル2

 力    3

 体力   4

 素早さ  7

 知力   12

 精神   9

 運    8

 HP   16

 MP   6


「一応聞くが、ステータスはどう振り分けた?」

「体力が少ないから、体力に2ポイント、運が欲しいから、運に2ポイント、後は精神に1ポイント、知力とHPとMPは自動で上がったよ」

「お前魔法使いのくせに、何でMP1しか上がらない?」


 確かに魔法使いなら、ずば抜けてMPが高いのに、何故ロゼッタはMPの上昇が悪い? 


「それはねぇ、元々アタシ魔法使いの才能なかったみたい」

「はあ? じゃあ何で魔法使いを選んだ?」

「ギルドのお姉さんがね、才能のない人が魔法使いやってもMPの上昇は期待できないって、だからアタシは腹が立って、才能がないなら努力で補う! とね」


 ギルドで職業を選ぶにも、それなりに才覚が必要だと言う、剣の才覚がない者は剣士をやってもステータス上昇は期待できない。ロゼッタはまさにそれだ。昔からルークを見ていたロゼッタ。ルークは努力して、今の強さを手に入れた。ロゼッタも対抗意識を燃やしたのか、ロゼッタにはロゼッタなりの道を選んだ。


「なるほどな……」

「だからね、ルークアタシは努力で大魔法使いになる!」


 ロゼッタの決意は固い。ルークはこれ以上は何も言わなかった。


「それならロゼッタ、遅くなったがこれは俺からのアカデミー卒業祝いと冒険者登録祝いにこの杖やるよ」


 ロゼッタに渡したのは、杖先にルビーを埋め込み固い樫木かしのきで作った、ルビーの杖。ロゼッタサイズに作った特注。


「ルビーが欲しかった理由はこれだったんだ……ありがとう、大切に使うね」


 そう言ってロゼッタは杖を掲げた。ルビーが真っ赤に光り、炎が出そうなくらい。


「すいませーん、武器の修理出来ますか?」

「いらっしゃい! 修理も承っているよ」


 一人の冒険者が、ルークの店にやってきた。ルークに見せたのは一本の壊れた剣だった。


 





















 















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