第6話 鉄がない4

 モンスターを撃退し、最深部を目指すルーク達。


「ルーク見て! さっきの戦闘でレベルが上がったよ! ちなみにステータスは自分で振り分けるの」


 レベルが上がって舞い上がるロゼッタ。冒険者はレベルが上がると、各職業に合ったステータスが自動で上がり、ステータスポイントを5ポイント付与され、自分の好みでステータスをアップ出来る。


「じゃあ、早速振り分けようぜ」

「無理。これはね、ギルドで冒険者カードを提示しないとレベルアップした事にはならないの」


 冒険者カードにはレベルアップと表示されているだけで、実際にはロゼッタの言う通り、レベルアップされていない。


 会話をしながら、最深部を目指す一行。さっきの戦いからモンスターの気配が感じられない。この静けさが異様に不気味だ。


「妙に静かだな」

「きっとご主人様に恐れを成して逃げたのですよぉ」

「ルーク、アンタ時々ひどい事をするよね?」

「ロゼッタ、お前なぁ」


 先ほどのビッグラットの戦闘で、しっぽを切り取ってしまった事がロゼッタにとって、えげつない……と思っていた。


「この先が最深部か」

「ルーク、アタシはセラちゃんと後ろから応援するからね」

「危なくなったら逃げるからな!」


 魔法を放ち、MPが足りないロゼッタ。だからと言って、弓矢で応戦するのも難しいだろう。ルークは万が一を考えて退却を視野に入れていた。


「ニンゲン、ニンゲンの匂い」


 最深部に着くなり、不気味な声が響き渡る。


「出やがったな……」

「あれは、オーガですのぉ」

「セラ、オーガって?」


 ルークも初めて見るモンスター、巨人族のモンスターオーガ。セラがオーガを見る度に体が震え出す。


「ヤバいですよぉ、オーガは中級冒険者でやっと倒せるモンスター。初級冒険者には敵わないですぅ」

「お前詳しいな」

「だから、精霊ナメるなですよぉ」


 ここにオーガ一体しかいないと言う事は、恐らくこのホルン鉱山を牛耳るボスとルークは見抜いた。


「ニンゲン、ニンゲン、コロス、コロス」


 深い炭鉱内に響き渡る低く重低音な声で、人の言葉を喋ったオーガ。身の丈三メートルはあるモンスター。手には特大サイズのこん棒を片手に身構えている。


「人の言葉を喋るなら話は早いな。おいっお前! さっさとここから出ていけ! じゃないと商売にならなくて困るんだよ!」


「イヤダ! ココキニイッタ! ニンゲンデテイケ!」


 そう言ってオーガはこん棒をルークに振りかざした。避けたのは良いが、地面に地響きが走り炭鉱の天井が揺れだしていた。


「ご主人様ぁ、逃げましょう」

「そうだな。やべぇ、足が震えてる……」


 初めて対峙する自分より大きい相手。どうやったら勝てる? むしろ勝てそうにない。直ぐにロゼッタの方を見て、退却の合図を送る。


 引き締まった筋肉でこん棒を片手にルーク達を威嚇するオーガ、全く隙がない。これは勝てないと悟りルークが合図を送った。


「走れロゼッタ! 逃げるぞ!」

「う、うん」

「ニガサナイ」


 オーガがこん棒を投げて、道を塞いだ。完全にルーク達を殺す気満々だ。


「ロゼッタ、念仏唱えとけよ……マジでやべぇ」

「ルーク……」


 覚悟を決めたルーク。やってやる! ここでやられたら俺はここまでの男だったと、腹をくくった。


「さてと……おいっデカブツ! 勝負だ!」


 準備運動をし、身構えるルーク。聖剣セラフィムを使っても、あの大きいこん棒を切る事は出来ないだろう。何せ、聖剣セラフィムは間に合わせであるが、銅で仕上げた剣だから切れ味はあまり期待出来ない。


「グフフッ、オモシロイニンゲンダナ」


 ズシンと大きい巨体を揺らしながら、予備のこん棒を取り出しルークに間合いを詰める。間合いを詰めたが、一向にお互い動かない。緊迫した空気が包み込む。


「オラッ来いよ! どうした? 自分より小さいの相手じゃ、まともに当てられねーのか?」


 しびれを切らし、ルークが挑発行為に打って出る。パワーは向こうが上でも、スピードでは負けない。ルークはオーガの足元を一点集中、膝に蹴りを入れる作戦に出る。


「うらぁ!」


 蝶のように舞い蜂のように刺す。ルークのスピードを活かした攻撃が続く。あれだけ大きな体だから、膝を攻めればいつかは崩れる。


「うりゃうりゃ!」


 連続した蹴りをオーガの膝に目掛けて繰り出す。ただ、オーガは一歩も動かない、妙な違和感をルークは感じた。


「何で反撃しねー? こいつ見透かしてるのか?」


 考えても始まらない。ルークはお構い無く攻撃を仕掛ける。


「えっ? 何が起きた?」


 一歩も動いてないのに、ルークは脇腹に攻撃を食らった。ルークが攻撃中、オーガはこん棒でルークにカウンターを見舞わせていた。それにあの大きい体でスピードがある。


「ルーク!」

「ご主人様ぁ!」


 ロゼッタとセラの声が無情にも響き渡る。先程の攻撃でルークの肋骨ろっこつにヒビが入った。


「コ、コノヤロー……速いじゃねーか」


 息が苦しい、痛い、呼吸をする度に肋骨に痛みが走る。


「ナメルナニンゲン」


 一撃を食らわせた後、ルークを見下すオーガ。ルークの呼吸が荒くなってきた。すかさずに次の攻撃に転じる。


「クラエ!」


 こん棒をスイングし、今度はルークの頭上目掛けて攻撃。


「チッ!」


 苦し紛れに何とか回避。攻撃が意外に速く予想外の展開に活路が見えずにいた。構わずこん棒を振り回すオーガ、一か八かルークは聖剣セラフィムを手にこん棒を受け止め、激しいつばぜり合いが展開される。


「ヤルナニンゲン」

「調子に乗るんじゃねー!」


 相手力を利用し、反動を使い聖剣セラフィムでオーガのこん棒をはね除け、オーガの手からこん棒が放された。


「俺流格闘術、水月掌打!」


 一瞬仰け反ったオーガをルークは見逃さなかった。水月掌打でオーガのみぞおちに強烈な掌手を浴びせる。


「グハッ」


 ルークの一撃により、オーガが膝をついた。だが、反動でルークも肋骨の痛みが激しさを増す。


「やるなら、今しかねー!」


 痛みをこらえて、オーガが立ち上がる前に次の攻撃を仕掛けるルーク。ここで立ち上がられたらルークに勝ち目はない。


「俺流格闘術奥義! 白虎百烈拳!」


 パンチの連打を繰り出すルークが勝手に命名した必殺技。オーガの顔面からボディーブローとパンチを繰り出す。


「うりゃうりゃ! うらぁ!」


 たまらずにオーガが吹き飛ばされ、倒れ込んだ。立つな! 立つんじゃねぇ! と、心の中で叫びながらオーガを見つめる。


「オマエツヨイナ……」


 フラフラしながら、オーガが立ち上がろうとしている。ルークは直ぐに聖剣セラフィムを取り、オーガに斬りかかり、縦横と斬りつけた。


「ミゴトダニンゲン」


 そう言ってオーガは再び倒れ、体が光と共に消え去った。


「ざまぁみろ!」

「ルーク! 大丈夫?」

「ご主人様ぁ、やりましたのぉ」


 危険な相手だった。普通なら死んでもおかしくないのに。レベル1のルークがオーガを退けた。


「こいつルビー持ってやがったのか……」


 オーガの体からルビーが一つ落ち、有りがたく頂戴し、ホルン鉱山を後にした。






























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