第5話 鉄がない3

 スライムを倒し、再度地図を確認。

 よく見ると草原地帯から街道へ出る道があったのに気付く。本来なら貴族街を出て、草原地帯を真っ直ぐ進めば直ぐに街道だったのに、ロゼッタが方向音痴だったため、道に迷ってしまったのだ。


「街道を道なりに進めばホルン鉱山だな」

「ごめんね……方向音痴で」


 面と向かって言ってはいないのに、本人には自覚はある様だ。


「ロゼッタ、魔法が役に立たないなら、これを持っておけ」


 大きな道具袋から矢筒と弓矢を取り出した。

 弓使い用の武器、ショートボウである。非力な魔法使いでも扱えるルークが作った弓矢だ。


「嬉しい……ルークの愛を感じるわ」

「勘違いするな! 見るに見てられないんだよ」


 ルークのちょっとした、幼なじみへの気遣い。街道をひたすら進み、ホルン鉱山が見えてきた。


「ここか」

「ルーク、はいっランタン」


 ロゼッタのお店の商品、ランタンをルークに差し出す。ホルン鉱山は鉱夫のために中は綺麗に整備されていて、壁のあちこちに灯りを灯す燭台が設置されていた。しかし、今はモンスターの巣窟、炭鉱内は真っ暗な闇を包みこむ。


「慎重に進まねーとな、鬼が出るか蛇が出るか」


 ランタンに火を灯し、真っ直ぐな一本道を突き進む。その先に下へ降りるゴンドラを発見。ゴンドラのハンドルを回すと、支えている鎖が回り出し下の階へ降り立った。


 あちこちに、鉱石が採石された後が残っておりモンスターが住み着いてからはもぬけの殻となっていた。


「ラッキー鉄鉱石あるじゃん、後でこっそり頂くか」

「ルーク、それ泥棒だよ」

「危険を冒してまでここに来たんだ。少しくらい貰っても罰は当たらねーだろ」


 更に奥へ進み、ゴンドラを発見。躊躇なく乗り、最下層までたどり着く。


「ルーク、モンスターが居るよ……」

「あぁ、居やがったな」


 ルーク達を出迎えたのは、ネズミのモンスタービッグラット。身の丈五十センチはある巨大なネズミのモンスター。そんなのに噛まれたら人溜まりもない。


「三匹か、意外と少ないな……」


 目が合った瞬間、ビッグラットの一匹がルーク目掛けて猛突進。


「危ねーな……何てパワーだよ全く!」


 ビッグラットの攻撃を両手でガードしたものの踏ん張りを効かせても後退りしてしまう。鉛玉約五キロくらいの衝撃が走った。


「チュウ公……やってくれるじゃねーか……」

「ルーク、う、後ろ!」


 ロゼッタの声に後ろを振り向く。そこには吸血コウモリのブラッドバットが数十匹待ち構えていた。

 ブラッドバットは攻撃力こそ弱いが、相手を吸血攻撃で噛みつき、じわじわと相手を仕留める。群れで来られたら非常に厄介な相手だ。


「ロゼッタ! 弓矢と魔法で何とか出来ないか? お前を守ってやる余裕はねーぞ」

「わ、わかったやってみる」


 距離を取り、ブラッドバットが群れになるのを待つロゼッタ。背中に背負った杖を取り出し詠唱を始める。


「燃え盛れ! 紅蓮の焔よ! ファイヤーボール!」


 ブラッドバットが群れとなり、一つの固まりとなった瞬間、ロゼッタはファイヤーボールを解き放った。炎の球体はブラッドバットの群れを焼き払い一掃した。


「フッフッフッ! ルーク見たか!」


 勝ち誇ってるのも束の間、生き残りのブラッドバット一匹がロゼッタに高速で飛びかかってきた。


「キャーッ! こっち来ないでぇー!」

「ロゼッタさん、私を巻き込むのは止めて下さいですぅ」


 逃げ回る中、どさくさに紛れてセラを抱き抱えているロゼッタ。MPが足りない! もう魔法が打てない。一か八かルークから貰ったショートボウを取り出す。


「狙って、狙って、打つ!」


 走り回りながら弓矢を構えるも、当然空振り。下手な鉄砲てやつで、矢を乱射する。


「お願い! 当たってぇー!」

「ロゼッタ、バカヤロー! 残りの矢の本数を考えろ!」


 ビッグラットと応戦しながら、ロゼッタに罵声を浴びせるルーク。ロゼッタに渡した矢は五十本。パニックになり矢を乱射し、残りの矢が後三本となった。


「熱くなりすぎたわ。アカデミーでは一応成績上位だったアタシの力はこんなものじゃない!」


 自己暗示をかけ、冷静になるロゼッタ。ブラッドバットとの距離を取り、弓矢を構える。


「さぁ、来てみなさい!」


 矢を引き、狙いを研ぎ澄ます。緊張感がひしひしと伝わってくる。


「えいっ!」


 ブラッドバットが静止した瞬間をロゼッタは見逃さなかった。手から放たれた矢は、真っ直ぐ直線軌道を描き、ブラッドバットに見事命中。むしろ魔法使いより、弓使いに転職した方が良いのでは? と思うくらいに。


「やってやったわよ! ルーク」

「ロゼッタ、少し休んでな! 俺はチュウ公を倒す」


 ロゼッタが無事で安堵の表情を浮かべた束の間、ビッグラット三匹を同時に相手にするルーク。体を回転させてはルークに体当たりし、三位一体さんみいったいの連携攻撃に苦戦を強いられていた。


「チクショー、さっきからうぜーな」


 防戦一方のルーク。ビッグラットがルークを取り囲み反撃の隙を与えて貰えない。徐々にダメージが蓄積され、ルークの身が危なくなってきた。立っているのも段々と辛くなってきている。


「マジで何とかしなきゃやべーな」


 目が霞んできた、うわっ! 出血してるじゃねーか! これ。心の中でそう思いながら、昔街のいじめッ子が三人でルークをいじめている光景を思い出した。


「やーい、チビルーク! 悔しかったらかかって来いよ!」


 まだルークが十歳の頃、ルークはそれほど身長はなく、いじめの標的にされていた。いじめている相手はアカデミーに通っている貴族で、アカデミーに通っていないルークを憂さ晴らしするかの様に街中で会っては、執拗にいじめていた。


「どうした? 来ないのか? アカデミーにも通えない貧乏ルーク」

「う、うるせー! 俺は鍛冶士になるんだよ! お前達の相手をするほど暇じゃねー!」

「生意気な! おいっやっちまえ!」


 二人がルークを抑えつけ、いじめの主犯格の貴族がルークを殴り続け憂さ晴らしをしていた。それを見掛けた大人の静止が入ると、三人組は颯爽と逃げたした。


「親父ぃ、俺悔しい」

「何だ? ルークまた喧嘩か?」

「一対一じゃ、負けねーのに」

「いいかルーク、モンスターと戦う時などはな、戦場は常に一対一とは限らねーぞ。悔しかったら強くなれ!」


 男は喧嘩してなんぼ。ザックスのルークに

 対する教育方針。とは言えいじめを受けている事は知ってはいたが、敢えて助けなかった。それは、ルークの目が全くあきらめない信念を感じたからだ。ルークはそれから、筋トレやジョギング、体術を我流で覚え今に至る。


「おいっルーク! しばらく見なかったが生きていたか?」


 それからルークが十五歳になった時、仕事と修行に明け暮れ、いじめの主犯格の貴族と街の用水路で鉢合わせ。


「お前の様な貧乏平民には、泥水をすするのがお似合いだな」


 会うや否や、いきなり空き瓶を持ち出し泥水を汲み、ルークの頭にかけ出した。


「相変わらずだな………お前」


 そう言った瞬間、力を込め拳を振りかざしたルークは貴族の顔を思いっきり殴り倒す。それは歯が一本抜けてしまう程の威力だ。更にルークは倒れた貴族の頭を地面に押さえつけた。


「平民風情から、地べたを這いつくばらされる気分はどうよ? 貴族様」

「こ、この平民風情があぁぁ!」


 逆上した貴族が胸元からナイフを取り出しルークの腹部を刺そうとしたが、ルークは直ぐに蹴りを浴びせ貴族をノックアウト。恐怖を感じたのか、その後貴族はルークにちょっかいを出すのを止めた。


「全く……何だって今になってこんな事を思い出すんだよ……」


 ビッグラットの攻撃を凌ぎ、突然ルークは真上にジャンプ。


「俺流格闘術、稲妻落とし!」


 重力に身を任せ、垂直落下しビッグラットに稲妻落としを浴びせるルーク。稲妻落としと言っているが、実際は垂直に飛び、かかと落としを浴びせるだけ、ルークが勝手に命名した技。


「チュウ公、これが何かわかるか?」


 二匹のビッグラットを倒し、残り一匹のビッグラットに尻尾を見せ付けるルーク。稲妻落としを食らわせた後に、聖剣セラフィムで残り一匹の、ビッグラットの尻尾を切り取っていた。


「チ、チュチュー!」


 自分の尻尾を見た瞬間、青ざめてはあわてふためき、ルークと目が合った瞬間ルークからただらぬ殺気を感じたのか、ビッグラットはこの場を逃げ出した。


「何とかなったか……」

「ご主人様ぁ、流石ですぅ」

「ルーク、はいっ薬草」


 幼なじみだけあって、ロゼッタは黙ってルークに薬草を差し出す。ルークも黙って受け取り、傷も癒えた。
































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