第4話 鉄がない2

「先ずは冒険者ギルドへ行って、正式に依頼の受理だね」


 ロゼッタが先陣を切り、冒険者ギルドに足を運ぶ。初めて遠足に行くかのような、はしゃぎっぷり。

 ルークはと言うと、あまり冒険者ギルドに足を踏み入れたくない。何故なら聖剣セラフィムを手にし、街中ルークが二代目勇者と噂が広まってしまったからだ。


「すいませーん。このホルン鉱山のクエスト受理したいのですが」

「あら、新米冒険者さん? ごめんなさい、このクエストは新人さんにはあまりおすすめしていないの」


 鉱石屋の主人が出した依頼のホルン鉱山モンスター討伐、ギルドのアドバイザーのお姉さんが言うには、大量のモンスターが住み着き新米冒険者には荷が重い。


「ふむふむ報酬は、金貨10枚と銀貨5枚か、確かに悪くはない報酬だな」

「でしょでしょ? 聖剣使いのルークがいることだし、大丈夫」

「えっ? 連れの方噂の聖剣の勇者様?」


 依頼書に目を通すルーク、確かに報酬は悪くはないがロゼッタよ、聖剣があるにしてもそれを使いこなせないと意味がない。ルークがそう言おうとしたのに、アドバイザーのお姉さんがルークを見ていきなり勇者扱い。


「いや、だから俺は勇者じゃないから」

「この際ルーク! アンタも冒険者に登録しなさい!」

「だから、やらねーって!!」

「ご主人様、冒険者はいいですよぉ。何と言っても様々なスキルを習得できますから」

「おい! セラ少し黙れ!」


 ロゼッタの勧誘大作戦にセラまでも乗っかってくる。アドバイザーのお姉さんの出る幕がないくらいに。


「とにかくこのクエストやります!」

「わかりました...一つ約束をして下さい。危なくなったらスタコラサッサと逃げて下さいね! 命を粗末にしてはいけません!」


 話しによれば、ホルン鉱山へ行くには貴族街を経由して行かなければならない。

 ホルンの街は、平民街、商業街、貴族街と分かれている。ルークやロゼッタは商業街の人間だが、平民と変わらない。ただし、商業街には貴族も商売を行っているので商業街は平民と貴族が共に暮らしている。


「貴族街かぁ、俺はあそこ好きじゃないんだよな」

「ルーク貴族に何か因縁でも?」

「別にないけど、上から目線で見下すあの態度が気に入らねー」


 賑やかな商業街を経て、貴族街へ。

 そこには立派なお屋敷と、上品な薔薇を始めとする植物と綺麗な建物の街並み風景が出迎えてくれた。


「ほらほら、あそこがアカデミーで、あの大きな城がホルン王国のシンボル、ホルン城」

「へいへい……」


 完全に遠足気分のロゼッタ、しかも、貴族街にあまり足を踏み入れた事のないルークに貴族街を案内をする。


「平民風情が、気安く貴族街に入るな!」


 一人の貴族がルーク達に罵声を浴びせる。

 これだから貴族は……ルークの眉間にシワが寄るが相手にはしなかった。全ての貴族がそうではないが、中には平民だからと言って見下す貴族も。商売をやる以上色んなお客を相手にしなければならないから、当然それはルークの嫌いな貴族でもだ。


「そんな平民風情から、武器やら何やら買って頂いているのはどこの貴族様でしょうか? 俺達平民が汗水流して魂込めた武器やら薬草を、貴族様は大金を出して買って頂き誠にありがとうございます。そうしなきゃあんた達は生きて行けねーよな?」


 憎まれ口な捨て台詞を吐き、貴族の悔しがる顔が目に焼き付いた。ルークはスッキリしたと言わんばかりな顔付きだ。


「ロゼッタ、ここからは俺も未開だ準備はいいか?」

「任せなさい! 地図もあるから大丈夫」


 ホルンの街の入り口にたどり着き、ホルン周辺の地図を出すロゼッタ。


 いざ門の外へ、そこには広大な草原と岩山が立ちはだかる。ルークとロゼッタ、そしてセラを含めた初めての冒険。


「しかし、草原ばかり」

「道に迷わないようにね。地図を確認」


 しばらく地図とにらめっこ。ホルン鉱山はどこに? 沈黙が続く。


「ル、ルーク……北はこっちで合ってる?」

「お前迷ったな?」


 その一言にロゼッタが青ざめた。

 どうしようか? 素直に言うべきか……それともアカデミーで得た知識を自慢するか? でも正直アカデミーの講座はあまり頭に入ってないし。


「素直に言え! 怒らないから」

「すいません……迷子です」


 いつもなら自慢気に、アタシのアカデミーで得た知識を今こそとか言うのに、珍しく素直に謝った。


「地図の確認をする前に、目の前のこいつらを何とかしないとな」

「ふんぎゃー! モンスター!」


 行く手を阻むかの様に、ルークの目の前にモンスター襲来。周囲を確認、数を把握する。

 そのモンスターは初級レベルでも勝てるスライムであった。


「四体か……」

「ご主人様今こそ聖剣セラフィムを使うのです!」

「使うまでもねー」


 指をポキポキッと鳴らし、スライムの攻撃に備えるルーク。


「そこだ!」


 ルークの拳がスライムにヒット。


「あ、あれ? 効いてない?」


 普通の人間なら、一発KOなのにスライムの体がルークの拳を優しく包み衝撃を吸収した。


「チ、チクショー! これならどうよ?」


 今度は回し蹴りをスライムに浴びせるが、結果は同じだった。

 しかも体を変化させ、指の形を作りルークにかかってこいや! と挑発行為。


「ふざけるなー!」

「ルーク、スライムには打撃は通用しないの! 斬擊か魔法しか効かないの!」


 ロゼッタの一言にルークが固まった。打撃が通用しないのでは、聖剣セラフィムを使うしかない。


「ロゼッタじゃあ、お前に任せた」

「はいっ?」

「魔法使いなんだろ? 実力を見せてもらおうか」


 聖剣セラフィムを使うしかないかと思いきや、ロゼッタの魔法を頼りにするルーク。俺は喧嘩などは全て拳で戦ってきた。例え相手が武器を持とうが、全てそれを返り討ちにしてきた。ルークの信念が物語っている。


「むむむ、無理に決まってるじゃない! アタシのステータス見てみなさい」


 そそくさに、冒険者カードをルークに見せるロゼッタ。


 ロゼッタ レベル1

 力    3

 体力   2

 素早さ  7

 地力   10

 精神   8

 運    5

 HP   15

 MP   5


「おいっ! 何だこのステータスは?」

「見ての通り!」


 勝ち誇った顔で自慢するロゼッタ。

 魔法使いのくせに、何でMP5? 地力が高いのは認める。これじゃあ魔法一発放っただけでガス欠ではないか。


「アタシの魔法ファイヤーボールはね、消費MP3。つまりはね、ここぞって時にしか使えないの!」

「ふざけんな! どうやってステータスが決まったんだ?」

「それはね、職業を決めた後に、ステ振りはルーレットで決まったの」

「はぁ?」


 一歩間違えば、命を落としかねない冒険者。大事なステータスをルーレットで決めるとは冒険者ギルドはふざけてる。しかも、初級魔法ファイヤーボールで威張るロゼッタ、ルークの怒りが沸きだした。


「そう言うわけだから、ルークよろしく」

「ご主人様、聖剣セラフィムを使うのですよぉ!」


 見るに見かねて、セラがルークに聖剣セラフィムを使う事を促すが、ルークは喧嘩も全て拳で戦ってきた。剣に関しては素人同然。


「使えって言ってもなぁ……」

「ご主人様ちょっと失礼しますぅ」

「うわっ! 何をしやがる!」


 セラが羽を羽ばたかせルークに近づき、ルークの額に自分の額をくっ付け出した。


「ん? 何だこれ? 頭に何かが流れ込んでくる」


 ルークが感じた物、頭に何かビジョンが流れ込んでくる様な感覚。

 何だこれ? 剣の使い方? セラの額を伝って剣術のやり方が素人のルークに流れ込んでくる。しかし、付け焼刃で覚えて直ぐに実戦で使える物ではない。


「お前一体? 歩く辞書か?」

「私は精霊ですのぉ、だからこれくらいは余裕ですのぉ、精霊ナメるなですよぉ」


 不思議な事もあるものだ。ただ、額を合わせただけなのに、まるで剣術マニュアルの本を読んでいるかの様な感覚。


 剣の柄を軽く握り、振りかざした後に、雑巾を搾る様に握りこむ。


 ザシュ!!


「やれば出来るもんだな」


 ルークの斬擊がスライム一匹を真っ二つ。

 素人にしては上出来の剣捌き。

 本来なら冒険者登録した者は、モンスターを倒すとモンスターの体から光の球体が現れ、冒険者カードに吸収され経験値となる。しかし、ルークは冒険者登録していないのでレベル1のままである。


「ルーク凄い」

「ご主人様ぁ、その調子で後三匹殺っちゃて下さいですぅ」

「やっぱ俺には剣術は向かねーな」


 毎日ジョギングと筋トレを日課にし、我流で体術を身に付けたルークにとって剣術はやはり気持ち悪い物を感じた。


「残る三匹、しょうがねー、サクッとやるか」


 本来ならロゼッタが戦えば、ロゼッタに経験値が振り分けられるのに、何か勿体ない。魔法一発放ってガス欠では、はっきり言って足手まといとしか思えない。


「俺流奥義! 旋風斬り!」


 旋風斬り、ルークが勝手に命名しただけで、剣術にはそんな奥義は実在しない。強いて言うなら、旋風却の応用で両手に剣を持ち、回転斬りを浴びせるだけ。


「まっ、こんなものかな」


 旋風斬りが残り三匹のスライムを一掃し、地面に銅貨四枚が落ちた。モンスターを倒すとお金に変わる、ある意味ちょっとした稼ぎかも……と、ルークは思った。




















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