第3話 鉄がない
「親父ぃ、鉄使っていいか?」
「ん? ルークすまん、さっき王国から鉄の剣百本の依頼が来てな。その鉄全部使っちまうんだ」
「何のために?」
「何かどうやら、戦争が起こるだか、起こらないて噂だ。しかも、金貨百枚もらっちゃったからやるしかねーのよ」
この世界の通貨は、銅貨、銀貨、金貨と分けられている。銅貨は現代で言えば、一枚100円、銀貨は1000円、金貨は10000円である。ザックスがもらった金貨百枚は、百万円に値する。
「戦争ねぇ……しょうがない、銅使わせて貰うぞ」
「おっ? 聖剣を鍛え直すんだな? 銅なら腐るほどあるから好きに使え!」
「サンキュー親父」
本当に戦争なんか起こるのか? 起こらないで欲しい。そう願いながら聖剣の修復作業に取りかかる。
「まずはこの聖剣の錆び取らねーとな」
金属タワシを持ち、ゴシゴシと錆び取り開始。
一応聖剣だし、丁寧に慎重に錆を取る。
「あん、ご主人様、いけません! そんなに激しくしないで下さいですぅ。あぁん固い物が当たってますぅ」
「セラ変な声出すな! 集中出来ねーだろ! ただでさえ寝不足なんだからな! こっちは」
ルークが作業をする度に、いやらしい声を出し茶々を入れるセラ。夕べはあの後聖剣の中に戻るかと思いきや、そのまま実体のままルークと共にしていた。それよりか、セラと共に寝食を共にして、全く違和感のないルークの両親。
「よーし! 錆び取り完了こんなものだろ」
「ご主人様見てくださいですぅ、肌がツルツル、服も綺麗になりましたぁ」
「な、何ぃ!」
剣の錆びを取っただけなのに、昨夜までみすぼらしかったセラの容姿がいっぺんがらりと変わった。フリフリワンピースに、ボサボサのエメラルドグリーンの髪が綺麗にまとまっている。
「「こんな事あるのか?」」
ルークとザックスが珍獣を見る目でセラを見つめる。
「ふぅ、リフレッシュしましたぁ」
「お前……」
気にしてもしょうがない、再び仕事に戻る。
剣に熱を加え、溶かした銅を剣に流し込む。ハンマー片手に型を打ち付け繰り返す。
「あぁん、固くて熱い物がぁ、い、いけませんご主人様、そ、そんな、激しくしないで下さいですぅ」
「だから、変な声を出すな!」
銅とは言え、見事な光沢を型どった聖剣セラフィム。ルークの職人魂がこもった聖剣が生まれ変わった。
「ご主人様、見てください! 羽が生えましたのぉ」
「えっ?」
銅で型どった聖剣セラフィムが生まれ変わったと同時に、身の丈15センチくらいのセラに羽が生えた。聖剣を鍛え直せばこいつはどんどん進化するのか?
「やべーな、鉄が足りねぇ……ルーク鉱石屋に行って鉄鉱石を調達してきてくれ!」
「わかった」
「ルークお困りのようね!」
「ロゼッタ?」
どこから会話を聞いてたのか? ロゼッタが店の工房にやってきた。しかし、神出鬼没だな……こいつは。
「冒険に行くのね?」
「ただの買い物だよ、変な期待をしないように!」
「ご主人様私も行きますぅ」
「セ、セラちゃん? 綺麗になったねぇ」
店の武具の材料は鉱石屋で調達している。ただの買い物なのに、ロゼッタとセラまで付いていく。ロゼッタよ……何を期待している? ルークの心境がそう物語る。
「おっちゃんいる?」
「おや? ルークいらっしゃい」
鉱石屋に着くやいなや、元気な声で鉱石屋の店主を呼び出す。店内は鉄の材料となる鉄鉱石を始め、武具制作材料が取り揃えられている。
だが、店の中の商品は充実しているのに、鉄鉱石だけが入荷待ちと言った張り紙が張られていた。
「鉄鉱石品切れ?」
「あぁ、悪いな……今鉄鉱石が入手困難でな」
「どういう事?」
いつもは簡単に入手できる鉄鉱石が品切れ。ロゼッタは何故か、これは冒険の予感と胸に期待を踊らせる。
「ホルン鉱山な、あそこにモンスターが住み着いちゃって、冒険者ギルドに依頼を出したのだが、生憎街の手練れた冒険者はほとんど違う依頼に出払ってしまったんだよ。街に残ってるのは駆け出しの冒険者ばかり、駆け出しにこの依頼は厳しいてわけ」
「マジかよ……」
がっくりうなだれ、途方に暮れる。鉄がないと商売にならない、どうしたものか……。
「うん、取りに行こう!」
「賛成ですぅ、ご主人様、聖剣セラフィムの力を今こそ使う時なのですぅ」
嫌な予感が的中。何でこう、冒険をやりたがる? いついかなる時、命を落とすこの世界、ルークはこういう時こそ慎重に動く。
「ルーク! 本当に聖剣を持ってるんだな?」
「まぁ、成り行きで……おっちゃん何で知ってるの?」
「だって、ザックスさんがこんな物を」
───伝説の勇者フォトンが愛用した、聖剣セラフィムを持つ、二代目勇者ルークがいる武器屋は商業街道具屋隣。真心込めて冒険者様の満足の行く品を提供致します───
「な、何してやがる! あの親父ぃ!」
勝手に店のPR広告にルークが出汁にされた。そこまでは許す。それよりか、真心込めて? 確かに、冒険者に最高の出来栄えを提供するがモットーだが、ちょっと大げさ過ぎだ。
万が一、この公約が守られないとなれば、客の信用問題となってしまう。
「しょうがない……また出直すわ」
「ルーク、鉄鉱石取りに行かないの?」
「行くわけないだろ、どんなモンスターが住み着いているかもわからないのに」
「むぅー!」
膨れっ面のロゼッタを後に、家に帰るルーク。駆け出し冒険者のロゼッタに、いきなり難儀なこの依頼を受けるわけにはいかない。ルークのちょっとしたロゼッタへの気遣いでもあった。
「親父ぃ鉄鉱石品切れだわ」
「そうか、しょうがない、王国にはあるだけで勘弁してもらおう。不足分の金額はお返ししてと……ルーク何を怒ってる?」
一枚のビラをザックスの前に叩きつけるルーク。
「何だこれは?」
「うちの店の宣伝広告だ」
「それはわかってる! 内容が気に食わねー」
気に入らない内容、それは勝手にルークを勇者と仕立て上げた事。もう一つは満足の行く商品。
「何だそんな事か...」
「俺は勇者じゃねー! それと、冒険者の満足の行く品? それが出来なきゃ信用問題だぞ」
手を休め、煙草に火をつけるザックス。ぷはぁーと煙を吐き出す。
「冒険者一人満足させられないようじゃ、俺だってこの仕事やらねーよ! いいかルーク、俺だって命張ってこの仕事をしている! それともあれか? お前は冒険者一人満足させられないのか?」
「うっ……」
的確な事を言われて、何も言い返せない。しかし、ルークも今回ばかりは折れなかった。
「俺は勇者じゃねー! 親父を越える鍛冶師になるんだよ!」
「怒っているのはそっちか……」
勝手に勇者に仕立てたられ、腹の虫が治まらない。それでもザックスは冷静に煙草を吸い続けていた。
「二代目勇者様がいるとなれば、勇者見たさにお客を呼び込める。商売てのはな、
「うっ……」
見事に丸め込まれた……何も言い返せない。
「鉄が足りないならおじ様、アタシとルークで取りに行くわ!」
忘れてた。ロゼッタの存在をすっかり忘れてた。
冒険者になったばかりの、ロゼッタのやる気スイッチに完全に火が付いた。
「おっ! ロゼッタちゃん行ってくれるのか? ありがてぇー」
「はい! 冒険者として初仕事頑張ります」
嫌な予感……物凄く嫌な予感。
「ルーク! 女の子一人で危険な冒険に晒すのか? 女の子一人守れない様なら、俺の息子じゃねー!」
「あーもう! わかった行くよ! 行けばいいんだろ!」
まんまと二人の策にはめられた。渋々支度を整え、両手にルークお手製の手甲と背中に聖剣セラフィムを背負い、ロゼッタと珍道中が始まる。
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