第2話 レベル1ただの庶民です2
今日は散々な一日だった。街にモンスターの襲来、空から剣が降ってくるわで商売どころじゃなかった。夕食を済ませ直ぐに眠りについたルーク。
妙に体が重い……金縛りかこれは? ルークの体が何者かに抑えつけられている感覚に襲われている。
「おいっ! ルーク!」
誰だ? 俺を呼ぶのは?
「起きろ! ルーク!」
疲れてるから寝かせてくれ……無視して寝る。そうしようと思った。思ったんだが。
「だあぁぁぁぁっ! 誰だ?」
目が覚めてしまった。うっすらとまぶたをゆっくり開くルーク。
「起きたか?」
「げっ!!」
まぶたを開けたら、ふわりと長いマロン色の髪の毛の少女がルークの上にマウントポジションを取っている。
「ロゼッタ!!」
彼女の名前はロゼッタ。ルークの家のお隣さんで、家は道具屋を経営している。ルークとは幼なじみである。
「ロゼッタ、こんな夜中に何の用だよ? どうやって入った?」
「アタシの部屋からベランダをつたって、ここに来た」
家が隣って、こう言った幼なじみならではのイベントフラグが発生するものだが、しかし、寝覚めが悪い……しかも深夜に。
「アタシね、昨日アカデミー卒業したし、昨日アンタ聖剣セラフィムを手にしたでしょ?」
「そりゃおめでとうさん、お前昨日の事見てたのか?」
「そう、そしてアタシはめでたく冒険者登録致しました」
一枚のカードをルークに見せるロゼッタ、冒険者の証、冒険者カード。
このカードにジョブと現在のステータスからバイタリティー、つまり、HPとMPまで表示され、レベル表示もされているカードだ。
「アタシは冒険者になって、家の店の商品を仕入れたりするの。簡単に言えば店の為に業務拡大」
ロゼッタの店は薬草からマジックアイテム、魔法使い系には喜ばれる品物を取り扱っている。ルークの家の武器屋とは昔から持ちつ持たれつつの関係。
「それで、俺が聖剣を手にした事と何か関係あるのか?」
「あなたは知らないから教えてあげる。聖剣セラフィムを手にした者はね、勇者として見なされるの」
「えっ?」
「つまりは、聖剣が持ち主を選ぶの、ルークは聖剣の持ち主に選ばれたのよ」
「何だって! て、剣が何で俺の部屋に?」
ルークは目を疑った。あの後冒険者達が誰も聖剣を欲しがらないから、聖剣を売り物にならないガラクタ置き場に剣を置いたのに、何故かルークの部屋に。
「な、何で?」
再び、聖剣をガラクタ置き場に。
部屋に戻ったら、聖剣が部屋に戻っている。
「何でだー!!」
もう一度聖剣をガラクタ置き場に……やはり部屋に戻っていた。
「ルークうるさい! 夜更かしもほどほどにしときな!」
母親の怒号が飛び交い、今一度冷静になるルーク。
「マジか? これ生きてるのか?」
「うん、生きてるね」
たまらずにロゼッタが、相づちを入れた。
「もう、ご主人様、ひどいじゃないですかぁ」
「な、何ぃぃぃ!」
急に剣が喋りだした。やがて、聖剣から光が放たれ、何とも可愛らしい妖精が姿を現す。
可愛らしいのだが、妖精の格好がみすぼらしく、服がボロボロのワンピースに、髪がボサボサのエメラルドグリーン、体にはあちこちと黒く汚れが付着していた。
「えっと、どこからお話ししましょうかねぇ、あっやめて下さい! また捨てないで下さい」
妖精が話をしようにも、ルークが剣を捨てようとする。終いにはへし折ってやろうかという勢い。ただ、この妖精悪いやつではなさそうだが。
「私は聖剣セラフィムに宿る精霊ですぅ、成りは妖精の格好ですけど、立派な精霊なんですぅ」
「か、可愛い」
「ロゼッタ、少し黙ろうな」
剣に宿る精霊と言われても、何故こうしてルークの元に現れたのか? ロゼッタは可愛い印象を持ち、ルークはあんまり関わりたくないと、表情が顔に出ている。
「もう、そんな顔をしないで下さいよぉ、えっとですね、私、聖剣セラフィムは勇者フォトン様が魔王を討伐してから、人目の届かない場所に封印してくれたのですけどね、何か数日前にフォトン大陸に台風が上陸したじゃないですかぁ?」
「そうだっけ?」
「真面目に聞いてあげなさいよ!」
完全に興味なしのルーク、真面目に耳を傾けるロゼッタ。いつまで続くこの話しは? いい加減寝かせてくれ……ルークのまぶたが重くなってきた。
「それで、台風の時に、私のねぐら、つまり私が封印された祠ですね。台風で吹き飛ばされて私はしばらく気流に乗って空中散歩をしてましたのぉ、そしたら聖剣が段々と錆びてしまい力を失い、今に至るのですよぉ」
遠回しな説明で良くわかった。単に台風で封印が解かれ、雨風にさらされて剣が錆び、更に剣に宿る精霊もみすぼらしい姿になり、ルークの頭上に落下したと。
「だから、このままだとヤバイから、あなた様を持ち主にさせて頂きましたぁ。お願いしますぅ、私は以前の輝きを取り戻したいから手伝って下さい」
「理由はわかったが、勇者様が倒した魔王はどうなった?」
嫌な予感がしたから、先回りで勇者フォトン伝説に出てくる魔王の存在が気になった。
俺は世界一の鍛冶師を目指す男、そんな勇者なんかやってられん。しかも、勝手に持ち主に指名されていい迷惑だ。
「魔王ですか? そんなやつは勇者様が二度と悪さできないように、ギッタギッタのメッタメッタにして再起不能までしましたから、大丈夫ですよぉ、あっ、でも生き残りの魔王の配下達はわかりませんけどぉ。とりあえずは、この世界は平和だから大丈夫です」
「うん、わかった……お断りします」
「「えーっ!!」」
精霊が驚くのはわかるが、何故ロゼッタまで?
「そ、そんなぁ、あんまりですぅ。一生のお願いなのですぅ」
「頼み聞いてあげなさいよ! 可哀想じゃない」
「ロゼッタ、こいつが普通の剣なら俺は喜んで剣を鍛え直す。だかな! どうせ勇者として冒険に出ろ! だろ? だから断る!」
自分のポリシーを貫くルーク、あくまでも世界一の鍛冶師を目指す。冒険者に最高の武器を提供する、その信念は譲れないものがあった。
「ルーク、そう邪険にするなよ! 鍛え直してやれ!」
「お、親父? いつの間に? しかも、その顔……」
「おじさま、こんばんわ」
「おや? ロゼッタちゃんいらっしゃい」
どこから会話を聞いてのかわからないが、父ザックスが話に割って入ってきた。だか、何故か顔中アザだらけ。ルークが問いただすと、店を閉めた後、飲み屋に行き、遅い帰宅だったので母親に説教と愛のムチが飛んだらしい。
「だ、だけどよぉ……」
「俺を越えたいんだろ? 俺を越えたいならその聖剣を鍛え直す事すら出来ないようなら、俺を越えるのは夢のまた夢だぜ!」
チラリと精霊の顔色を伺うルーク。その眼差しは、ご主人様見捨てないで! 目をうるうるさせ、ルークに訴える。
「チッ……しゃあねーな、聖剣セラフィム、最高の剣にしてやろうじゃねーか!」
新たな決意を胸に、聖剣セラフィムをかつて勇者が使用した時の輝きを取り戻す。そして、口には出さないが聖剣を再び封印すると。
「ご主人様ありがとうなのですぅー、私も微力ながら、ご主人様の力になりたいですぅー、後、私精霊自身に名前をつけて欲しいですぅ」
「えっ? セラフィムじゃないのか?」
「それは、剣の名前。私精霊には名前がないのですよぉ」
こいつ……いきなり名前をつけろと言われても……ルークの思考が停止した。
「面倒くせーし、ああああ、でいいや……」
ドカッ! バキッ! ズドン!
いい加減な名前をつけたルークに、ロゼッタの鉄拳と投げ飛ばしが炸裂。そりゃ、ああああ、て名前をつけられたら、相手に失礼極まりない。
「あなたは、セラフィムの精霊だから、名前はセラちゃん! はいっ決定」
ロゼッタが命名し、精霊の名前はセラと名付けられた。それよりも大事な事が、フォトン伝説を今一度振り返ってみると、勇者は聖剣と一緒に魔王を封印したはず。そうだとしたら、魔王がいくら勇者に二度と立ち直れないくらいボコボコにされても、配下達は蘇っている。この時まではルークの思い過ごしであって欲しいと願った。
「それはそうとロゼッタ、お前俺に何か用事だったんじゃないのか?」
「あっ、そうそう、アタシ冒険者登録したって言ったよね?」
「うん、お断りします!」
「まだ何も言ってないでしょ!」
ロゼッタのしたい事はわかった。
ルークも冒険者登録をして、一緒に冒険を満喫しようと言うロゼッタの考え。
「あの時の約束は嘘だったの? 十年前にあんなに激しく求め合ったじゃない……」
「待て待て待て! あれはお前が木登りして降りれなくなって俺が助けたんだろうが! そもそも約束なんかしてないぞ!」
ロゼッタの考え、ひ弱な駆け出し冒険者の魔法使いが単身で冒険に出られるわけがない。そこで日々トレーニングしているルークの力が欲しい。ある意味、体目当てであった。
「と、とにかく! アタシは諦めない! 聖剣セラフィムの持ち主ルーク!」
ダメだこいつ、完全に俺を勇者と見なしやがった。
捨て台詞を残し、ロゼッタは帰宅。
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