第1話 レベル1ただの庶民です。


 フォトン大陸、名もなき大陸ではあったが、勇者フォトンにより、平和をもたらされた事で、その名前がついた。


 フォトン大陸の東の街、ホルンの街。海に面した貿易の街か、人々が賑わっている街。


「親父ぃ、材料買ってきたぞ」

「お帰り、ルーク。そこへ置いとけや」


 元気の良い少年ルーク、十七歳を迎え、父親が営む武器屋を手伝い、世界最強の武器を造り上げる事を夢見ている。 冒険者に最高の武器を提供したい。それが、ルークの家のポリシーである。


「ルーク、その錆びた銅剣、お前が磨け。俺は鉄の剣を総仕上げする」

「あいよー任せろ親父、今日こそは親父より最高の物にしてやるよ!」

「ガッハッハッ! お前の様な小わっぱに、まだまだ負ける俺じゃねーぞ」

「今日の晩飯は、ウリボウの肉入りカレーだと、母さんが言ってたぞ」

「じゃあ、尚更負けられねーな、早く仕事終えた方がウリボウの肉独り占めな!」

「あーっ!! ズリィーぞ親父ぃー!!」


 と、まぁ平穏な日々を暮らすルークと父親のザックス。 武器だけでなく、料理人に包丁を提供したりする先を見据えた商売をしている。


「親父ぃ、そういや肉屋のダンカンさん、包丁手入れしてくれだとさ」

「おぅ、そうか、明日行ってきてくれ」

「あいよー」


 翌朝、父、ザックスの使いをしに肉屋へ。朝日と潮の香りが清々しい朝を迎えてくれた。 体を鍛えるため日々ジョギングと筋トレをしてから、仕事に向かうのがルークの日課。


「いい汗かいたーさて、行くか」


 歩いて二十分、肉屋に到着。


「ダンカンさん、いる? 依頼の包丁取りに来たよ」


 スキンヘッドのマッチョなおじさんが、ルークを出迎える。


「ルーク、おはよう。これな、頼むわ。最近切れ味悪くてな、研いでもダメなんだわ」

「任せときな! 最高の切れ味に仕立てるぜ!」


 依頼の包丁を受け取り、店に戻って仕事支度をするルーク。穏やかな日常、染み渡る青い空、潮風と共に街の人々は徐々に動き出す。


 カーン! カーン!


 突然、街にモンスター襲来の警報の鐘が鳴り響く。


「うぉっ!!」

「モンスターか? そんなもんはなぁ、王国騎士団と冒険者に任せて俺らは仕事仕事」

「お、おぅ」


 何て、肝の座った親父。そんな父の背中を見て、育ったルーク、親父がカッコいい。 基本モンスター退治は、各地域を治める王国と冒険者の手を借りている。もちろん、冒険者には国から謝礼を貰っている仕組みだ。


「ウワーッ! 街の中に進入したぞ、住民を避難させるんだ! 戦えるやつは交戦してくれ!」


 冒険者と、街の警備に派遣された王国兵が、一般人を巻き込まない様に、神経を使いながら戦っている。


「親父、カウンターの前にいるの客じゃねぇよな?」

「ん? あれは、ホルンベアーじゃねーか」

「ウガァァァァァッ!!」


 ホルンベアー、ホルン地域に生息する熊。普段は山に居て大人しいのだが、自分の物を奪われると一変して、鋭い嗅覚を頼りに、奪い返しに来る熊のモンスター。 

 ホルンベアーは、店に陳列してあった格闘家用の武器、レザーグローブをくわえ出す。


「もしかして、あのレザーグローブの皮か?」

「ルーク、お前勘が良いな。あれは先日、冒険者から譲り受けた、ウリボウの皮だ」

「つまり、冒険者が仕留めたウリボウは、あいつの物で、ウリボウの皮を剥ぎ、ダンカンさんに頼んで、肉にして……昨晩カレーと一緒に食べた肉か!?」


 二人は青ざめた。

 肉、食っちまったじゃねーか!! と。


「グルルルッ」


 お構い無しに、ホルンベアーがルークとザックスに襲いかかる。店の中の商品を散らかしながら。


「「店の中で……暴れてるんじゃねー!!」」


 我を忘れ、二人の鉄拳がホルンベアーにクリーンヒット。店を荒らされた怒りにより、恐怖心など、どこかにぶっ飛んだ。


「グルルルッ」


「やべーぞ、あいつ起きやがった」

「完全に俺達を敵とみなしやがったな」


 ホルンベアーが再び襲いかかる。同時に冒険者、ニ、三名救援に駆けつけた。


「おいっあんたら、無事か? 早く避難しろ」


 避難しろ? 店をめちゃくちゃにされて避難しろ? このまま、やられっぱなしでは武器屋の名が廃る。


「「店をめちゃくちゃにしといて、タダじゃ済まさせねぇぞ! わかったか? クマ公」」


「おいっあんたら、逃げろって」


 冒険者の制止を振り切り、完全に頭に血がのぼったルークとザックス。


「親父、ここは俺にやらせろや! たまには、息子のカッコいいとこ見せてやるぜ」

「言ったな? 若造が。いいだろう、俺の屍を越えてみろ!!」


 人の話聞いてない。しかも、あんた生きてるだろ。二人に呆れた冒険者達、もう馬鹿は死ななきゃ治らないと思い、ルークの供養の準備を始め出す。


「おいおい……何? 俺が死ぬの前提? ナメられたもんだな」


 指をポキポキッと鳴らしながら、店の中にある鉄製の手甲を装着する。これは防具にもなるルークお手製の武器。


「覚悟はいいか?」


 お互い、にらみ合いが続く。ホルンベアーも、野生の本能なのか、ルークから感じる重圧に押されていた。


「どうした? 来ないのか?」


 中々動かないホルンベアー、しびれを切らし、ルークが手を招き挑発行動に入る。当然言葉が通じる訳がない。


「ウガァァァァッ!!」


 ホルンベアーが先に仕掛けた。大きな爪を立てながら、牙を剥き出しにし、ルークに噛みつき出す。このままではやられる……誰もがそう思っていた。


「やるじゃねーか……クマ公」


 やられたかと思った……。ルークの左手側の手甲がホルンベアーの噛みつきを受け止めている。だがもの凄い顎力、ルークの手甲を噛み砕こうと必死になるホルンベアー。

 ミシミシと歯ぎしりの音と、ルークをそのまま振り回そうかと考え出した。当然ルークは踏ん張りを効かせてホルンベアーの牙を粉砕しようとしていた。まさに我慢比べである。


「埒があかねーな」


 踏ん張りを効かせながら、右手でボディーブローを浴びせた。クリーンヒットとはいかないが、見事みぞおちに命中しホルンベアーが悶絶した。

 のたうち回るホルンベアー、しばらくしてルークを睨み付けるが。


「クマ公、命は助けてやる。次やったらただじゃおかねーぞ!」


 逆に鋭い眼光でホルンベアーを睨み付け、恐怖を感じたのか一目散に走り去って行った。


「あのガキすげー冒険者登録もしてないのに、ホルンベアーを素手でやりやがった」


 冒険者達の視線がルークに一点張り。 この世界の冒険者はギルドで冒険者登録をし、初めて己の力量を高める事ができ、スキルなどの習得が可能となるのに、冒険者登録もしていないルークにとってはレベル1のようなもの。むしろ、レベル1である。


「じゃ、あらかた片付いたし仕事仕事と」


 何事もなかったように、仕事に戻るルーク。周りの冒険者達は開いた口が塞がらない。


「親父ぃ、先ずは掃除からだなこりゃ」

「おぅ、客を待たせちゃいけねぇ。さっさとおっ始めるぞ」

「あいよー」


 完全仕事モードに入ったかと思いきや、ルークの頭上に古錆びた一本の剣が。


「何だこりゃ? 随分と古い剣だな」

「お、おいっ、その剣まさか?」


 一人の冒険者が剣を見ると何故か腰を抜かしていた。


「おとぎ話かと思っていた、勇者フォトンが愛用した、で、で、伝説の聖剣セラフィム!!」

「聖剣セラフィム? 何だそりゃ?」

「えっ? お前おとぎ話の勇者フォトン伝説知らねーのか?」

「うん、知らねー、親父何だそりゃ?」

「そうか、お前王立アカデミー通ってないからな、知らなくて当然」


 ルークが勇者フォトン伝説を知らず、冒険者が今時珍しいみたいな顔をする。知らなくて当たり前の自信満々に相づちを入れるザックス。

 王立アカデミーとは、様々な知識を勉強できる場所。下は六歳から上は十七歳まで通える場所、簡単に言えば学校であり、勇者フォトン伝説もここで勉強できる。


「貧乏な親父でごめんな! 本当はお前もアカデミーに行って欲しかったんだよぉ」

「わかったから、泣くな親父! 恥ずかしい。それにな、俺は昔から親父の仕事見て育ったんだから、俺は親父を越える鍛冶師を目指すぜ」

「う、うっ、何ていい息子だ! 俺は鼻が高いぞ。そんなわけで冒険者の方々、息子はアカデミーにも通えず、日々私の仕事を手伝ってます皆様に良い武具を提供をモットーに商売してます。武具を求めるなら当店を是非ともごひいきに」


 まんまとハメられた。自分の店のPRをどさくさに紛れてやるとは。


「えーっ、冒険者の方々この錆びた聖剣を欲しいヤツはオリハルコンでも魔法金属ミスリルでも持ってこい! 格安で鍛え上げてやるからよぉ、それまではウチで預かるぜ」


 更にルークまでもが商売魂を見せつけるが。


「「い、要らないです!」」


 冒険者が拒否するのも無理はない。聖剣セラフィムは勇者の剣、この剣を手にした者は勇者と見なされるから。そんな事を当然ルークが知るはずがない。

 その出来事を影から見守り、熱い視線を送る一人の少女の姿があった。






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