第21話

 カレンが家に帰ってきたとき、時刻はまだ九時を過ぎたばかりだった。この時間なら大丈夫だろう、とミネコに電話をかけた。五つのコールのあと、電話がミネコにつながった。

「もしもし、おねえちゃん?」

「ああ、カレン。久しいな」

「最近忙しくって。帰るの遅いから電話したら迷惑かなって」

「確かに、最近よくテレビでお前たちを見かけるよ。出演していない番組を探すほうが難しいくらいだ」

「もう。そんなことしてないで見ててよ」

「ふふっ、すまない」

「おばさん、どう?」

「良くも悪くも、だな。カレンの靴を見て刺激されたのか、アイドルだったころの話が増えたかな。意外と苦労も多かったみたいだ」

「そっかぁ……」

 カレンはくるくると自分の髪を指に巻きつけた。

「カレン?」

「あのね、今度、クリスマスライブすることになったんだ。一二月二一日だけど。いままでよりもずっと大きな会場で。衣装も新しくなるし……」

「それは、よかったじゃないか。そうか。そこまでいったんだな、カレンは」

「それでね? おねえちゃんも来られないかなって。なんなら、おばさんも一緒に……」

「それは……難しいな。一二月になってもいまのままとは限らないし。いや、正直いまでも危うい」

「でも、一応チケット送るから、行けたら来て。無理しなくていいから、ね?」

「ああ。善処するよ」

「うん……」

「……そろそろ切るぞ。早く寝て、明日に備えなさい」

「うん。急にごめんね。お休み」

「ああ」

 カレンは電話を切り、ため息をついてベッドに倒れこんだ。幼いころはいつもいっしょにいたミネコ相手に電話で気を遣い、緊張するという体験がはじめてだったせいで、仕事以上の疲労を感じていた。

(ライブ、あんまり喜んでくれなかったなぁ)

 カレンは寝返りをうって枕に顔をうずめ、ままならないことに対する不満をかき消すために唸りながら足をばたつかせた。

「カレン! うるさいわよ!」

 カレンは階下から飛んできた母親の怒号に足を止め、行き場をなくした不満が発散できずに腹のなかに渦巻いていくのを感じた。

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