第19話
ある忙しい夏の終わり、カレンとリョウは事務所に立ち寄った。
「おはよーございまぁす」
「あら、ふたりともおはよう」
手で扇ぎながら事務所の扉を開けてカレンたちがなかに入ると、ダンボール箱を抱えた事務員の天宮が笑顔で出迎えた。
「持ちますよ、それ」
「助かるわぁ」
リョウはカレンに渡されたダンボールのふたをすこし持ち上げ、中を覗き込んだ。
「すごっ! これ全部ファンレター?」
「ええ。リョウちゃんのぶんもあっちに置いておいたから」
天宮はそう言って事務所の奥に設置されてあるソファを指さした。その隣にはカレンが持っているものと同じダンボールがひとつ、きちんと置かれていた。
「これで三人分じゃないんですか?」
「なに言ってるの。ひとりひと箱よ。まあ、ハナヨちゃんはそれだけじゃすまなかったけれど」
天宮がテーブルのほうに視線を向けると、ふたりはそれにつられて同じ方向を見た。そこには新人の矢吹がおり、ファンレターの中身をひとつひとつ開封して危険物が入っていないかを確かめていた。
「贈り物のチェックなんて、むかしなら私ひとりで充分だったのにねぇ」
「天宮さぁん」
「はいはい。……じゃあ、時間になったらお迎えが来るから、それまではゆっくりしててね」
忙しい忙しい、と天宮が嬉しそうに歌いながら後輩の手伝いに行くと、カレンとリョウは部屋の奥にあるソファに座ってファンレターを読み始めた。
「なあ、なんて書いてあった?」
「えっと、素敵な歌に勇気をもらいました、とか。応援メッセージかな。リョウは?」
「頼りになるとか、カッコイーとか」
「リョウは女の子のファンも多いよね。羨ましいなぁ」
リョウは肩をすくめ、新たな手紙を読み始めた。なかには似顔絵が描かれたものもあり、互いにそれを見せ合っては笑い、久しぶりの暇を楽しんだ。
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