第9話
撮影場所に戻ってきたリョウはポニーテールにしていた髪を下ろし、メイクも落ち着いたものに変わっていた。服装はモスグリーンのスタンドカラーコートに紺色のブーツカットパンツ、カーキ色のトートバッグと革靴という、社会人として通用しそうな出で立ちだった。
「暑い」
リョウは手で自身を扇ぎ、気だるそうな雰囲気を携えていた。ついで入室してきたハナヨは柿色のトレンチコートに黄色のマフラーを巻き、焦げ茶色の小さなボストンバッグを持ち、同色のロングブーツを履いており、ストッキングが見えていることからコートの下はスカートスーツのようだった。
ふたりは並んでスクリーンの場所に立ち、リョウがハナヨを見上げて話しながら歩いているようなポーズで撮影されていた。
カレンが離れた位置からふたりを眺めていると、ミネコがそばにやってきてカレンの頭に手を置いた。カレンはミネコが自分の頭を撫でた理由を尋ねるように、わずかに顎を上げて上目遣いにミネコを見た。
「今回はしかたない。カレンは背が低いからね」
「うん」
「モデルだけがアイドルの仕事じゃない。それはカレンもわかっているだろう?」
カレンは黙って頷き、それでも撮影されているふたりから目を離すことなくじっとしていた。
「おばさんも背、低かったよね」
「ああ。カレンと同じくらいだ。それでも、立派なアイドルだったよ」
「でも、おばさんは歌って踊れた」
「カレンもそうだろう?」
カレンはうつむいて首を振り、さきほどモデルに投げられたことばを小さく呟いた。ミネコはそのことばを肯定も否定もせず、ただ遠くを睨むように眉間にシワを寄せ、黙ってカレンの頭を撫でていた。
「大丈夫だよ。カレンは大丈夫だ」
ミネコが絞り出すような声でそう呟いたとき、リョウとハナヨが撮影を終えてスポットライトが当たる明るい場所から帰ってきた。
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