第7話
リョウがハナヨに連絡を入れると、ハナヨは見学を快諾してスタッフたちにも話を通してくれた。とはいえ、少人数で行われていた撮影だったからこそ通ったようなお願いであり、たびたび同じことはできなそうもなかった。撮影にはミネコも付き添っていたので、彼女がカレンとリョウを車で迎えに来た。車内でふたりはミネコから小言を言われることはなかったが、ほかの人に迷惑をかけないこと、見学に来たからにはなにかを得て帰るようにと念を押された。ふたりは気軽に構えていたこともあり、そのことばに少しだけ戦いた。
「宣材写真撮ったところとあんまり変わらないね」
現場についたカレンは辺りを見回した。室内は撮影に必要な機材以外のものはなく殺風景で、天井の明かりは灯されておらず薄暗い。打ちっぱなしのコンクリートの壁が廃墟を思わせるが、それほど汚れているわけではなかった。出入り口の対面にある壁は天井から降りてきている真っ白なスクリーンで大部分が見えず、スクリーンはそのまま床を這って地面に正方形の領域を作っていた。その場所を囲むようにライトが設置され、明かりを逃がさないように傘が背面を覆って、スクリーンだけを照らしている。その中心で光を浴びながらモデルたちはカメラマンの指示を受け、写真撮影をしていた。
「眩しそう」
「日焼けするくらいには強い光よ」
カレンが呆然と立ち尽くしていると、着替えを終えたハナヨがなんの前触れもなく声をかけ、ふたりを驚かせた。その衣装は裾にアーガイル柄がわずかに刻まれた白いワンピースで、胸の下に近い位置を二本のベルトで絞り、藤色のカーディガンを羽織るという、他のモデルたちよりも落ち着いたものだった。
「暑くないですか」
「いや、ほかに言うべきことあるだろ」
「秋物の撮影だから、多少はね」
スクリーンの中心にいたモデルがその領域から出て行くと、カメラマンはハナヨに向かって手を挙げた。
「外での撮影は終わったから、つまらないかもしれないけれど」
ハナヨはボブカットされた色素の薄い髪をかきあげ、カメラマンのもとに向かった。
「歩きかた、綺麗だよね」
うむうむ、と頷くリョウの横をさきほどまで撮影していたモデルが通過し、部屋の外に出て行った。カレンはその扉を見つめ、首をかしげた。
「さっきの人、ヒール脱いだらリョウと同じぐらいじゃない?」
「そうかい?」
リョウはすでにいなくなった人の影を追うように振り返り、ついでミネコのほうを見た。ふたりの視線に気がついたミネコは首をかしげたが、やがて心得たと言わんばかりに頷いた。
「さっきの子はたしか一六五、六センチだったかな。虚偽がなければリョウと同じだ」
いまは七センチヒールを履いていたがね、とミネコは指でおよそ七センチを作ってみせた。カレンもそれに倣って七センチを作って自分の頭に乗せてみたが、それでも一六〇センチに満たない自分の身長を思い出して辟易とした。
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