第5話

 授業中に送ったメールに返信が来て、リョウとカレンは最寄りの駅で待ち合わせすることになった。しかし、放課後になってカレンが携帯を見ると、リョウから新たなメッセージが送られてきていた。

『授業、早く終わったから校門まで来てみた』

 その文面を見たカレンは窓際に駆け寄り、正門のほうに目を走らせた。門の柱にもたれかかっている他校の制服を着た少女が一人、退屈そうにしているのがカレンの目に入った。カレンはカバンを手にして、急いで下駄箱に向かった。靴を履き替えて正門に向かうと、カレンに気がついたリョウが手を振った。

「ごめん、待った?」

「いんや。たいしたことないよ」

 カレンは息を整え、リョウの制服をまじまじと眺めた。ワイシャツのうえに芥子色のカーディガンを羽織ってシャツごと肘うえまで腕まくりし、袖を白く見せていた。そこから伸びる健康的な色の手首には紫のシュシュとピンクのポンポンがついた髪ゴム、天然石のブレスレットを装着していた。しかし、それは右手だけで、左手首にはなにもついていない。首には赤いチェックのリボンをゆるく付け、スカートはそのリボンと同じ色模様で揃っていた。靴はカレンと同じような学校指定のローファーと白い靴下だった。総じて明るい色調の制服姿はギャルというほどけばけばしくなく、いかにも活発なリョウらしい洗練されたファッションのようだった。

「制服、初めて見た。可愛いね」

「カレンも。……なんていうか、スタイリッシュじゃん?」

 カレンの制服はワイシャツにチャコールグレイを基調としたパープルチェックのスカートで、ネクタイもスカートと同じ色模様だった。そして、彼女は校則を遵守していることもあって、アクセサリーの類はなにひとつつけていない。リョウと並ぶことで、真面目さや地味さが際立って見えた。

「わたしももうちょっと可愛い制服がよかったな」

「ミネコさんの母校なんだったけ」

 リョウは頷くカレンの肩を叩き、出発を促した。カレンは先に歩きだしたリョウのあとを追い、いつもミネコにするようにリョウの手を絡め取った。

「ん? どした?」

 リョウが不思議そうに繋がれた手を見下ろし、立ち止まったことでようやくカレンは自分がしたことに気づき、慌てて手を放そうとした。

「わ、ごめん」

「いいっていいって」

 リョウは離れていったカレンの手を追いかけて捕まえ、逃げ出せないようにしっかりと握った。

「いつものくせで」

「ミネコさんと?」

 ふうん、とリョウは頷くカレンにそっけなく答え、歩き出した。ミネコほどではないが、カレンとリョウにも身長差があり、自然とカレンがリョウを見るときには上目遣いになった。

「どっか行きたいとことかあるん?」

「マック!」

 カレンは威勢良く答え、怪訝そうな表情のリョウに期待の眼差しを向けた。

「もっと別のところにしない? スタバとかでいいじゃん。そのほうが近いし」

「でも、おねえちゃんといるとジャンクフードとか食べられないし。リョウしかいないの」

 お願い、とカレンが拝むように手を合わせると、リョウはため息をついてその希望を受け入れた。

「あの人健康志向だしなぁ。けど、そこまで制限されてんだな」

「おねえちゃんには内緒にしといてね?」

 どうしようかな、とリョウは笑い、カレンを困らせようと悩んでみせた。カレンは眉尻を下げ、甘えるように何度もお願いした。


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