4話目

「カレンってさ、アイドルなんだよね?」

 平日の昼間、普通の高校生が学校に行くようにカレンも高校に行って授業を受け、昼休みに友人の茜と美希と昼食をとっているときのことだった。おかずのウィンナーを食べた茜がそれを運んだ箸を口から抜くこともせず、唐突に疑問を投げかけてきた。

「まあ、一応」

 カレンはひとつの卵焼きを箸でふたつに切り、ひとつを持ち上げた。

「なんで学校きてんの?」

「茜ちゃん!」

 美希はカレンと茜を交互に見て、眉尻を下げた表情で行き場のない手を空中で彷徨わせた。これから起きるだろう争いを止めようとする動きにも見えるが、あまりにも弱々しい動きでそれも叶いそうにない。

「いや、ちがくて。アタシのイメージだとさ、アイドルって学校に来ないと思ってたから、なんでかなーって」

「仕事がないから、かな」

 美希は争いに発展しなかったことに安堵しながらも、カレンが纏う空気が重たくなったことを敏感に感じ取り、なにか励ましのことばを、と辺りを見回した。

「そうだ! 昨日、テレビ見たよ。ワイルド・スワンの三人で出てたやつ。ねえ?」

「ああ、見た見た。カレン、全然映ってなかったけどな」

 ああっ、と美希は声をあげ、余計なことを言わないでよ、と頬を膨らませて茜を睨んだ。カレンは自分たちが見ていなかったほとんどの時間もどういう扱いを受けていたかを悟り、遠い目で窓の外を見た。

「あの背ー高い人面白かったな。意味分かんなかったけど」

「なんか、ごめんね?」

「ううん。わたしがダメだから」

「じゃあさ、気分転換に今日、遊びに行かない? レッスンないんでしょう?」

「ああ、うん……」

 カレンは美希の誘いに頷きかけたところであることを思いつき、言葉を止めた。

(リョウとの約束、放課後にすればいいんじゃ……)

 カレンとリョウは同学年でありながら学校が違ったため、食事に誘うときはいつもレッスンやステージのあとだった。そのため、近くにいるミネコに妨害されることが常だったのだが、放課後のプライベートな時間まで干渉されるいわれはないと気づき、カレンは力強く頷いた。茜と美希は急に黙り込んだカレンを見て、首をかしげた。

「カレン?」

「ごめん。今日はメンバーで作戦会議しなきゃだから」

「そっかー」

「ゴールデンウィーク、時間空いたときに声かけてね?」

 カレンは頷き、残りの弁当を口に運んだ。


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