第11話 わたしと植物園
巨大な卵型をしたガラス張りの温室に真っ赤なポインセチアが咲いている。壁に覆うように色とりどりのビオラが植えられている。温室の中は初夏のように暖かく、着ていたセーターを脱いだ。
どの花にも名札がついている。
ムラサキゴテン、ネメシア、マーガレット、マリーゴールド、シロタエギク、クフェア、チェッカーベリー、ワイルドストロベリー、コリウス、カレンデュラ、ノボタン、プリムラ、ヒューケラ。
ワイルドストロベリーが赤い実をつけている。絶対に食べないでくださいと注意書きがされていた。
植物園の外は芝生が広がり、ところどころに大きな木が立っている。ケヤキや、クスノキが多い。
芝生の上では子どもたちがバドミントンをしている。髪の長い女の子が見当違いの方へシャトルを打つ。
「そっち誰もいないよ。透明の人とやんの?」
男の子がそんなことを言って笑っていた。
公園の中ではスケボーをしては休み、手すりに向かって腕立て伏せをしている男子二人組がいた。父と子がラジコンを操作し、青いポールを倒してはまた立て何度も繰り返し特訓していた。
「まだ子どもなんだい君はわかるかい?」
小学生らしき少女がどや顔で男の子にこんな台詞を言っていた。
ネズミモチ=タマツバキは実がネズミの糞のようだからこんな名前らしい。
東洋蘭展示会というのがやっていて、老人たちが花を見せ合っていた。東洋蘭というのは、花がこぶりで豆から芽が生えているように見えて、あまり美しくなかった。男性人口が多く、蘭の入った器は歌舞伎の画が書いてあったり、バナナを模していたり、器の方にお金がかかっていそうだった。
わたしはこの日、お気に入りの猫のぬいぐるみを抱えて植物園を歩いていた。そのつぶらな黒い瞳が花を見つめているのを見ると、心がふわっと暖かくなった。しかし、他の人に見られると恥ずかしいので、両腕でぎゅっとして顔を見えないようにしていた。ぬいぐるみは茶色がかったクリーム色/カフェオレのような色をしている。餅のように柔らかく、抱きつくたびに後ろの尻尾がはねて可愛い。もちまると名前をつけたそのぬいぐるみと一緒に切り株の上に乗り写真を撮り、倒れた木々の上に乗り、折れた枝を振り回し、楽しく過ごしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます