第10話 わたしと光のほうへ

 いつでも光の方を選ぶ。

 そういうまばゆいほどの正しさはどこで手に入れればいいんだろう。そんな勇気を持ち合わせていなかった人は灰色の闇の中でもたもたしているうちに、何か大事なものを奪われていきそうで怖い。

 暗闇が甘く囁いて、しょうがないじゃない、みんなもしている、関係ないし、意味ないし、得にもならない、助けられない、必要としてない、わたしは悪くない、関わりにならず関係ないから、関係ないことは悪くないよね……。

 何か大切なものを忘れてきたかもしれない。そう思い込みたいだけかもしれない。

「忘れものは見つかったかい?」

 誰かにそう聞かれたら胸を張って見つかったと言いたい。情けなく無様で自己保身ばかりのわたしは、誰かを助けようとするまばゆい人を疎ましく思う。彼らが正しいからこそ、自分の醜さが際立ち、自嘲の笑いを漏らすしかなくなる。わたしのどこかとても奥深くには光が満ちていて、何かのきっかけで小さな扉が開くと、勇気とともに光の方へわたしも踏み出せると、祈るように信じる。未来を信じることでしか、可能性を信じることでしか今のわたしを肯定できない。 光がたりない。窓の向こうには暗闇しかない。

 何か些細なきっかけで、偶然でもいいから、身体が勝手に動いて、誰かを助けたい。救いたい。役に立ちたい。ヒーロー願望が他者貢献を渇望している。わたしを助けたいなら、助けさせて。

 いつもいつでも、わたしの力でも助けられる、とても都合のいい、助けられる人を待ってる。貴方をわたしは助けるよ。わたしのために、貴方のために。

 それがどれだけ醜い理由だとしても助けたことにかわりない。光の方へ光のほうへ。ずっと羨ましく思っていた。

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