第4話 わたしとプールサイド

 誰もいない夏のプールサイドにはプールを監視するための高い椅子がある。正確な名前は知らないけれど、プールの中央の左右両端に一つずつ置いてある。いそいそと短い梯子に登って椅子の上に座る。三角座りで座る。頭を膝に乗せて少し傾けて暗く濁ったプールを見る。

 混沌の闇のように奥まで見通せないプールの底には何かわたしにとって重要なものが沈殿している気がした。

 波打ち際にとても遠くから旅をしてきた波の一つ一つは白波の立ち方や波の大きさ、音の立て方も違うから時間はゆっくりと進んでいく。

 ふと、白波。

 わたしはセーラー服を着ている。太陽が眩しい。

 激しい風で水面が揺らめくと同時にわたしの黒いプリーツスカートもはためく。連動しているような揺れが私の時間感覚を奪っていく。

 ――プールに波は立たない。

 ここはどこだろう。

 向こうからやってくる巨大な波濤を乗り越えなければいけない。転覆して水の中から一生這い上がれなくなるという謎の確信をわたしは覚えてしまった。

 ここはプールサイド。

 わたしは水面を眺めている。

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