フィールドウォーカー

丹花水ゆ

第1話

校庭。

そこは、人が集まり、みんなで遊ぶところ。体育の授業などで運動をするところ。普通はそれだけだ。しかし、うちのの校庭はそれだけではない。名前もない、得体の知れないものが寄ってくるのだ。そして、うちの学校が他の学校と違うところはそれだけではない。その妖怪(ここではそう呼ぶ。)を退治する学生がいる。ここと同じように妖怪の寄ってくる場所は全国に無数にあり、ここを除くすべての場所はプロの大人たちが退治している。しかし、うちの学校では特別な資格を与えられた学生6人が退治している。特殊能力研究所、通称特研の行っている試験合格後に与えられる資格とほぼ同じ効力を持つ特別な資格だ。この資格があるから、学生であるにも関わらず、妖怪退治ができる。国は表向き特研の人員育成のためと言っているが、本当のところは怪しい。そして、今その資格を持つ6人のうち、3人が校庭で妖怪と戦っている。


ドオオオオオン。グオオオオ。

妖怪は空から校庭に向かって急降下し、結界にぶつかった。妖怪は何度も結界に爪を立てるが、傷一つ付かない。それもそうだ。この結界は俺たち学生ではなく、プロの大人たちが張っているのだから。ちょうど、校庭から飛び上がり、結界をすり抜け、妖怪の前に立つ者がいた。

その女子生徒は柔道着を着るのみで、武器も持たずに妖怪に突っ込んでいった。

「はたたたたたたた!」

右拳と左拳を交互に突き出し、同時に中学生にしてはあるほうの二つの山が揺れる。

「ハッ!」

最後に一発蹴りを決め、次の人にバトンタッチ。妖怪は蹴られた勢いで吹っ飛んでいき、向こう側に居た女子生徒の前に倒れる。その女子生徒は両手に1本ずつ、背中にも何本か背負っている。

「真刀一誠流・新月。」

速すぎて、軌道がまったくも見えない。気づくと、妖怪に四肢はなく、体も傷だらけだった。

そして、空中に目を凝らすともう一人女子生徒が空に浮かんでいた。

「いくぞー!」

その女子生徒は手に白く輝く光の球を持ち、今まさにそれを投げようとしていた。そして、大きく振りかぶって投げた。ストライク!妖怪の体のちょうど中心に命中した。数秒間何の変化もなかったが、次の瞬間妖怪の体が内側から弾けた。小さな肉塊となって中に飛び散った。結界にも当たって、ベチャッと不快な音を立てる。そうこうするうちに白い球を投げた女子生徒が近づいてきた。

「京一君?なぜ退治に来なかったのかな?私の超絶的にすばらしい魔法を間近で見たくはなかったのかな?」

「ああ、教室に居ても十分に見られたからな。それになんで雪奈のために結界のまで上らなければいけないんだ?」

「そうか、そうか。教室からのほうがよりすばらしく見えるからか。そうならそうと最初から言ってくれれば良いのに。」

「おい、聞いているか?」

「もちろん聞いているとも。私の魔法は言葉に表せないくらいすばらしかったという話だろう?」

「いや違うし。」

「そんなにテレナクテモ❤。」

「照れてない!」

「まあ、良い。ところでそろそろ良いじゃないか?」

「妖怪退治だ。」

「だから能力が・・・。」

「それくらいの封印、お前なら破れるだろう。」

「お前、特研を敵に回したいのか?」

「冗談だ。しかし、お前もフィールドウォーカーなら少しくらい戦いを見に来る位しろ。」

「はいはい。」

「では、今日の昼休みに特別室に来い。ミーティングだ。」

「はーい。」

そして、昼休み。久しぶりの特別室へ向かうのであった。


「ちわーす。」

「遅い。もうミーティングは始まっているぞ、京一。」

そう言いつつも、机の上にはお菓子とお茶とそれからトランプ。

「この状態で?時計を持ったウサギが走っていても信じられるやつは居ないと思うが。」

「これはその・・・。」

「萌恵、ミーティングはもう始まったのか?」

「いえ、みんなが揃うまでお茶とお菓子を頂きながらトランプをしてたの。」

「だろうな。ところで2年生たちは?」

「知らん。まだ来ておらん。」

先ほどから角で(訳が分からない)いじけていた雪奈がようやく口を開いた。

「なあ、そんなところでいじけてないでせめていすに座ってくれ。リーダーのそんな姿を先生にでも見られたらどうする?って、先生は行ってこないか。」

この特別室はフィールドウォーカー以外の生徒及び特研から派遣された教師以外は入ることは許可されていないそうだ。なんでも昔この部屋にある先生が入って、あるものを壊してしまったそうだ。その時、何かしら大惨事が起こったらしく、それ以来そういう決まりができたそうだ。壊してしまった先生は妖怪に取り付かれていたらしく、記憶がない。そして、何があったのかも特研がすべて隠してしまった。ということで、いまだに誰も事件の真相を知らないという。

ようやく雪奈がいすに戻ったとき、2年生3人のうちの1人が入って来た。

「遅れてしゅみましぇん。」

「桜か。大丈夫だ、ミーティングはまだ始まってないぞ。」

「そうでしゅか・・・。あ、優君と由奈ちゃんはちょっと遅れてくるしょうでしゅ。」

「そうか、では・・・。」

その時、扉が開いて残り2人の2年生も入ってきた。

「遅れましたすみません。」

「遅れて申し訳ありません。」

「優、なぜ遅れたの?まさかとはまた喧嘩でもしていたの?」

「あ、姉上!聞いてください!」

「言い訳無用。家に帰ったらみっちりお説教ですよ。」

「はい・・・。」

「いつもいつもありがとうね、由奈。」

「いえ、大丈夫です。」

「さて、そろそろ始めても良いか?」

「ええ、始めて。」

「では、始める。まずは今まで戦闘に参加していなかった京一を加える。」

ここでおー、という歓声と待ってましたとばかりにみんなからの拍手喝采が起こる。

「ようやく戻ってくるのね。あなたが居れば今後の先頭はずっと楽になるわね。」

「おい!だから、能力が・・・!」

「そのため、多少陣形を変えようと思っている。」

「話を聞け!」

「次に、体育祭についてだが・・・。」

ドオオオオン。グオオオオアア!

「早速来たか。よし、ぶっつけ本番で悪いががんばっていくぞ!」


結界の上ではすでに暴れていた。体から生やした触手で工事現場から持ってきたであろう鉄骨やクレーン車を結界に叩きつけていた。

「由奈、萌恵、優はこのままあいつに突撃。私と桜と京一は援護。始め!」

由奈と萌恵、優は妖怪に突っ込んでいった。

「たあああああああ!」

「はあああああああ!」

萌恵と優は殴ったり蹴ったりしながら触手を弾き飛ばしていた。

「ハッ!」

由奈も両手の刀を自在に操り、触手を切り飛ばしていた。だが、触手は減るたびに新しい触手が生えてきた。

「桜!私と一緒に炎系の魔法を打つぞ。京一はそこに居ろ。」

「はい!」

2人は集中し呪文を唱え始める。そして、炎系の魔法を放つ。飛んでいった火の玉が触手に命中し燃え落ちた。しかし、燃やしても同じだった。次から次へと生えてくる。

「切りがありましぇんね。」

「そうだな、どうにかしないと・・・。」

そのとき、やつがやっと攻撃に転じた。持っていたものを離し、こまのように回転し始めたのだ。前線の3人もさすがに耐え切れず、吹っ飛ばされた。それどころかこちらに向かってきた。「桜!結界を張るぞ!」

「はい!」

2人で呪文を唱え始め、どうにか直撃する前に止めた。しかし、とっさに作ったせいなのか耐え切れず、迫りくる触手に跳ね飛ばされた。そこでやつは一時停止し、回転を止めた。

「大丈夫でしゅか!」

気づけば、雪奈が足を押さえて倒れていた。どうも落ち方が悪かったらしく足の骨を折ったらしい。折れて箇所が紫色にうっ血し、右足がおかしな方向へ曲がっていた。

「桜、雪奈の治療を頼む。由奈、萌恵、優!大丈夫か?」

「はい!」

「大丈夫よ。」

「問題ありません。」

「よし、お前ら3人に頼みがある。30秒だ。やつを30秒足止めしてくれ。」

「別に良いけど、その後はどうするのよ?」

「それは俺がどうにかする。だから頼む。」

3人はしばらく顔を見合わせて、うなずいた。

「ありがとう。俺が合図するから、それと同時に突撃してくれ。」

「了解!」

そして、久しぶりに印を結び呪文を唱え始める。しばらく何かを捕らえたような感触を得る。

「ゴー!」

三人は同時に飛び出しやつに向かっていった。

「来い!銀月!」

すると、急に目の前が貧血を起こしたように暗くなる。ふらついたが何とかそこで踏ん張った。

そして、印を結ぶ前に書いておいた陣からもやが現れ始め視界をふさぐ。その中から太い腕が現れそれらを払うとそこには銀色の毛並みをした狼が仁王立ちしていた。

「よう、久しぶりだな、京一。もう呼び出さないんじゃなかったのか?」

「そのつもりだったが、まあ状況が状況だしな。あの触手野郎を倒してきてくれないか?」

「さーて、どうしようかな。そうだ、今度団子を供えといてくれ。月見屋の団子だ。それならその願い聞き入れてやろう。」

「わかったから、早く行け。」

「おうよ!」

狼が二本足で走るなんて奇妙な光景だが、やつに突っ込んでいった。

「優、萌恵、由奈!危ないから離れろ!」

「はい!」

「えっ!」

「なにあれ!」

とりあえずは3人とも離れてくれたおかげで銀月も戦いやすくなったようだ。

「オラッ!」

とにかく殴り、蹴り、引き千切る。だんだんと小さくなってきたやつがある箇所を守るような行動を見せるようになった。

「やつの中心を狙え!」

「分かってる!」

思いりやつの中心を殴りつけるとひるんだように後ろへ下がった。それどころ触手の生えてくる速度が落ちた。

グオオオオオオ!

そこでやつはやけになってまっすぐ突っ込んできた。

「オオオオオオオオ!」

銀月も負けじと正面からそれを受け止めた。触手に足や手を絡めとられたが、お構いなしで押し倒した。そして、右手に絡みついていた触手を引き千切ると、

「お前に恨みはないが、団子のためだ。すまねえな。」

拳をやつの中心めがけて振り下ろした。急所を見事に貫き壊したようだが、勢いあまって沙汰の結界にひびをいれてしまった。

「あー、後処理頼んだ!」

言うが早いか、銀月は消えてしまった。

「後で特研の連中にはお・・られる・・だろうな・・・・。」

バタンキュー。そんな音が似合いそうな倒れ方だった。


目を覚ますと、そこは保健室だった。同じ白い部屋なので少し驚いた。

「起きたか。まったく世話のかかるやつだ。」

隣のベッドには雪奈が折れた足をブラブラさせながら本を読んでいた。

「お前こそ、足は大丈夫か?」

「桜のおかげでな。ほぼくっ付けてしまったそうだ。3日もあれば治る。」

と言うなり、そっぽを向いてしまった。

「泣くほど痛かったのか?」

「泣いてなどいない!」

赤い目をこすりながら言われても説得力は皆無だろう。

「目が赤いですよ、雪奈。」

萌恵たちが笑いをこらえながら入ってきた。

「萌恵、何を言う。ただの、その、目にごみが入っただけだ!」

「でも先ほどまでずっと小野寺しぇん輩は大丈夫かって言っていたじゃないでしゅか。」

「桜まで!」

「ほう、そうなのか。」

「それは、その、心配くらいするだろう。」

「ありがとな。」

頭をなでると面白いくらいに顔が真っ赤になって湯気が出た。

「な、なでるな。」

そのとたん笑いをこらえきれなくなってみんなして笑った。

「わ、笑うなー!」

ある程度みんな笑い疲れたところで萌恵が切り出した。

「さて、お遊びはこれくらいにして、京一君にお客さんよ。」

「果てさて誰だろうな、俺に会いに来る酔狂なお客さんは。楽しみだ。」

ネクタイを結び、身だしなみを整え立ち上がる。

「体調のほうはもういいのか?」

「大丈夫だ。じゃあ、行ってくるな。」

保健室を出て、お客さんとやらが待つ応接室へ重い足取りで向かうのであった。


応接室、到着。予想が外れることを願いながら扉を開ける。

「失礼します。」

「来たな、問題児め。お前を仕事で向かいに来るのは荒れで最後にしたかったんだが?」

「お仕事御苦労様です、親父。お茶でもいかがですか?」

「京一~、何で禁を破ったの~?おかげで超過勤務させられる羽目になったのよ。」

「千夏姉さんもお疲れ様です。」

「千夏、お前はもっと働け。」

「いやよ、面倒な仕事ばっかり回してくるくせに~。」

「親父の言う通りだ。おとなしく青春を過ごしていればいいものを。」

「誠兄さんも久しぶり。また身長伸びたんじゃない?今何センチくらい?」

「京一、どうしてお前はそうなんですか?しかも、言うことがだんだん年寄り臭くなってませせんか?ちなみに今は183センチです。」

「俺が今175センチだから・・・、まだまだ追いつけないな。」

「そろそろ本題に入ってもいいかしら~?」

「さて、お前は千夏姉さんも言ったように禁を破り、能力を使った。そうだな?」

「ああ、そうだ。」

「その意味をわかって使ったのか?」

「もちろんわかってる。でも・・・。」

そのとき、扉が開いて雪奈が入ってきた。

「ちょっと待ってくれ!京一が能力を使ったのは私に責任がある。能力が使えない京一に戦いに参加するように言ったのは私だ。罰なら私が受ける。」

「お嬢さん、あなた誰?」

千夏が真剣な目つきになって尋ねる。あの雪奈を1瞬ひるませるとはさすがだ。

「わ、私は鳥羽雪奈。フィールドウォーカーのリーダーだ。」

「そう。ごめんなさい、今あなたには関係ないからおとなしく部屋に戻っててくれる?」

「雪奈、部屋に戻ってろ。」

「その前にそこの御仁に1つ聞きたい。京一が罰を受けるとして、無事に帰ってこられるのか?」

「上の判断しだいだ。そろそろ行くぞ、京一。」

「どこに行くんだ?」

「京一~、わかってるでしょ?」

「そうだな、行くところといえば決まってるか。じゃあ、雪奈。行ってくる。」

「ああ、ちゃんと帰ってこいよ。」

部屋を出た後、正面玄関へ出た。

「転移魔法なんか使わず、車で行けばいいのに。」

「私はここの結界を直してから向かう。」

「悪いな親父。銀月が割っちまったんだ。」

「これも仕事のうちだ。」

「じゃあ、出発しましょうか。」

千夏が印を結び、呪文を唱え始める。気づけばすでに特研の正面玄関にいた。


京一が応接室から出て行った後、特別室へ戻った。

「お帰り、雪奈。京一君はどうしたの?」

お茶を注ぎながら、萌恵が聞いてきた。

「京一は大丈夫とは言っていたが、どうも禁というやつを破ってしまったらしい。それで罰を受けることになって・・・。無事に帰ってこられるかわからないと京一の親父さんが言っていた・・。」

「そう、親父さんが来ていたの・・・。それは心配ね。」

「どこに連れて行かれたのかもわからないし・・・。」

「じゃあ、占ってみましぇんか?」

「桜・・・。」

「道具をとって来ましゅから、待ってて下しゃい!」

しばらくして、桜が小さなかばんを持って戻ってきた。

「では、始めましょう!」

「ああ、頼む。」

桜はかばんから札や色々な文字が書かれた紙を取り出して床に張りつけた。そして、呪文を唱え始めると部屋の空気が変わったような気がした。床に張られた紙の文字が輝きだす。うっすらと紙の上に何かが浮かんだようだったが、すぐに消えてしまった。

「だめでしゅ。はあー、はあー。というより、キツイでしゅ。」

「大丈夫か?」

「はい、大丈夫でしゅけど・・。今、見えましたか?」

「うっすらとだったからはっきりは見えなかった。」

「私もはっきりとは見えましぇんでした。」

「やっぱり、結界が張られていたか。」

「はい、しょれもかなり強力な結界でした。」

「もう一回しよう。今度は私も手伝う。」

今度は2人で同時に呪文を唱え始める。先ほどと同じように床に貼り付けた紙の文字が輝き始める。さっきよりもはっきりとした映像が浮かび上がった。映ったのは京一ともう1人・・・、よく見えない。しかし、会話は聞こえた。


特研に到着。正面玄関から奥に進むと、懐かしい匂いが漂ってきた。

「今日はここで何をされるんだ?また拷問まがいのことか?」

「黙ってついて来なさい。」

「楽しいことよ~。京一、楽しんできなさい~。」

入り口から2度右折し、さらに左折。そこには便器の上で逆立ちしながら串に団子を刺せといわれても楽しいとは言えない思い出のある部屋へ到着した。部屋に入ると、変わらず簡素な鉄の机といすがあった。

「懐かしいな。3年ぶりか、この部屋に来るのは。」

「そうです。今回は前回のようにはいきません。覚悟しておくことです。」

「じゃあ、京一。そこのいすにでも座ってて。すぐに戻るから。では、ごゆっくり~。」

ガチャリと外から鍵をかけられた。前回と同じ手は使わせる気はないようだ。さらにご丁寧なことことに強力な結界が張られていて、術は使えない。それになぜか、周りが白んで見える。

「しまっ・・・た・・・。」

催眠ガスが撒かれていた。力が抜けていき、机の上に突っ伏して気を失った。


夢を見た。人生が大きく変わったような、変わっていないような、あのときのことだ。

小学6年生の冬。

クラスの中に1人がいじめにあっていた。今考えてもわからないが、なぜかその子を助けなきゃと思っていた。そのときは口で言うだけでことは収まった。

日曜日。俺の検査の結果を伝えられた。能力を持っているか、どのようなものでどの程度のものかを調べる検査だ。段階は能力を持たないDから始まり、C、B、A、Sの5段階。結果、俺はA段階だった。千夏姉さんも誠兄さんもS段階だった。S段階になれなかったのが悔しかったのか、やけになって千夏姉さんに試合を頼んだ。そして、完璧に負けた。攻撃はことごとく壊され、返され、相殺された。千夏姉さんはショックを受けている俺に追い討ちをかけるように言った。

「まあ、うちの子じゃないんだし、このくらいなら良くやったほうかな。」

最初、言われた言葉が理解できなかった。混乱した俺は親父にあの言葉が真実か問い詰めた。

「千夏がそんなことを言ったのか・・・。まったく、言うなとあれほど言っておいたのに・・・。」

「ねえ、お姉ちゃんの言ってたことって本当なの?」

「・・・。ああ、本当だ。お前は・・・。」

そこで電話が鳴り、親父は話を中断して電話に出た。受話器をとった親父はだんだんと顔を青くしていき、ついには血相を変えて外に飛び出していった。日が暮れてから親父はようやく帰ってきた。何があったのかと恐る恐る尋ねると、

「美保子が死んだ。交通事故だ。一緒に居た誠は一名医を取り留めてそうだ。」

そのときの俺は何か感じただろうか。もしかしたら何も感じていなかったかもしれない。次の日からしばらく学校は休んだ。その間に通夜や葬式はあった。親父や千夏姉さん、車椅子で来た誠兄さんはずっと泣いていたが俺はそういう感情すら湧いてこなかった。1週間後、俺は学校へ復帰した。するといじめはまた起きていた。内容はさらにエスカレートしており、さすがに我慢の限界だった。いじめていたやつらがいじめに能力を使い出したのもあるが、おそらく精神が不安定だったのもあるだろう。能力を最大限まで開放、いや暴走させていた。気がつくと、特研の救護室に居た。隣には俺が怪我をさせてしまったのだろうか、1人の少女がいた。そこに居た白衣着た人に話を聞くと、どうも教室内で力を暴走させてしまったらしく、教室はめちゃくちゃ。幸い隣に居る少女が結界を張ってみんなを守ってくれたので、死人は居なかったがけが人は何人か出たそうだ。その話の最中に白衣の集団が部屋に入ってきて・・・。


そこで目が覚めた。

「おはようございます、京一。よく眠れましたか?」

「ああ、よく眠れたよ。」

「それはよかったです。目が覚めたら見せたいと思っていたものがあるんです。ですが、その前に。」

「見せたいものってなんだよ?」

「まあ、焦らないで下さい。その前にこれを見てください。」

机の上に映像が浮かび上がった。そこには千夏姉さんと雪奈が写っており、戦っているようだった。


1時間ほど前。

「拷問まがいのことをされるかもしれないか・・・。」

「どうしましょう・・・。雪奈しぇん輩?」

「雪奈!落ち着きなさい!」

「え?」

気が付けば体が青い光に包まれていた。

「あ、すまない。取り乱してしまったな。」

「気持ちはわかるけど、取り乱しては元も子もないわ。いったん落ち着きましょう。みんなもね?」

「萌恵。そうだな、いったん落ち着こう。」

しばらく、お茶でも飲んでというわけにもいかず、3分後にはみんな話し合うために席に着いた。

「私としては直接特研へ抗議にしに行こうと思う。異議があるものはいるか?」

「ないわ。」

「特にありません。」

「ありましぇん。」

「大丈夫です。」

「よし。なら、すぐに準備をして、転移魔法にて特研へ向かう。」

「了解!」

その後、それぞれに準備を完了し、特別室に再集合した。

「それではこれより特研へ向かう。桜!」

「はい!準備オーケーでしゅ!」

「ならば、すぐにでも始めよう。」

桜と2人で呪文を唱え始める。唱え終わると、景色が変わり特研の正面玄関の前にいた。

「何者だ!」

到着するなり、警備員たちに囲まれてしまった。

「フィールドウォーカーだ。今日ここに運ばれてきた者と面会するために来た。」

「そんな話はきていない。」

「当然だ、先ほどうらな・・・!」

急に口をふさがれたのでさすがに驚いた。

「雪奈!」

「す、すまない・・・。」

すると、後ろで見ていた、リーダーだろうか、巨体の男が進み出た。

「いえいえ、構いませんよ。小野寺京一さんの面会ですね。もちろん、構いませんが突然来られましてもこちらとしましては許可いたしかねます。今回はおとなしくお帰り願います。ただ、こちらからも1つ質問したいことがございます。先ほどこちらを透視魔法で覗いた者がいるとの報告があったのですが、何がご存知ありませんか?」

「いや、ないな。」

「そうですか。では、話したくなるようにお相手して差し上げましょう。」

「やはり、ばれていたのか。」

「当然です。あなた方フィールドウォーカーごときが我々特研の内部を覗くなど100年では足りないくらい早いですよ。」

巨漢は呪文を唱え始めた。すると、突然前に倒れこんだ。優だ。いつの間にか後ろに回りこんで蹴り飛ばしたらしい。

「宮原~、あんたはいつもいつも甘いわね~。わざわざバインドなんかしなくても得意分野の力でねじ伏せればいいのに。」

そういうと宮原さんとやらの股間を思いっきり踏みつけた。何だか、どちらもうれしそうだ・・・。

「さて、宮原のお仕置きは跡でたっぷりするとして。先にあなたたちを片付けましょう。」

途端に周りに居た他の警備員のうち3人が突っ込んできた。優と萌恵、由奈によって吹っ飛ばされたが、すぐに起き上がってくる。ほかの2人の警備員もなにやら術の準備をしている。

「ほら、宮原!あんたもやるのよ!」

「あうっ!は、はい!うおおおおおお!」

雄叫びを上げながら突っ込んできた。

「桜!防御壁展開!」

「はい!」

ぎりぎりで呪文を唱え終わり、防御壁を展開した。

「破・壊!」

思いっきりこぶしを叩きつけられ、防御壁が四散する。

「終わりです。」

拳が振り上げられ、叩きつけられる。はずが、こない。

「大丈夫ですか?」

優だ。やつの拳を受け止めてくれている。

「早く逃げてください!」

「ああ!行こう、桜。」

「なかなかやりますね、名前をお教えしていただけませんか?」

「白鳥優です。」

「なるほど、白鳥さんの息子さんでしたか。ならば、全力でお相手しても大丈夫ですね。」

すると、一気に力を強めた。

「ぐっ!おおおおお!」

なんとかはじき返した。

「次、いきます。」

今度は拳を矢継ぎ早に突き出してきた。これは危ないと助太刀に入ろうとしたところに火の玉が飛んできた。桜がとっさに防御壁を展開していなければ直撃していた。

「大丈夫でしゅか?」

「ああ、ありがとう、桜。」

あっちは優に任せてこちらもやらねば。あちらの魔法使いが次から次へと放つ火の玉を防ぐ。2人がかりでも正直に言ってきつい。やはり、力量差がある。一方で由奈と萌恵は善戦していた。相手をしていた警備員はいつの間にか2本足で立つトカゲに姿が変わっていた。

「真刀一誠流・三日月。」

由奈の持つ刀が輝き始め、それを横に振るった。空気の刃のようなものが飛んでいき、トカゲを腰から真っ二つにしてしまった。すると、驚くべきことが起こった。萌恵と戦っていたトカゲ2匹が突然斬られたトカゲのほうへ向かっていき、なんと共食いを始めた。あまり上品とはいえない音を立てて食事を終えたトカゲは盛大なゲップをするとこちらに向き直った。少し大きくなったような気がするが、育ち盛りなのだろうか。おっと。気が付けば、火の玉に加え雷が槍のように飛んできていた。そのうちの何本かが魔法壁に突き刺さっていた。しっかりしなければ。

「ハッ!」

由奈が先ほどと同じ技を放つ。しかし、共食いをしたせいかあまり効いていないように見える。それでも直接斬ればまだ斬れる様で、また一体、刀の餌食になった。そして、案の定その死体を別のトカゲが食べる。

「危ない!」

いつの間にか由奈の背後にトカゲが立っており、その鋭い爪を突きたてようとしていた。が、それは叶わず、寸でのところで萌恵が割って入り防いだ。

「由奈に何するの!」

萌恵は拳を振り上げ、トカゲの腹に叩き込む。しかし、その拳は光り輝いていた。トカゲは後ろに吹っ飛ぶのかと思いきや、動かなかった。萌恵が腕を引くと、そこには大穴が開いていた。そのまま倒れたトカゲは仲間のトカゲに食われる。どうやらそのトカゲで最後らしい。大きさは元の大きさの三倍近くに達していた。

「桜!そろそろ反撃といこう!」

「はい!」

何も今まで攻撃に甘んじていたわけではない。ちゃんと魔法壁を展開しつつ、別の魔法の準備をしていたのだ。それを今、発動させる。

「ちょっと熱いかもしれないが、我慢してくれ。噴火!」

相手の魔法使いの足元がひび割れ、そこから火が噴出す。しかし、さすがはプロ。元から結界がはってあったようだ。殺すまでしなくていい。気絶してもらうだけだ。火力を上げる。こちらだとてフィールドウォーカー。意地でも負けない。そして、ついに相手の結界を破り、火が相手を包み込む。火が収まると、アニメでよくある、黒焦げになったアフロ頭が二つ並んでいた。怪我がないことを確かめると、最後のトカゲに向き直った。トカゲは萌恵と由奈によって体中傷だらけにされていた。もしもメスだったら、嫁入り前に傷物にしやがってという顔をしているように見える。

「萌恵、由奈はあいつの足止めをしてくれ。桜はバインドでそのフォロー。で、私が白饅頭を投げ当てて決める。」

「了解!」

萌恵と由奈はそのままトカゲに突っ込んで行き、桜は呪文をすばやく唱え終えると早速攻撃を開始した。トカゲは先ほどの戦闘で敵わないと分かったのか、退こうとした。が、足をバインドに絡めとられ、背後を萌恵に取られ、正面から由奈に迫られ、逃げようにも逃げられなかった。覚悟を決めたのか、バインドを破り二人からの攻撃を受け止めた後、攻撃に転じた。しかし、そのときには呪文は唱え終わっていた。

「二人とも!いくぞー!」

由奈と萌恵は即座に後ろに下がった。トカゲは訳が分からない様子だったが、これは好機と逃げ始めた。その後姿に向かって思いっきり投げる。途端にトカゲの足が止まった。足にはバインドが絡み付いており、それを破ろうと必死にもがくがその間に白い玉に追いつかれ、そして命中した。しばらくは何も起こらなかったが、突然内側から弾けた。

「完了。増援の気配なし。あ!優は・・・。」

優が戦っているところを見るとちょうど終わったようで、宮原が伸びていた。

「すみません、遅くなりました。」

「いや、こちらもちょうど終わったところだ。怪我はないか?」

「はい、特にはありません。」

「優!握手してみて。」

萌恵が近づいてきて、優と握手する。

「優、両手でしてみて。」

「・・・。できません。」

すると、優は右袖をまくり右腕を見せた。紫色に変色し、明らかに折れている。

「これで特にないとは言えないでしょう?」

「でも、姉さんやみんなには心配をかけたくなかったので・・・。」

「まあ、とにかく治療しよう。」

「私がしましゅ!」

そう言うと手早く治癒魔法で治すと、ほかのみんなにも治癒魔法をかけた。治療が済むとそれぞれに立ち上がった。

「さて、突入だ!」


中に入ると、誰もいなかった。受付へ言ってみても誰もいない。

「ここにもいない・・・。全員、警戒を怠るな。」

ガシャン キイ 

扉の開くような音がして、受付横の通路から先ほど倒したトカゲたちが出てきた。

「さっきより数が多いな・・・。」

魔法を準備しようとしたところで、

「しぇん輩方は先に行って、小野寺しぇん輩を探して下しゃい。」

「ここは私たちが食い止めます。」

「しかし・・・。」

「僕たちもそんなにやわじゃありません。」

優は萌恵と目を合わせうなずきあった。

「雪奈、行きましょう。」

「分かった。みんなも怪我はしないようにな?万が一、危険だと感じたら私たちのことは気にせずに撤退しろ。」

「了解!」

トカゲたちは次々と襲い掛かってきた。それを由奈、優、桜の三人で追い返しながら、私たちはトカゲたちの来た通路に飛び込み、二人で奥へと進んだ。

ガチャン  キイ

またもや扉が開くような音がして、トカゲが三匹出てきた。しかし、今回のトカゲは一味違うようだ。三匹とも銃や剣などで武装している。さながら人間のように。

「雪奈、今度は私がここで食い止めるから、あなたは行きなさい。」

「私も残る!」

「だめよ。早く京一君を見つけないといけないんでしょう?」

トカゲは悠長に待ってはくれなかった。三匹のトカゲのうち、一匹が銃でこちらに発砲し、残り二匹が壁を足場にこちらに接近してきた。

「ハッ!」

萌恵は銃弾を全部はじくと、襲い掛かる二本の剣をよけた。トカゲといえども、これにはさすがに驚いたようで、一瞬動きが鈍った。その隙を逃さず、萌恵は二匹のトカゲの手首を握るとそのまま投げ飛ばしてしまった。

「私だってこのくらいは余裕よ?」

「・・・。わかった。でも無理は禁物だぞ。」

「分かってるわ!」

かるくハイタッチをすると、私はさらに奥へ進んだ。


しばらく行くと大きなドーム状の部屋に出た。通路は真正面に一本だけ。その通路から誰かが出てくる。

「は~い、雪奈ちゃんだっけ?先ほどぶり❤これ以上面倒なことになると私が怒られるのでお仲間さんとおとなしく帰ってほしいんだけど?」

「お断りします。千夏さん、京一はどこですか?」

「あの子も好かれてるのね~。まあ、あなただったら教えてもいいわ。この先の研究室横の飼育室でおとなしくお座りしてるはずよ。」

「ありがとうございます。では、そこをどいてはもらえませんか?」

「う~ん、それは無理。力づくでどけてみたら?」

「そのようですね。」

雰囲気からしても明らかに強い。気は抜けない。すばやく呪文を唱え、全力全開で火柱を叩き込む。確かに命中した。しかし、

「式神、陽狼」

まばゆい光が発せられ、火柱がかき消されてしまった。光が収まると、千夏の後ろには金の毛並みをした狼がいた。

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フィールドウォーカー 丹花水ゆ @sabosan

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