進むも戻るもダイスだけ。

丹花水ゆ

第1話

サイレンの音がする。身体中が痛い。あぁ、そうか。よそ見してて、車に激突したんだった。もう死ぬのかな。こんな所で?嫌だ。こんな所で死ねない。まだ……死にた……な……。意識が遠のいて行く。そして、俺、石田真一郎は十五年という短い生涯の幕を閉じた。


「おーい、起きろー。」

ぺちぺちぺち。何かに叩かれた。目を開けると俺は球体の中……いや、球体になっていた。

「なんじゃこりゃー!」

そして、目の前にはか、かえる?が立っている。

「やっと起きた。遅い。」

「お前は誰だ?俺をこんなにしたのはお前か?というかここはどこだ?」

「質問が多い。とりあえず、私は見たまんま、かえるだ。残りの答えは他のやつと一緒に答えてあげるよ。」

他のやつ?周りを見渡すと他にも、白、赤、黄、青、緑、ピンクの四つの球が浮かんでいた。さらに、今いるのはアンティーク調の家具がずらりと並んでいる部屋だと分かった。家具の存在感があり過ぎて、異様な雰囲気を醸し出している。「さて、揃ったところで自己紹介。私は見たまんま、かえるだ。今回ゲームマスターに指名された。かえるの前にど根性をつけてもいいぞ。で、お前たち七人には私たちの作った世界でいわゆるすごろくをしてもらう。勝者には賞品として『時間』を差し上げよう。」

「『時間』?」

「そうだ、『時間』だ。お前たち七人はそれぞれに時間に関する望みがあるはず。小説とかでよくある生き返りではつまらんから、賞品を『時間』とした。生き返りに使うも良し、他人のために使うも良し、あの時に戻るも良しだ。」

「それで、ここはどこなのだ?」

黄の球が発言した。

「答えるのを忘れてたな。私の隠れ家だ。らしいだろう?家具には触れるなよ。まぁ、触れられればの話だが。あなたたちは死んで、魂だけの状態だからな。」言葉を切ると、かえるはどこからかカップを取り出し、紅茶を飲み始めた。

「おい!」

「へいへい、そんな焦らずとも話は続けるさ。では、ルールを説明しよう。ルールは基本的にはすごろくのルールに準ずる。サイコロを振って駒を進めるだけ。各マスにはミッションや指示が書いてあるからそれには従うこと。ちなみに途中で死んだらゲームオーバーだ。さらに、これから行く世界ではあなたたちは高校生という設定上、通知表で赤点を四つ以上取れば留年扱いでゲームオーバーだから気をつけろ。他に質問はあるか?」

「質問なのだが。」

再び黄の球が発言した。

「死んだら負けってことは、他のやつを殺すのはアリということなのだろうか?」

「勝者は一人の予定だから、その方が都合の良い時があるかもな。」

「あたくしも質問いいかしら?」

今度は赤の球が発言した。

「期間はどれくらいなのかしら?そして、あたくしたちは今球体なのだけれど、あちらの世界ではお互いを認識できるのかしら?」

「いい質問だ。期間は一年間。つまり、全部で三六五マス。あっちの世界ではそれぞれの今の球体の色の輪をつけてもらうからすぐわかるはずだ。」

「そう。ならいいわ。」

「他には何かあるか?あぁ、そうだ。参加料の話をしていなかったな。」

「はぁ?参加料なんかとるのかよ!」

つい、声を荒げてしまった。しかし、参加料とは。

「いつもならとるところなんだかな。今回は人数が七人。ラッキーセブン!なら、無料にしちゃおうかなって。」

「……。」

誰もつっこまない。無料は嬉しいが、理由がなんとも・・・。

「さて、そろそろ出発してもらおうか。疑問があったら輪から話しかけて貰えば答える。それじゃ、行ってこい!」

急に目の前が真っ白になって、また意識が遠のいて――――。


目が醒めると、自分の部屋のベッドの上だった。しかし、突如、放送が流れた。

ピンポンパンポーン

「男子寮のみなさん!おはようございます!本日は四月十日、入学式当日です!制服に速やかに着替えたら、朝食をきちんと取り、式に遅れないようにしましょう!」

男子寮?どういうことだ?扉を開けるとそこには寮生と思しき男子生徒が出てきているところだった。確かに家ではない。部屋に戻るとハンガーラックに掛かった制服に目が止まった。深い藍色のブレザーに赤いネクタイ、ブレザーと同じ色のズボン。とりあえずはそれらに着替えるためにジャージを脱いだところで、今度は左手に目がいった。黒い輪がはまっている。俺は黒の球体だったのか。ひとまずはこの輪を頼りに仲間(?)を探さないと。着替え終えると、廊下へ再び出て、下の階に向かった。一階は食堂となっており、寮生が朝食をとっていた。俺もそれにならい、同じ様にに朝食を取る。

「お食事中に失礼。あなたの左手の黒い輪。あなたは黒い球の人で間違いないでしょうか?」

「あぁ、そうだ。あんたは?」

「私は青の球の人です。」

そういうと右手を上げ、青い輪を見せた。

「私は柳井賢一と言います。一年間よろしくお願いします。」

「俺は石田真一郎だ。こっちこそよろしくな。ところで他のやつをもう見つけたりしたか?」

「えぇ、黄の球の人は見つかりました。あそこの席の金髪の彼です。」

知性の象徴であろうメガネをキザったらしくあげて、指した先。明らかに一般人とは言い難い人か。金髪にピアス、指には大量の指輪が。完全に不良オブ不良だ。しかし、彼の右手の中指には黄の輪がはまっている。仲間ということなのだろう。

「話しかけたのですが、返事をしてくれなくて・・・。」

「まぁ、誰か分かればいいさ。ほっとこう。」

食べ終えた食器を片付け、次は体育館へ向かう。着くとクラスごとに生徒がパイプ椅子に座っていた。自分の出席番号の書かれた椅子を見つけて座った。式が始まると、とにかく眠い。静かすぎる上に校長の話がやたら長かった。

「新入生式辞。新入生代表、竜之内昇。」

「はい!」

真隣にいた奴が声をあげたので、驚いて飛び起きてしまった。飛び上がった瞬間、隣のやつと目が合う。金髪にピアス、指輪。え、こいつが新入生代⁉それってつまり首席⁉見た目とのギャップがひどすぎるだろ‼というか試験なんていつあったんだ?しかし、名前は分かった。竜之内なんていうのか。竜之内は壇上に上がり、よくある様な挨拶を述べ始めた。こいつが首席・・・。式が終わると柳井と合流して、竜之内の元へ向かった。

「おい、竜之内。」

無視。こいつ・・・!

「お前のことだよ!」

思いっきり肩を掴んでやった。

「ん?うおっ!痛い、痛い痛い!」

肩を掴んだ腕を逆に掴まれ、さらに関節技をキメられてしまった。

「うるさいであろう。静かにせぬか。」

「じゃあ、離せよ!」

「む。それもそうだな。」

見た目とは裏腹に思いの外落ち着いたやつだった。

「で、小生に何用か。」

「まず、単刀直入に聞きます。あなたは黄の輪の人で間違いありませんか?」

「うむ、相違ない。」

「こちらとしてはあなたにも協力していただきたいのですが、お願いできますか?」

「いいのか?こいつ、他のやつを殺してもいいのかとか聞いてたんだぞ?」

「かえるの答えで気が変わったのだ。今は貴様らを殺す気は毛頭ない。それに今はむしろ協力が必要だと考えておったところだ。」

「こちらとしてもありがたいです。これからよろしくお願いします。紹介が遅れました。私は柳井賢一と申します。そちらは石田真一郎。」

「うむ、よろしく頼む。そうだ。あと三人、同志を見つけておいた。」

「早いな。で、誰なんだ?」

「同じクラスの御婦人三人。壇上に上がる際に見つけたのだ。」

「同じクラスなのは都合がいいですね。早速教室に戻って、確かめましょう。」

教室に急いて戻ると真っ先に、教室の端で上等そうなカップで紅茶を飲んでいる女子生徒に向かった。

「ティータイム中に失礼します。その髪止めに使われている、赤い輪。あなたは赤い球の人で間違いありませんか?」

確かに黒く長い髪を赤い輪でポニーテールにしている。

「えぇ、その通りだわ。あたくしは白道薔薇。よろしくするといいわ。」

「白道って、あの白道か?」

「ご存知なのですか?」

「大企業だよ!白道コーポレーションっていう会社、知らないか?」

「あぁ、金融業ではかなりの大手ですね。」

「ということは、そのご令嬢・・・。」

少し退いてしまった。不覚。

「そんなに戦かなくてもいいのだわ。普通に接して頂戴。」

「りょ、了解・・・。」

竜之内が微妙な顔をしている。知り合いか何かだったのか?

「それであなたたちは?」

「俺は石田だ。こっちのメガネが柳井。で、この金髪が竜之内だ。」

「よろしくお願いします。」

「よろしく頼む。」

「さて、残りの二人はどこだ?」

「あの窓際の二人だ。」

竜之内が指す先にはこれぞ女子高生といっても過言ではない女子生徒が二人。

「ん?どこに輪がはまってるんだ?」

「足首を見るが良い。」

足首をよーく見ると、右の女子生徒にはピンクの輪、左の女子生徒には緑の輪がそれぞれはまっている。

「よし、じゃあ行こうぜ。」

「その前に。白道さん、放課後に少しお時間を頂けますか?話し合いの様なものをしたいと思いまして。」

「構わないわ。あたくしもちょうど話し合いをしたいと思っていたところよ。」

「ありがとうございます。放課後になりましたら、また声をお掛けします。ティータイム中に失礼しました。では。」

今度は窓際の二人に会うために立ち去ろうとしたが、竜之内が動かなかった。

「どうした?行かねえのか?」

「小生はこちらのおじょ・・・白道さんに少し用がある。行っててくれ。」

「おう・・・?」

やっぱり知り合いだったのか。まぁ、どうでもいいけど。そんな竜之内を置いて、俺と柳井は窓際の二人に向かった。右の子はルーズソックスに思いっきりの茶髪。さらに、だぼだぼして手が半分しか出ていないセーター。一世代前の女子高生って感じだ。左の子は黒髪をショートにして、黒いソックスを履いている。まぁ、一般的な女子高生ってところだろう。

「お話中失礼します。足首のピンクと緑の輪。お二人はピンクの球と緑の球の人で間違いありませんか?」

「...。はぁ?あんたたち誰?」

「申し遅れました。私は柳井賢一。こちらは石川真一郎と申します。」

「ふぅん。で、あたしたちに何か用?」

「今日、初めてサイコロを振る前に、皆さんで話し合いのようなものをしたいと思いまして。」

「それ、絶対しなきゃダメなの?」

「はい。行った方が情報共有できると思います。」

「めんどくさ...。行こ、りーちゃん。」

もう一人の女子生徒の手を取って立ち去ろうとしたが、彼女は動かなかった。

「りーちゃん?」

「私は...してもいい...。」

「いいの?」

「うん...。私は...みぃちゃんに勝って欲しいから...。みぃちゃんが勝つために...必要だと思うから...。」

「……。分かった。あたしもりーちゃんが勝つために参加する。それでもいいならあたしたちは参加するけど?」

「えぇ、それで構いません。むしろ、参加してくれるだけでありがたいです。それに勝者は一人なので、理由も最もでしょう。」

「名前を聞いてもいいか?」

なぜみぃちゃんとやらは俺をそんなに睨む,,,。

「島崎理音...。」

「鈴川美麗よ。」

「島崎さんと鈴川さんですね。では、放課後にまた声をお掛けします。失礼しました。」

立ち去るまで鈴川はずっと俺を睨みっぱなしだった。なんなんだよ...。竜之内の所へ戻るとちょうど話し終えたところのようだった。

「何を話していたのですか?」

「いや、なに、他愛のない世間話だ。」

「しかし、白の球の奴は見つからないな。」

「まぁ、焦らずとも見つかるであろうよ。」

「できれば、早めに見つかってほしいものです。」

その後はホームルームがあり、ついに放課後になった。さっきのメンバーに声を掛け、サイコロを振る生徒会室で話し合いを始めた。

「みなさん、お集まり頂きありがとうございます。まずは、それぞれに自己紹介をお願いしたいと思います。では、私から。」

柳井から始まり、俺、竜之内、白道、島崎、鈴川と自己紹介をした。

「ところで、そこの金髪の人は大丈夫なの?かえるに人を殺してもいいのかとか聞いてたけど?」

鈴川が俺と同じ疑問をぶつけた。そりゃあ、同じことを考える奴はいるよな。

「かえるの答えを聞いて気が変わった。今は誰も殺す気は無い。」

「?かえるが何か言ってた?」

「勝者は一人の予定だと言っておった。つまり、複数人になる場合があるということなのだろう。さらに、殺した方が都合の良い時があるかもしれないとも言っておった。それは、そういう場合はあまりない、つまり、ほとんどが複数人でなければ困るミッションや指示であるということなのであろう。ならば、殺すのは得策ではないということだ。」

「それにしても、複数人でやるものがほとんどなんて、難易度が高すぎるのだわ。あたくし達がやるのはすごろく。カレンダー、つまり日にちをマスとしてサイコロを振るわ。複数人が同じマスに集まることは難しい。なのに、なぜなのかしらね、かえるさん?」

「ん?呼んだか?」

白道が輪に向かって話しかけると、確かにかえるの声が返ってきた。

「ミッションの難易度が高すぎねぇかって話だよ。」

「そうだな。何人かが同じマスに集まるなんで難しいだろうな。」

「じゃあ、難易度を下げてもいいんじゃねえか?」

「それはできない。それに、複数人の必要なミッションのマスに行かなきゃいい話だし、ただ有利に進めるためのものなんだから受けなきゃいいだけだ。ではではそっちにサイコロとカレンダーを送るぞ。」

すると、目の前の机の上に光の球が現れ、弾けると中からサイコロとカレンダーが出てきた。これが、いたって普通の物だから余計に怖い……。

「おい、駒がないぞ。」

「まぁ、そんなに慌てんなさんな。」

かえるが指を鳴らしたのか、パチンと音がすると4月10日の上に7色それぞれの色に塗られたピンが現れた。

「これで、あとはサイコロを振るだけだ。さて、もう質問はないか?今後は質問できる回数を7回に制限させてもらうぞ。」

「では、質問するわ。ここには誰も入ってこないのかしら?」

「生徒会室なんて書いてあるが、生徒会なんて存在しない。だから、誰かが入って来ることはまずない。ただし、他の奴の認識としては生徒会長は黄、副会長は緑と青、書記は黒とピンクと赤となっている。」

「それは成績順か?」

「そうだ。」

「それにも質問なんだが、試験なんてものはしてないのに、なぜ成績がわかる?」

「もちろん、そんなものしていない。現実世界での成績を見て決めた。」

「小生からも質問があるのだが。このピン、もし死んだらその日から動かなくなるのだろうか?」

「いや、消える。だから、すぐわかるはずだ。」

「この白い人は何をしているの?どこにいるとか分からないの?」

「私からは教えられない。だが、いつか会えるだろう。」

白の球の人は何をしているのだろうか。鈴川が質問した途端、竜之内と白道の顔が少しこわばったのが気になる。聞いてみるか。

「おい、竜之内。白の球の人と何があったのか?顔が怖いぞ。もとからだけど。」

「……。いや、おそらく勘違いであろう。気にするでない。」

「そろそろ質問を締め切っていいか?では、早速始めてもらおう。」

まず、竜之内がサイコロを振った。その後、白道、島崎、俺、柳井、鈴川の順にサイコロを手に取った。結果は俺と島崎は2、白道と竜之内は3、柳井は4、鈴川は6となった。俺は3日後か……。

「ちょっと、あんた!呼んでるのが聞こえないの?!」

「何?」

「りーちゃんのことちゃんと助けてあげてよね!」

「なんで俺が……。」

「何?何か文句でもあるの?」

「それが人に物を頼む態度かよ。」

「みっちゃん……、私は……1人ででも平気……。」

「だってよ。」

「ちょっとこっち来て。」

言うが早いか、俺を部屋の隅に引っ張っていつた。痛い。

「何だよ。」

「あの子、見ればわかると思うけどトロいし、色々と鈍いし、その上人見知りなのよ。だから!ちゃんと助けてあげて‼︎」

「何か納得がいかない。」

「それにそんなあの子があんたに自分から名前を教えたのよ。普段ならあんなこと絶対しない。だから、ね?」

「……。分かった。しかし、鈴川も随分と友達思いなんだな。」

「と、当然でしょ⁉︎親友なんだから……。とにかく頼んだわよ!」

島崎のもとに戻ると、不思議そうな、嬉しそうな顔をしていた。

「りーちゃん、どうしたの?」

「ん……。なんでも……ない……。」

「さて!全員自分がどの日が理解したか?では、健闘を祈る。ゴールで待ってるぜ〜。」

それを最後に輪から声は聞こえなくなった。

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進むも戻るもダイスだけ。 丹花水ゆ @sabosan

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