第十五話 舞踏会
舞踏会当日がやってきた。クロードが用意された礼服に身を固め、これも姿絵の為とブツブツ言いながらルイーズと大広間に向かっていた頃、ビアンカはクロードの父親ジャック・テネーブル前公爵と共に公爵家の馬車に揺られていた。
ビアンカは前公爵に初対面だったので少し緊張していたが、ジャックは温厚な紳士でビアンカもすぐに打ち解けた。
「こんな綺麗なお嬢さんをエスコートできるとは私も幸せ者ですな。ビアンカ、舞踏会では息子が貴女を独占してしまうでしょうが、私とも一曲踊っていただけますか」
「ええ、喜んで」
「さあ、もうすぐ王宮に着きますよ」
王宮大広間では国王夫妻のダンスから舞踏会が始まった。未だに姿絵、姿絵、と繰り返しているクロードも母親のルイーズと踊り始めた。二曲目、彼は王妃と踊る約束どおり、二人で大広間の真ん中に進み出て行った。
既に招待客達はあのクロードが珍しく舞踏会に来ていることと、しかもダンスをしているということに驚いていた。
さて、丁度二曲目が終わろうとしている時にジャックとビアンカは大広間入口前の階段下に来ていた。曲が終わり王妃を玉座まで導いたクロードは何かに気付いたらしく、くるりと背を返し広間入口まで早歩きで向かう。
「陛下、ビアンカが来たこと察したみたいですわよ。お辞儀もそこそこに入口まで突っ走って行きましたわ」
「面白いくらい分かりやすいよね、最近の彼は」
クロードは階段の下に自分の父親と若い女性を発見するや否や、駆け下りて手を差し出した。
「ビアンカ・ボション嬢、どうか私に貴女を同伴させて頂けますか」
「おいクロード、父親の私に挨拶もなしか」
「ああ父上、今晩もご機嫌麗しく……」
「それに私がビアンカ嬢に付き添うよう王妃さまに言われたのだがね」
「ご心配なく、私が代わります。母上なら王妃の側においでです」
「ビアンカ、後で一曲私と踊ってくれるなら貴女をクロードに預けましょう」
そこでビアンカはジャックに頷き、クロードの手を取って微笑んだ。
「クロードさま、私が本来の姿をしていてもすぐにお分かりになられたのですね」
「勿論だ。もう目をつむっていても貴女の存在は感じられる。この姿もとてもお美しい」
「クロードさまも素敵です。黒以外をお召しになっているのを初めて拝見いたしました。良くお似合いです」
「貴女の本当の瞳の色と同じだ」
「ああ、若いっていいものだなぁ。じゃあ私は一足先に、また後ほど」
二人のやり取りをニヤニヤしながら見ていたジャックはそう言い残し、一人で大広間へ向かった。
「では私たちも参ろうか」
ビアンカはクロードの肘に手を添え、二人は階段を上り始める。
「足元に気を付けて。眼鏡がないと良く見えないのではないか?」
「大丈夫です。実はいつもの私の眼鏡はただの薄いガラスで、眼はいいのです」
「では何故に?」
「私これでも学院時代に男の方に良く声を掛けられていて、その都度角を立てずにお断りするのが大変だったのです。そこで友人が眼鏡を掛けて野暮ったく見えるように勧めてくれたのです。効果てき面でしたのでそれ以来手放せなくて」
二人は階段を上りきり、大広間に入る。踊っている人々の脇を通り国王夫妻の玉座へと歩む。
「そのご友人に感謝しなければいけないな」
「でも、眼鏡があろうがなかろうが私にはクロードさましか見えていませんよ」
その言葉にクロードは足を止めた。
(この子は時々俺の自制心を試すようなことを言う……二人きりの時だったら俺は自分を抑えられるか自信がないぞ……)
と思いこっそり切ないため息をついた。そしてビアンカと向き合い彼女の両手を取ると、微笑みながらさも愛おしそうに彼女の額に軽く口付けた。
「ああビアンカ、愛している。どうしようもないくらい」
「あの、わたくしもです」
招待客達は珍しく舞踏会に出てきたあのクロードが若い女性をエスコートして大広間に入ってきた時から注目していた。中にはダンスのステップを止めてまで二人を見る者までも居た。そして玉座の王妃たちも例外ではなかった。
「キャー、デコチュー! 陛下、ご覧になりました? 公衆の面前で!」
「ミラ、だから興奮し過ぎだって。まあね、大広間中が今の光景見て固まっているよ」
「うちの息子ってあんなキャラだったの?」
「ルイーズ、あれほど幸せそうなクロードを見るのはいつ以来だろうね」
その頃給仕係として広間の隅で働いていたアメリも大いに驚いていた。
(ちょっとビアンカ、半端なく目立っているじゃないの! あっでも侍女のビアンカとしてではなく謎の令嬢だからいいのかしらね。髪と肌の色が違うだけで良く見れば彼女と分かるのに。ま、ここに招待されている輩はまずビアンカと面識ないし)
飲み物を準備する手も思わず止まってしまうアメリだった。
(それにしてもあの素敵なドレス、あの副総裁のにやけた顔、報告会が楽しみだわ!)
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