第26話 お昼寝タイム
「ふわぁぁ……、眠い、そろそろ寝ようかな」
そう言うとカラカルは木の陰でゴロリと寝転ぶと目を閉じた。一面に広がる緑の草原にバサリと音を立てて仰向けになり、息を大きく吸い込む。吐けば疲れが全部雲の彼方へ飛んで行ったような気がした。
「やっぱりいいわね…………」
しばらく深呼吸していたカラカルはやがて満足すると体を横に向かせ、足を曲げて腕を顔の前まで持っていった。そして尻尾の先を左右にゆっくり一定のリズムで小さく揺らし始めた。徐々に眠りが深くなるにつれて尻尾の動きはみるみる小さくなり、やがては止まってスーッと寝息が聞こえ始めた。
そんな時だ。
ある一人の人間がその存在に気がつくと音をなるべく立てないようにして片膝をついて、カメラを構えた。
カチャリ。
小さな音が鳴るとカラカルの耳はピクリと動いた。マズイと思ったその人間はすぐに草むらに隠れた。
「………なんか視線が、誰よ。もう…」
カラカルは少し不機嫌そうな顔をしたが太陽の陽が体に届き始め、その暖かさに気分を良くするとカラカルは再び先ほどの体勢で寝始めた。
冷や汗をかいた人間は別の誰かがここに近づいてくるのに気づく、見ればそれはサーバルであることが分かった。
「げっ、昼寝してるカラカルだ。起こしちゃったら怖いから逃げようかな」
だったら何も言わないですぐに逃げちゃえばいいのに。そんな風に人間は思い、クスリと笑うとサーバルとカラカルの耳が同時にピクリと動いた。
サーバルはじーっと人間の居る草むらを見つめ、起きたカラカルは激昂した目でサーバルを見る。
「サーバル」
「あ、ち、違うよカラカル!さっきの笑い声は私じゃないよ!」
「じゃあ誰だって言うのよ」
「……多分あそこに居る人じゃないかな?」
サーバルが人間の方をまっすぐ指さす。
人間はこのままではマズイと思い、賭けに出ることにした。
「ふーん」
「おーい、だれなのー?」
ここで人間はガサリとわざと音を立てた。
すると猫二人は顔を見合わせた。
その瞬間、人間は近くに転がっていた小石を掴むと、カラカルが先ほどまで居た木に向かって投げた。
コツンっと少し小高い気持ちのいい音が鳴ると、二人はバッと、そちらへ勢いよく振り返った。
「あっちに居るのかな?」
「でもさっきの音は?」
「分かんないけどあっちに行ってみようよ!」
猫二人は静かに木に近づいていき、両脇から覗き見るように木の裏を見た。
そして、そのままコツンと二人は頭を打った。
「あいた、気をつけてよ!」
「あんたこそ気をつけなさいよ」
しばらくガミガミ言い合っていた二人だがやがて馬鹿らしくなり、やめてしまって二人並んで気を背に座った。
「空、綺麗だね」
「そうね…風も気持ちいいわ、このまま……」
「あ、カラカルお昼寝するの?それじゃあ、私も……」
二人は目を閉じる。
隣に親友がいるために安心したのか、人間が、いや、園長が音を立てても反応せず、ただ眠っていた。
園長はそのままカメラを手に近づいていく。そしてあることに気づいた。
二人の手は繋がれていたのだ。
サーバルの手の上にカラカルの手、しっかり離さないように握られていた。
「……おやすみ、二人とも」
園長はスッと慣れた様子でカメラを構え、最高の位置に着くとパシャリ。最高の一枚を撮った。
蒼い空、白い綿菓子のような雲。
草原の小高い丘の上に力強く根をはる少し大きな木に背を預けた、猫二人。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます