第24話 絆を確認する本

「この本は一体なんでしょうか…」


ミライさんはある日置き去りにされていた本を拾った。その本には絆を確認する本と記されていた。しかしいざ開いてみればそこには何も書かれていない白紙のページが延々とあるだけであった。


「うーん、とりあえず届けた方が…」


「ガイドさーん!」


ドカッ!と勢いよくミライさんにぶち当たって抱きつくのはサーバル。いつも元気な女の子だ。ミライさんは若干体勢を崩しつつもなんとか立て直すとサーバルに問うた。


「いたた…サーバルさん、どうしたのですか?」


「あ、ごめんごめん!つい飛びついちゃって…」


あははと笑いながら後頭部を掻くサーバルを見て、ミライさんはなんとなく本を見たくなった。バサリと音を立てて開いて見るとそこには白紙が広がっていた。


はずだった。

しかしそこには文字があったのだ。

一体何が起きたのか、驚いたミライさんは動揺しながらもとりあえず読む事にする。

そこにはこう書かれてあった。


ガイドさん大好き!ずっと一緒にいたいのにな…


「これは…」


「何読んでるの?……え、え!?どうして私の思ってたことが…!」


そしてミライさんは気付いた。これは相手が自分に思っていることを表す本なのだと。故に、絆を確認する本。

サーバルがなんなのか知りたがってきたためミライさんは説明する。するとサーバルは驚いた顔をして、少し意地悪な顔をした。


「ふーん、……えいっ!」


「あっ!サーバルさん!?」


なんとサーバルはミライさんから本を強奪したのだ。そして、そのまま本を開いた。ミライさんは慌てたが別に見られても気にすることは無いかと思い直すと落ち着いた。


「どうですか?」


「えーっと、…ガイドさんは私の事が大好きなんだって!うれしー!」


にへらと笑って嬉しそうに照れるサーバルにミライさんも微笑むが、心の底には疑問があった。

……一体この本は何なのだろうか、どのようにして作られたのだろうかと。

しかしそれはどれだけ考えても解決する気配はなかった。しばらく考えているとサーバルが話しかけてくる。


「ねえガイドさん!これでみんなどう思ってるか見に行ってみようよ!」


「うーん、ですが勝手に使うのは…」


「大丈夫大丈夫!後で返せばいいよ!」


そのまま勢いに呑まれてしまい、結局この本を持って色んなフレンズを訪ねることとなった。そして、その第一標的となったフレンズは…


「あら?何やってんのサーバル」


「あ、カラカル!ちょうどいい!ちょっとお話ししようよ!」


「え、なに急に」


「ほらほら!ねえねえ!カラカルは私の事どう思う?」


「どうって言われても…ねぇ?」


そしてサーバルはすかさず本を開いた。ペラペラと捲れていくページが止まると、そこに文字が有ったのか、じっくりと読むとサーバルは少し顔を赤くした。


「え、えーっと、カラカルは私の事が大好きなんだね!」


「……どうしたのサーバル?いじめすぎて壊れちゃったかしら」


サーバルはニコニコ笑って黙ってミライさんに本を渡す。ミライさんは受け取った本を少し見つめると、開いた。そして浮かび上がった文字は

……時々変だけどすごく頼りで、優しい人よね。ガイドさんって。そんな人って好き。

そんな事が書かれていた。なるほど、これは確かにニヤニヤしてしまいますね…とそんな風に考えながらミライさんはネタばらしをした。すると呆れた顔を見せたが興味が湧いたのか、ミライさんから本を取るとそのままペラリと開いた。


「えーっと、サーバルは……ふぅん」


「う、うぅ…なんか改めて見られると見たりすると恥ずかしいな…」


「どんな事が書かれてあったのですか?」


「カラカルだーいすき!これからもずっとずっと親友だよ!えへへー……って、書いてあるわね」


「キャーーーッ!ダメ!ダメダメ!見ちゃダメ!」


「あんただって見たんだから良いじゃないの」


カラカルはニヤリと笑って追いかけてくるサーバルから逃げる。しばらく走り回ってサーバルは体力が尽き、その場で座って息を荒くした。


「もうっ!」


「ふふふ、…えぇ、ずっと親友よサーバル」


「!、…うんっ!」


サーバルはカラカルから差し伸べられた手をとって、立ち上がった。ミライさんはとても良い景色を見れて満足していた。

…この本を他のフレンズさんにも見せればもっとこんな光景が見られるのでしょうか。

そんな事を考えたミライさんは周りを見てみる。そこには偶然ルルとラビラビが歩いてる姿を見る事ができた。

早速行こうとしたが、少し考えてやめた。

何故ならどんな反応をするかはもう分かりきっていたからだ。

どうしようもなく、純粋で優しくて素直なフレンズ達。そんな彼女達が今更相手になにを思ってるか知られたところで少し恥ずかしくなったりケロっとしたり。所詮はその程度なのだ。故に、この本は彼女達には必要なかった。


「ふふっ、本当に羨ましいです。私も、フレンズになれたらなぁ…」


清々しいほど蒼い空を見て、ミライさんはそう呟いた。


人間には必要かもしれないこの本。それはつまり相手に隠した感情があるという事。この本が必要じゃなくなった時、私たちはフレンズ達に近づける。


そして、本は置き去りにされた。

ミライさんは少し恥ずかしくて顔を赤らめるがそれでも決心した。

サーバルとカラカルに歩み寄るミライさん。

二人は何かを察して並んで笑顔で待っている。そして、目の前まで来たミライさんはその言葉を振り絞った。


「私は、皆さんが大好きですっ!」


「知ってるよ、ミライさん!」


「そうね、今更改まって言うことないわよ」


「!」


そしてミライさんは気づいた。

もう既に、自分は彼女達と共に暮らすことでフレンズになっていたということを…


本は、もうそこには無かった。

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