第20話 甘えん坊セーバル

フレンズの力なのか、それとも元の元は猫だからか、セーバルはゴロゴロと喉を鳴らしていた。頭を何度も何度もサーバルに強く擦り付けて、撫でてもらうのを我慢できず、自分からサーバルの手に頭を擦る。

尻尾はピンと空を突き上げてくねくねと動く。

もっと触れたいと思ってサーバルに纏わりつくように体を密着させる。

幸せだ。もっと、もっと甘えたい。

でもこれ以上何をすれば良いのか分からず、仕方がないのでこのままでいる事にした。


「セーバル、どうしちゃったの?なんだか猫みたい」


えへへと笑って笑顔を見せたサーバルに安堵感に包まれた。


「今日猫に会った。その子のマネ」


返したくって、見よう見まねでその大きな口を開けた笑顔を真似してみる。

…なんだか上手くできていないような気がして、空回りしたような気がして、急に恥ずかしくなって顔が燃えるように熱くなる。

見られたくなくて、顔をサーバルの胸に埋めた。


「ほらセーバル、こうだよ!にっ!」


「やだ、もうやらない」


「そんな事言わずにさ!」


笑い声が響き渡る。

サーバルとセーバルはお互いに一度離れ、隣同士で座る。

上を見れば下弦の月がキラキラとその黄色の光を発していた。


「あったかい」


「え?」


「月の光、冷たかったけど、ホントはあったかいんだね。」


「うーん、よく分かんないけどカラカルからあの光は太陽の光を反射してるって聞いたことがあるよ?」


「そうなんだ、だからあったかいんだね」


しかしセーバルは少し考えて言い直した。


「ううん、きっとサーバルが居るから」


「え……」


目を閉じて、サーバルに身体を委ねる。

サーバルはそんなセーバルを支えずに、そのまま一緒に寝転んだ。

果てのない宇宙を見上げ、その途方の無い大きさに少しの恐怖を覚え、二人は手を繋いだ。


「セーバル」


「なに?」


「ずっと、ずーっと!一緒だよ?」


「……うん!」


もう暗闇なんてなかった。

そこに恒星があるかのように、光が満ち溢れている。孤独で、静かだったセーバルはもうそこに居ない。恒星の、太陽の光を受けて、反射する月のように、彼女もまた輝いた。

二つの輝きは更に強く、光りだす。

このあまりにも大きすぎる世界では小さな光かもしれない。しかし、二人にとってそれは何よりも強く光り輝く、何よりも大切な、友情だった。


「星、綺麗だね」


「うん、いっぱい光ってる」


二人はそんな他愛のない話をしながらゆっくりと瞳を閉じていた。


……もし、あの時サーバルに塩をかけられていたのなら、もし、あの日自分を犠牲にして封印をしていたなら。今こうして二人で笑い合うことも、この空を眺めることも、何にもできずに、ただ消えていったのか、或いは虹の結晶となり、そこで独りで眠り続けていたのだろうか。


そんな考えがセーバルに浮かび、それはまた悲しみを呼ぶ。しかし前と違うのは、隣に友がいたことだった。

セーバルはサーバルに抱き着いて、再び頭を埋める。トクン、トクンと鳴る心臓の音はとても落ち着いた。

キラキラと散りばめられた星の砂の空の下、夜行性の少女二人は眠りについた。

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