デート①
年頃の男女が二人きりで出かけることはデートといっていいのか。
──答えはNoだ。
二人きりで出かけるからと言ってデートと言ってはダメだ。
それはなぜか、もしも、デートと言ったらそれはまるでどちらも好意を持っているように聞こえる。が、もしも、好意を持っているのは片方だけで相手は特になんとも思っていなくて1人だけ浮かれてデートなんて言ってみろ。そんなことを知ったらどう思うよ。
……辛いよ。……少なくとも俺は辛いよ。
これがモテない男子の典型的な思考だ。
俺はもうそんな考えはしない。中学の時にそんなことがあったなんて知らない。
少し中学時代の事を思い出していたら見知った顔の女の子が1人走ってきた。
「ごめーん。少し遅れちゃった。待ったー?」
走ってきた女の子は紫ヶ崎栞乃だった。
「俺も五分前ぐらいに来たしあまり待ってないから別に大丈夫だ」
──本当は集合時間よりも少し早めに来てしまったので20分ぐらいは待ってるが、女子は準備に時間がかかると聞くからな。ここは何も言わないでおこう。
「そう? それならよかった。それなら早速行こっか」
どうして紫ヶ崎と二人で出掛けることになったのか、事の発端は昨日の夜の事だ。
紫ヶ崎と関わらないと決めてから2日は経過した。
もう屋上には行かず紫ヶ崎にも出会いそうな場所には行かないようにした。
そして、今日も1日会わずに家に帰ってこれた。
しかし、1つの盲点があった。それはLINEだ。俺はその事には気づいていた。が、消すことができなかった。
……それはどうしてか、簡単に言えば投げられるのが嫌だった。……あれはもうトラウマだよ。
しかし、LINEなんて来ないだろ。あいつが俺に用なんてないだろ。
ピンポーン。
……LINEの着信音だ。……いやぁ、まさかな。こんなタイミングで来るはずないよな。
うん。大丈夫。多分違うやつだ。
……と、とりあえず今は忙しいから無視していいよね? よし、ほっとこう。
ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。
ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。
うるせえよ! 分かったよ見ますよ。見ればいんでしょ。どんだけ送ってくるんだよ。
一文ずつ送ってきた内容を見てみた。
『明日暇だよね?』
『なら明日1時に駅前集合ね』
『わかった?』
『おーい?』
『津田くーん?』
『ねえ?』
『投げるよ?』
怖いよ! てか、なんでそうなるんだよ!
とりあえず、返信しておこう怖いからな。『了解』と、ふぅ、これで一安心だな。安心したら眠たくなってきたな。
「寝るか」
朝起きたら紫ヶ崎から『今日楽しみだね』ってLINEがきていて全てを思い出した。
そして今にいたるというわけだ。
さすがにほっとくわけにも行かないから来たのだが、……駅に入り電車に乗せられたのはいいけど、どこに行くのだろう。聞いてみるか。
「そう言えば、急だったから行き先聞いてないんだがどこに行くんだ?」
「ふっふっふっ、楽しいところだよ。ワトソンくん」
「なんで、急にホームズなんだよ。というか楽しいところってどこだよ。漠然としすぎてわからん」
「そうやって何も考えずに人に聞くなんて少しは自分の知恵を使いなさい。君の悪い癖だぞ。ワトソンくん。ちなみにボクはもうこの真相は分かっているんだよ」
「いや、行き先ぐらい聞いてもいいだろ。ていうか紫ヶ崎が知っているのは当たり前だ。あとワトソンくんじゃねえよ」
「うぅー、少しはノリに乗るとかないの」
「ない」
「即答?! そんなんだから友達できないんだよ」
グサッ、胸に何かが刺さった。10のダメージ。
「できないんじゃない作らないだけだ」
「友達できない人の典型的な言い訳だよね」
グサッ、胸に何かが刺さった。20のダメージ。郁也は力尽きた。
「…………」
「もしかして拗ねちゃった? 少し言い過ぎちゃったかな。ごめんね。てへっ」
「『てへ』ってなんだよ。絶対謝る気ゼロだろ。少しは悪いと思えよ。人が気にしてることズバズバ言いやがって」
小学校も中学校も友達はできなかった。さすがに高校では出来ると思っていたができずに今にいたる。クソッ! 現実のバカ! 大嫌い!
「あれ、気にしてたの? てっきり、開き直ってもう友達なんていなくても生きていける! とか言うのかと思ったんだけど」
「紫ヶ崎は俺をなんだと思ってんだよ」
「友達のいない男の子」
「ストレートすぎるだろ! 少しはオブラートに包めよ!」
「あーぁーあーぁー」
「それはビブラートだよ!」
「あーあれだね。アメリカの駆逐艦のやつだね」
「スチュワートだよ!」
「あっ、あの台の上で玉を弾いて入れるやつでしょ」
「それはビリヤード! お前わざとやってるだろ」
「面白いからついね。てへっ」
頭痛くなってきた。何してるんだよ俺。こんなコントみたいなことしてアホらしい。
「あっ、着いたよ」
そんなこんなで着いたらしい。って言うかここなのか? だってここって……。
「えっ、ここって……」
「だから、着いたよ。ほら津田くんおりるよ」
「えっ、本当にここなのか」
「うん。そうだよ。じゃあ、行こうか」
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