デート②

最初に伝えておこう。俺達は……、いや、こいつ、紫ヶ崎栞乃は馬鹿だ。とんでもない大馬鹿だ。

そして次に伝えておこう。11月の海はとてつもなく寒い。

そんなの言われなくても分かっているだろうが、みなに伝えたい。この寒さはきつすぎる。巨大冷凍庫に入れられてる感じだ。

しかし、一人アホがいるようだ。そう、紫ヶ崎栞乃だ。あいつはアホだ。とてつもなくアホだ。だって、目の前で海の中を走ってるんだぞ。

──寒くないのだろうか? こいつの体どうなってんだよ。一度でいいからこいつの体の仕組みを見てみたいものだ。



さてと、もう察していると思うが、俺が紫ヶ崎につれてこられたのは海だ。

11月の海に入るとか良い子は真似するなよ。


「ねえねえ、なんでさっきからドヤ顔で変な方向向いているの?」


「うおっ、いたのか」


「うん。少し疲れたから休憩しにきたの。津田くん入らないし」


……この寒い中入るやつはお前ぐらいしかいないと思うぞ。


「入るわけないだろ。俺を殺す気か、こんな寒い中海に入ったら風邪ひくとかのレベルじゃないぞ」


「えっ寒いかな?」


──えっ、そんな真顔で何言ってるのこいつみたいな顔されても困る。

俺がおかしいんじゃなくて、お前がおかしいんだからな。


「常人は寒いと思うぞ」


「それだとまるでボクが化け物みたいな言い方に聞こえるんだけど」


「えっ違うの?」


「そんな、『何今更そんなこといってんの?』みたいな顔で言われてもボクは普通の人間だよ! 宇宙人でも未来人でも超能力者でもないんだから!」


「なんでそのチョイスにしたんだよ! その3つはダメだ。なんか色々とまずい」


今のご世帯何があるか分からないんだから。あんまりそういうことはよしておこうぜ。な?


「ボクだって女の子なんだよ。少しは女の子扱いしてくれてもいいんじゃないのかな?」


「……いや、確かに見た目は女の子だけど、中身がなぁ?」


「見た目は子供中身は大人みたいな言い方やめてよ!」


「さすがにそれは無理あるだろ。そんな言い方してないしな」


「ふふっ」


紫ヶ崎が笑った。どうして笑ったのだろうか。俺おかしなこと言ったかな?


「何がおかしいんだよ」


「ううん。別におかしいことは無いよ。ただ津田くんが今ここにいることが少し嬉しくて」


満面な笑みで紫ヶ崎はそう言った。

──やばい。今の俺顔がものすごく赤い気がする。なんか体温も高い気がするし、大丈夫かな俺。それよりも気づかれないようにしないといけないな。


「ナニイッテルカワカラナイ」


「ん? どうしたの津田くん顔がゆでダコのように赤いよ? それに喋り方もロボットみたいになってるよ?」


「ナンデモナイヨ。ダイジョウブダイジョウブ」


「全然大丈夫そうには見えないけど? 体調が悪いの?」


そう言って紫ヶ崎は顔を近づけて紫ヶ崎の額を俺の額にくっつけてきた。

近い! やばい! いい匂い!

待て待て待て待て、やばい、早く離れて!


「うわっ、ものすごい熱だよ! 帰った方がいいよ!」


「大丈夫だから離れてくれ」


離れてくれないと俺死ぬかもしれないから。さっきから変な事言ったり変な行動とってから世の男子の8割りはその行動で死ぬぞ。


「津田くん本当に大丈夫?」


「あ、……あぁ、大丈夫。ちょっとびっくりしただけだ」


「…………びっくり? ……んー、んー、あ、分かった。もしかして、私が言ったことに照れてたとか?」


「……」


正解って思わず言ってしまいそうだったぞ。なんで分かったんだよ。いや、さすがに分かるか。今のは分かりやすかったって自分でも分かるもんな。


「黙るってことは正解だね。でも、私が嬉しいって言ったのはね、ここ最近津田くんが私を避けてたから来ないと思ってたんだよね。だから、来てくれて嬉しかった」


……バレてた。そしてなんか悪いことした感じで気まづい。

しかし、本人に避けてたなんて言えない。

……優しい嘘はカウントに入らないよね!


「別に避けてねえよ。だから、今ここにいるだろ。避けてるやつと一緒にでかけたりしないだろ」


「……そっ……かった」


「ん? 今なんて言ったんだ?」


「ううん。何でもない。それよりも海で遊ぼっか!」


その時の紫ヶ崎の笑顔は今まで見た中で一番良い表情だった。



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