2度目の出会い

屋上の出来事から家に帰ってきて、俺は今自分の部屋のベッドで寝転びながら自分のスマホをぼーっと眺めていた。その画面に写っているのは、今日無理矢理登録された紫ヶ崎のLINEだ。

……LINEというものを俺はしているが友達なんて親と妹それと保育園から高校までずっと一緒にいる幼馴染の和也ぐらいだった。

──ようは、俺が家族以外の異性の連絡先を登録したのはこれが初めてだ。

でも、まあ特に連絡することないから気にしなくいいんだけどな。

そんなことを考えながらスマホを見ているとドアからノックの音が鳴った。

多分妹だろう。おおむね勉強で分からない場所があったとかそんな所だろう。

「ん、いるよー」

適当に俺が返事するとドアが開いて黒髪ロングの美少女が入ってきた。やはり俺の妹だった。……妹相手に美少女はまずかっただろうか? しかし、可愛いものは仕方ない。

うん。そうだ。そうだ。

「失礼します。兄さん」

「おー。どうした雪音なんかあったか?」

俺の妹こと津田雪音は俺の2つ下で今は中学3年生だ。

「兄さん少し勉強で分からない所があったんですが教えて貰ってもいいでしょうか?」

「ん、あぁいいぞ。兄ちゃんが教えれる範囲なら大丈夫だ。で、どこが分からないんだ?」

「はい。ここのメアリーがどうしてこういう心情になったのか分かりません」

「んーと、ちょっと問題見せてもらってもいいか?」

「はい。兄さんどうぞ」

「おー。少し時間かかるぞ」

「大丈夫です」

そう言って問題をみせてもらってから5分ほどたってようやく解けた。雪音の問題はいつもレベルが高いものばかりで骨が折れそうになる。

「雪音。できだぞ」

「………………」

返事が帰ってこないから雪音の方を見てみるとその本人は俺のベットで寝ていた。

ここで普通の奴なら怒ったり起こしたりするかもしれないが俺はそうではなかった。俺は雪音の寝顔を本当に寝ているかどうか覗き込んでみた。

──可愛い。やっぱり雪音はもの凄く可愛いな。

そう。雪音は俺なんかよりもはるかにできる子である。雪音は学校の生徒会長をしているし、毎回学校のテストは1位だ。しかし、国語の読解だけはどうやら苦手らしい。俺に勉強を教えて欲しいと頼みに来る時いつも国語の読解を持ってくる。俺がたまたま国語だけ出来るからいつも俺が教えているという訳だ。

そしてその時間が何よりも楽しい。雪音は俺の自慢の妹だ。雪音は誰に対してもああいう口調だ。表情はいつも無表情で何を考えているのかは分からない。それでも俺は兄として妹の事は分かっている方だと思う。……多分。

時よりいきなり怒る時もあるから分からんのんだよな。年頃の女の子というのは分からないものだ。

と、そんな事を考えてる場合ではないな流石に起こしてやらないと妹とはいえ年頃の女の子だ、男のベットでずっと眠らす訳にはいかないか。

「おーい。雪音ー。起きろー」

「んー」

体を少し揺らしながら起こしてみたが返ってきた返事は寝ているやつがよく言う「んー」だった。

「これは起きそうにないな」

仕方がない。下のリビングで寝るか。雪音に布団をかけて俺は部屋をあとにした。




今日の朝起きた時にはもう雪音は俺の部屋にはいなかった。が、1枚の小さいメモ用紙が俺の机に置かれていた。その内容は「兄さんありがとう」だった。雪音はいつも朝早いから俺のこと気遣って起こさずにいてくれたのだろう。できた妹だ。

妹の一言で元気が出た俺は今日もいつもどうり授業を受けいつもどうりの日常をすごしていた。

──まあ、元気は出ても学校生活が変わることなんてないよな。

四限の終わりのチャイムが鳴り俺はいつも通りに屋上に向かった。

昼休みは基本屋上に行く。屋上での飯はなかなかいいものだ。……冬は寒いけど。屋上ってのは案外人が来ないものなんだよな。まあ屋上は鍵しまってるから誰もいかないだけなんだけどよ。

──俺も入れないって思うよな。けど訳あってあそこの鍵は俺が持っているんだなこれが。

まあ話せば長くなるのでこの話はまた今度。

俺は教室から歩いて屋上の前のドアに着き扉に鍵を回して開けた。

扉を開けた先には1人の女子生徒がいた。

本来鍵は俺がもっているから屋上に誰かがいるってのは考えられない話だ。

しかし、そこにいたのは紫ヶ崎栞乃だった……。

なんでだ……。ありえない、だって俺が鍵持ってるんだぞ? ……もう壁をよじ登ったとしか考えれない。──こいつスパイダーマンだったりするのだろうか?

「ものすごく戸惑ってるって顔だね」

紫ヶ崎はどこか小悪魔めいた笑顔で俺に言った。

「──なんで……、どうやって入ったんだ」

俺の今の顔は拍子抜けた顔をしているんだろう。それも自分でも分かってしまうぐらいに。

「ふふっ、ヒ・ミ・ツ」

ものすごくいい笑顔で言っている。──腹が立つ表情だ。それにこういうトリックめいたことはどうしても少し気になってしまう。

「別に隠す事じゃないだろ」

こっちは未だに状況を把握出来てないからテンパっている。

「だって秘密にしてる方が面白そうでしょ。津田君の困ってる顔を見るのも楽しいしね」

……悪魔だ。ここに悪魔がいる。ドがつくほどのSだ。……それならドSって言えばいいのか。とか思ってしまう俺でした。

言う気がないならもう聞かないでいいだろう。聞くだけ無駄ってやつだ。

悪魔との交渉はそれなりの代償が必要って聞くしな。ここは話を変えて流れを変えようか。

「……それならもう聞かないよ。それで、なんでここに来たんだ。何か用事でもあったのか?」

俺が紫ヶ崎にここにいる理由を聞いたら紫ヶ崎は少し考えてからニコッとした表情で「ヒ・ミ・ツ」とだけ言った。

絶対そのフレーズ気に入っただろ……。

「ヒミツばかり言ってたら何も分からんだろうが……」

呆れ半分、諦め半分を込めて紫ヶ崎に言ってやった。

「それは津田くんが何も考えようとしないからでしょ」

「うっ……。それは……、そうだ……。だけど本当に分からないんだよ。教えてくれないか」

もう下手に出るしか方法がなかった。

「ふっふっふっ。いいでしょう。仕方ないからボクが教えてあげようではないか」

こいつ本当にいい笑顔だな。──けど、その笑顔は腹立つけどな。

「といってもボクが来た理由は、もしかしたら津田くんが来るかもと思ったから来ただけなんだよね」

……はっ? え? 俺が来るかと思って来た? それは、俺に会いに来たってこと? そんな事言ったら俺勘違いしちゃうよ? いいの? 俺の頭の中が今の言葉を理解できないまま紫ヶ崎は言葉を続けた。

「津田くん面白いからまた会いたかったんだよね」

──俺のことおもちゃ感覚ぐらいにしか思ってないのか。別に違うことを期待したとかそんなことは一切ない。だからさっきからニヤニヤするんじゃないよ。

「津田くんもしかして勘違いしたでしょう。ボクが行為をよせてると思った?」

……なんだよこいつ心の中読んだのかよ。いや、読んだとしても勘違いはしてないからな。本当に、し、してないんだからね! と、茶番をする前にとりあえず否定をしておくか。

「してないゃひ!」

「……」

「……」

……終わった。俺はそう確信した。この状況を打開することは俺では無理だ。穴があったら入りたいとはこの事だな。

「ぷっ、アハハハハハハ、ないゃひだって、ひゃって、ぷぷ。おかしすぎるよ。本当に津田くんは面白いな。」

……死にたい。紫ヶ崎は腹を抱えてものすごく笑っている。今にも転げ落ちるレベルだ。人をここまで馬鹿にして、……もうこいつとは絶対に関わらない。そう決心した俺だった。


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