屋上からの出会いは定番すぎますか?

倉田キヨト

最初の出会い


人は恋愛をしていきそこから繁殖行動をとる生き物だ。

だが、俺にはわからない点がある。人はどうして恋愛を何度もして次々と行動することができるのだろうか? 俺にはその事が全然分からない。

例えば、恋をしてその相手に思いを告げてそして振られる時がある。それ自体は別に不思議な事はない。よくある事だ。問題はそこではないのだ。その後の事にある。

その後、大抵の人はまた次の恋を探そうとする。

俺はどうしてすぐにまた違う恋ができるのか分からない。

恋というものをろくにしてこなかったせいかそんなことを考えるようになってしまった。

しかし、分からないなりに考えてみた。

そして俺はこう思った。きっと恋愛には色々の味があるのだろう。みんなそれを味わいたいだけなのかもしれない。あくまで俺の考えついたことだ。それが本当かは知らない。


両思いなら美味しい味、片思いなら甘酸っぱい味、失恋なら苦い味。


たくさんの味をみんな味わいたいだけなのだろう……。


放課後の屋上で部活動をしている運動部の生徒などを見下ろしながらそんなことを考えていた。

こうやって上から見下ろしていると人がまるでゴミのようだな! はっはっはっ…………なんてな、俺は携帯を取り出して時間を確認した。もうこんな時間か、そろそろ帰るかな。

ガチャ

ん? 帰る仕度をしているとドアの開く音がした。屋上に来たのはある1人の女子生徒だった。そしてその女子生徒は走りながら叫んできた。

「死んだらダメー!!」

俺はいきなりそいつに服を掴まれ投げられた。その瞬間あたりは真っ白になった。

あっ、俺死ぬのか……。

「痛てぇ! 何すんだよ、この怪力女!」

なんとか生きていたようだ。けど2、3m飛ばされてるな。こいつどんな力してんだよ、めちゃくちゃ痛い。

「はぁはぁ、良かったー間に合って、君命をあまり粗末にしたらダメだぞ?」

……こいつ何か勘違いしてないか? 脳の中まで筋肉なのだろうか。

「おい、何か勘違いしてないか? 俺は別に自殺をしようとしていたわけじゃない」

「えっ? そうなの? でも下から見たらまるで会社をリストラされて家族にも愛想尽かされて離婚した独り身の40歳男性みたいなオーラでてたよ?」

「俺そんなに不幸に見えたのかよ!! 下から見たらそんな感じに見えるのかよ俺……」

……俺大丈夫かよ。

「近くで見たらもっとやばかったよ、もう飛び降りる瞬間かと思って焦ったんだよ」

こいつはこいつなりに心配してくれたのか。

それなのに俺は怪力女とか言ってしまった。

──まあ間違ってはないからいいか。それでもまあ、今の投げられた件は一様許すことにしよう。それに他にも気になることはあるからな。

俺は気になったことをこの怪力女に聞いてみた。

「ていうかお前誰だよ」

「……ふっふっふっ、よくぞ聞いてくれた! ボクの名前はー、────紫ヶ崎栞乃だ!」

……こいつなんで名前言うだけなのにこんなにテンション高いの? しかし、俺はその名前に聞き覚えがあった。それはどうしてかというと、この学校では絶対に関わってはダメと言われるやつらが3人いる。その3人の事を三大変人と学校の人達は言うらしい。そしてこの女、2年生の紫ヶ崎栞乃はそのうちの1人なのだ。俺も名前は聞いたことあるが本人を見たのは初めてだ。なにせ、この学校全校生徒1200人というマンモス高校だからな。

それにしてもさっきは投げられたからあまり顔を見てなかったが、こいつ普通に綺麗な顔立ちをしている。髪は茶髪が赤みがかった色をしていて髪型はボブヘアと言うべきだろうかそのうえ体も出るところはでて引っ込むべきところは引っ込んでいる。……三大変人共は美男美女って言われている噂は本当だったんだな。でも変人だからみんな関わろうとしないのか……、──その気持ちすごく分かるよ。それにしてもこんな細い体で俺を投げたのか、どんな体の作りしてんだよこいつ。

そんなことを思いながら俺は紫ヶ崎を見ていた。

が、俺が少し紫ヶ崎をジロジロ見すぎていたためか紫ヶ崎の目がジト目になっていた。

「ねえ、聞いてる? さっきからボクの体ジロジロ見てるの分かってるんだよ? もしかして君変態?」

「……変態じゃねえよ、そんな細い体で男1人投げるってすげえなって思ってただけだ。決していかがわしい目的があって見ていたわけじゃない」

俺はそんな苦し紛れの言い訳にしか聞こえないような事を言っていた。さすがにこれじゃあ無理あるな。

……ここは腹をくくって怒られるか。俺は決意をしていたが、俺の想像していた返しとは違った。

「なんだ、そうだったんだね。それならそうと言ってくれよ。まあ、ボクが凄いのは知ってるけどね」

満面の笑みでそう俺に言ってきた。

────こいつ物凄くバカだ。もうここまでくると、呆れを通り越して心配するぞ。

でも、まあいいか、こいつが馬鹿なおかげで俺も助かったしな。ここはスルーして話を変えておこう。

「あぁ、そういえばお前どうして俺を助けたんだ? 別に自殺しようとはしてないけどお前にはそう見えたんだろ? そうだとしたらお前が必死になる必要ないだろ。別に友達とか知り合いとかじゃないんだし」

俺は自分が思ったことをそのまま紫ヶ崎に伝えた。

「えっ? 助けるのなんてあたりまえじゃないか。理由なんてないよ自殺しようとした人を見たら助けるそんなの普通だよ」

──紫ヶ崎にとって見ればそれが当たり前なのか。すげえな、俺には真似できねえぞ。

「お前いいやつだな」

「何言ってんのさ皆そうだと思うよ。それとも君は違うの?」

現代の奴らみんな助けるのかよ、すげえな。

でも俺助けないからみんなじゃないよね?

そんな屁理屈を心の中で思いながら、思ったことをそのまま紫ヶ崎に言った。

「俺なら見つけても見なかったことにする」

正直なことを言ったが、なかなか最低なことを言ってると自覚はあった。

「……君最低だな、君の心は腐ってるのかそれともただの人間のクズなのか」

「それどっちも意味大体一緒だよね? 」

「君はどちらにも当てはまるという事だよ」

なんて失礼なやつなんだ。男ならビンタしてたぞ。グーで殴らない当たり俺は優しい方だ。……決して俺がグーで殴れないとかそういう事ではない。

──だって、グーは痛いしね! やっぱり痛いのはダメだよな。うんうん。

「誤解だ。俺は別に自殺者を見捨てている訳じゃない。死にたいというその人の考えを俺は尊重したいんだ。決して面倒くさいとか関わったら面倒くさいとかとにかく面倒くさいとか思ってない。」

「最後の方面倒くさいしか言ってないじゃないか……。その言い草は面倒くさいとしか思ってない人が言うセリフだよ。……君相当変わってるね」

……なんか変人に変わってるとか言われたんですけど。

「何を言っている。俺なんかよりも紫ヶ崎の方が何倍も変なやつだからな」

「んー、ボクが変わってるのは分かってるけど、君もなかなかだと思うよ?」

「自分が変わってることに自覚はあったんだな。それなら少しは自重すればいいのに。あと俺は極普通の人だ。これだけは譲らんぞ」

「それはボクが許せないよ自分を偽るなんて、それに、窮屈そうだしね」

こいつすげえな、身体的にも精神的にも常人の考えじゃないぞ。俺ならすぐに自分偽っちゃいそうだよ。

しかし、その考えは俺も嫌いじゃなかった。

「いいんじゃないか、無理に自分を偽るより全然そっちの方が、それも一つのあり方だろ。俺もお前の考えと大体一緒だからな」

「フフッ、君本当に変わってるね。まあ、でも君のはただ開き直っただけな気がするけどね」

悪かったな、開き直ったひねくれ者でよ。

「だなら変わってねえよ。普通の人だよ」

「普通の人は放課後に屋上で一人だけで黄昏てないもんだよ」

「別に黄昏てない。この景色が好きなだけだ。」

「ふーん。ならそ言うことにしとこうか」

「なにそのよく分からない返事。すごく疑ってるだろ」

「べっつにー疑ってなんかないよ」

──何なんだよ。表情と言葉がそう言ってないぞ。

「まあ、いいや、俺はそろそろ」

「あっ、そうだ。君、名前教えてよ。ずっと君って呼ぶのも変でしょ?」

今帰るって言おうとしたのに……。ていうかもう喋ることないから名前なんて聞かなくてもいいだろ。

まあここは無難にやり過ごすか、俺はこういう時のやり過ごし方はとっくにマスターしているぜ。

「……知らない人にはあまり自分のことをベラベラ言うなっていうのが今週の星座占いであったから言いたくないんだけど」

「そんなあからさまに嘘っぽい占いあるの?」

俺は自分のスマホでそのサイトを開いて紫ヶ崎にスマホを渡した。

「えっと、なになに、12位のいて座のあなたは今週は自分のことをベラベラ言うのはやめよう! 最悪な事が起きるかもしれないぞ! 本当だ。こんなのあるんだ。えっと、ラッキーアイテムはスマートフォンなんだ」

はっはっはっ、見たか! これが俺の特技嘘っぽい真実だ! 騙されやがって、はっはっはっ! 俺の勝ちだ!

「これで分かっただろ。てことで俺のスマホを返してくれ。

と言っても紫ヶ崎は俺のスマホを返そうとしてくれない。

「ちょっとまってねー、いいこと思いつたから」

紫ヶ崎のいいことは俺にとっていいことじゃないような気がするんだけど。早く返して欲しいんだけど、なかなか返してくれない。

……俺のスマホなのに。

「よし、できた! いいよーありがとねーほい」

「急に投げるなよ、一様俺のスマホなんだぞ」

それにしても何したんだ俺のスマホで何してたんだろう。そう思いながら俺が自分のスマホの画面を覗いて見た。──う、ウソだろ? 俺のスマホのLINEに1人友達が追加されていた。栞乃って名前のヤツが新しくいた。

何となく、分かっていたけど、まさか、本当に連絡先入れられてるとは思わないじゃないか……。

「ふふっ、これならベラベラ話したことにはならないよね。津田郁也君」

────負けた……。いやまだ最終手段がある。

「なんで勝手に登録してるんだよ。それに名前勝手に見るなよ」

「スマートフォン確かにラッキーアイテムだね。こんなカワイイ子の連絡先が知れたんだから」

──もはやアンラッキーアイテムだったよ。

「自分で自分のこと可愛いとか言うなよな。えっと、これはブロックしていいの?」

「だめだよ、そんなことしたら許さないよ」

許さないってなに? また投げられるの? それは嫌なんだけど、……お、おれの最終手段が無くなった……。それに、また投げられるのは勘弁して欲しいな。

「はぁー、分かったよ。しなければいんだろしなければ、はぁー」

投げられないならブロックしていたに……。

「うんうん、それでよし、と……もうこんな時間か郁也君。ボクはこの辺でおいたまするね。ボクが帰っても飛び降りたらダメだよ? じゃあ 、バイバーイ」

そういって、紫ヶ崎は颯爽と帰っていた。

──だから自殺じゃないって言っただろうが。

「……嵐みたいなやつだったな」

そんなことを一人で呟いていた。あんなにうるさくて変人でもいなくなると少し寂しいような気持ちになるんだな。なんてな、そんなことあるわけない。たかが数分いただけのやつにそんな感情はない。……もう一生関わりたくないな。

……帰るか。


これが俺と彼女の初めての出会いだった。



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