第14話マイ フィロソフィ1−14

 昼の3時、ようやく授業が終わり、安心した空気がクラスに広がった。

 その中、僕はさっさと帰ろうと思い、教科書、文房具を鞄に入れていった。今の状況を一言で言えばとにかく疲れた。そういう感じだ。ようやく、授業が終わって、家に帰るところだ。だから僕は弛緩(しかん)しきっていた。

「笹原」

 そういうもう家に帰る事にしか頭にない僕に額田君が声をかけてきた。

「ああ、何、額田君?」

 額田君は気恥ずかしそうに指で鼻をこすりながら言った。

「いや、たいした事じゃあないんだけどさ、よかったら放課後、どこかいかね?」

 思いもよらない返事に僕はびっくりした。もちろん僕はすぐに同意の返事をする。

「うん。もちろん、いいよ」

「そうか!いやぁ、よかったよ。それで笹原、どこいく?」

「どこでも、というか、僕はここの地理には詳しくないから、額田君が行きたい場所で僕はいいよ」

「そうか、そういやぁ、笹原は東京の子だもんな」

 それで額田君は少し考えていた。

「じゃあ、あれだ。ここの近くというほど近くじゃあないんだけどチューブって言うカラオケがあるから、そこいくか」

 そういったのだ。僕はカラオケというところに行くのが初めてなので、どんなものだろう、と思って席を立ったら、額田君が、あ、と声を出した。

「そういや、今日はあれだ。母に用事頼まれていたんだ。ごめん、笹原、今日はいけないわ」

「いや、いいよ。そのくらい。で、今日はこのまま帰る?」

 僕の台詞に額田君は少し考えて否定した。

「いや、チューブは次の機会にして、今日は花村に行こう」

「花村?」

 僕はいったいそれはなんだろうと思った。

「花村というのはたこ焼き屋さんの事だ。まあ、ここの近くだから、そんなに時間がかからないよ。それで、これが結構おいしいからちょくちょく行ってるんだ」

「へ〜」

「今日はそこに行こう」

「ああ、わかった」

 それで僕たちは教科書などを鞄につめて出て行った。




 春の穏やかな気候が午後になってもまだその主張を強くしている。

 僕は年が経つにつれ、いつも驚いてしまうのが気候(きこう)だ。ついこないだまで夏だったものが日の勢いが落ちて、涼しい風を運んでくる。これにいつも驚いている。

 しかも中でも一番驚いているのが、冬から春にかけての気候だ。つい、こないだまで厳しい寒さだったのが、少しずつ寒さが和らぎ春の穏やかな気候になる事実にただ、驚いているのだ。

 たこ焼き店『花村』に行くまでの間、僕はこの気候の変化に驚きつつ、額田君についていった。 

 いくつか話をしたら本当にすぐのところに『花村』があって、すぐついた。

「というか、ここって通学路じゃん」

「そうだよ。通学路のそばにこんなものがあるんだ、気づかなかった?」

「いや、気づいていたけど、たこ焼き屋さんとは知らなかった」

「たこ焼き屋だよ。まあ、いいから入ろうぜ」

 それで僕たちは『花村』に入っていった。




 『花村』はこぢんまりとしたカフェを想像していただければいい。内装は木造でテーブルは三つしかないこぢんまりとした、たこ焼き屋さんだ。あと強いて上げるならば本棚にコミックが置かれている程度だ。

「いらっしゃいませ」

 カウンターのおばさんが挨拶をする。ちなみにここでのカウンターはカウンター席などでなく調理場と客席を分ける純粋なカウンターと思ってくれていい。

「ほら、笹原座るぞ」

「ああ」

 それで僕たちは適当な席に座り、メニューを見る。

「たこ焼きの小でいいよね。額田君」

「ああ、もちろん」

 それで注文する僕ら。その後、僕はいったいなにを言えばいいのかという事を考える。

 何も思い浮かばない。

 と、思っていたら、額田君の方から話し始めてくれた。

「ああ、今日はしんどかったな、笹原」

「うん,そうだよ。高校なんて初めてだからかなりきつかったよ」

「まったくだ。まあ、でも今はいいらしいな。高校になったら主に勉強面で苦労したって、先輩が言ってたよ。一年はまだ軽いからだいじょうぶかもな」

「確かに、でもすぐ勉強面で苦労すると思う」

「そうかそうだよなあ。…………ところで笹原は勉強とかできる方?」

 と、この時にたこ焼きが来た。

「はい、お待ち」

 来た、たこ焼きはお皿の上に小さなたこ焼きがピラミッド型に積んでいた。

「おお、来た来た。おい、笹原食べようぜ」

「ああ、わかった」

 それで僕たちはたこ焼きを食べ始めた。

 僕はたこ焼きは箸でつかみ(このたこ焼き屋では爪楊枝ではなくて箸が用意されている)それを口に入れる。

 口に入れた瞬間口の中にたこ焼きの中身が口に広がった。ものすごく柔らかい、クリームと行っても過言ではない柔らかさだ。それがソースに絡まってたこ焼きの味を落とさずにいる。

 しかもたこ焼きの中は柔らかいと書いたが、実は外は柔らかいわけではない。外は程々にぱりっとした食感で、最初の一口かむ時に最初はかめなくて、しかしかんだ時に中のたこ焼きが口の中ではじけるのだ。

 僕は食べていてこれは本格的なたこ焼き屋だと感心した。

 たこ焼きの一つ一つは小さいため、一つ一つのたこが小さいのも致し方ないことだ。普通のたこ焼きと同じぐらいだ。

 このたこ焼きは小で16個だから、いくら小さくても結構なボリュームだ。これで300円。結構安い。

 僕の感想はこれは中ぐらいにして小は8個で200円ぐらいなのがいい。さすがに小さくてもこのボリュームか間食にきつい。

 食べ終わった額田君が満足そうにくつろいでいると、突然いやらしい笑みを浮かべてこちらに迫ってきた。

「ところでさ、笹原。おまえ、気になる子はいないか?」

「え!いきなり、何言ってんの!」

 僕はびっくりした。本当にびっくりしたのだ。なぜなら、額田がこれを言う時にあのクラスの少女を思い浮かべていたからだ。

「別にいないよ」

 これはさすがに言えなかった。まだ、この頃の僕は本当にあの子に『初恋』をしていたのだ。

 本当に僕が抱いていたのは淡い恋。自分一人だけがもつ雪のようなどこまでも純粋で現実にはにつかわないはかない恋なのだ。

 そういう恋はよほど親しい友人しか言えないものだと僕は思っていた。

「ふ〜ん、ホントのところはどうなのかなぁ〜。ホントにいないの?」

「いないって、それより額田にはそういうのはないのか?」

「俺?そんなのあるわけないじゃん。だって、今は登校二日だぞ、そんないい人なんて見つからないよ」

「なら、聞くなよ」

 そういって、僕は水を飲んだ。僕が水を飲む間、額田は、あ、と声を上げていった。

「そういえば、恋人と言ったら寺島美春。あいつ、いい奴なんだけど恋人候補ではないよな」

「寺島美春?」

 いきなり僕の想い人ができたので口から心臓が飛び出るんじゃないかってぐらい驚いた。一応、あの寺島なのか確認しておこう。

「寺島美春って言ったら、あの髪の長いきれいな子?」

「そうそう、クラスの寺島だよ。おまえはあいつの事気になるか?」

「まあ、あんだけきれいなら……」

 僕は話してる時に自分の想いがばれないようになるべく普通に驚いてるように演技をした。それがこうしてか、それとも僕の事に興味がないのか、額田は寺島の事を止めどなく話してくれた。

「うん,確かにきれいだ。ただ、知り合えばわかるけど、恋人にしたいとは思わないんだよな、あいつ」

「それって、どういう事?」

 いきなり額田君から僕の気になる子がでてきて、しかもそれが恋人にはしたくないというのはどういうこと?

 僕のそんな驚きをよそに額田君はいたってなんでもないようにたこ焼きを食べながら話してくれた。

「ああ、そうか。笹原にはいってなかったか…………。俺と寺島は中学の時一緒だったんだ。まあ、それでお知り合いになって、何度か話した事があるけど、まあ、あいつはいいお友達を超えないよ。まあ、すごく話しやすい、それは確かだけど女としては正直言って見れないんだ。本当に」

 僕はびっくりした。寺島さんを女として見れない?そういうものだろうか?

—………………。

 よくわからないけど、とりあえず寺島さんになんとか話してみよう。それで僕なりの感想を決めればいい。

 額田君は鷹揚(おうよう)にたこ焼きを食べながらこんな事も話してくれた。

「まあ、だけど、あいつにもいいところはあるよ。例えばさ、あいつは本当におもしろい事と言うんだ。あいつと話しているとさ、元気になるんだよな、ほんと笑って、その後すごい元気になる。俺ってさ、けっこうひょうきんでさ、それでいろんなところで明るい奴らとつるむけどさ、やっぱ寺島はそういう奴らとは違う気がする。そういう場にいるような笑いもいいけどさ、寺島はさ、ほんと人を安心させるような笑わせ方をする。早く、早く言っておもしろおかしく笑うんじゃなくて、自然と笑えてる気がするんだ、ほんとに」

 これには少しびっくりした。寺島さんとそういうキャラだったのか、と、今、少し思ったのだ。

「…………………つまりさ、寺島さんてどういう人なの?」

 これが今、僕の率直な疑問だった。それに額田君は最後のたこ焼きを食べながら笑いながら答える。

「まあ、寺島と話せばわかるよ」

 それでこの話は打ち止めにした。

「まあ、それより帰ろう。俺もそろそろ用事をしなくちゃならないし」

「うん,わかった」

 僕は急いでたこ焼きを食べながら答える。寺島さんの事はまず、話して決めよう。

 僕はたこ焼きを食べながら、やわらかいクリームの味を味わっていた。

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