第13話マイ フィロソフィ1−13

 また、朝が来た。僕は自然とおきて、居間に行った。

「おはよう、一樹君」

「おはようございます」

「おはよう、一樹君」

「おはようございます、康子さん」

 和也さんと康子さんに挨拶をして、康子さんが作ってくれたコーヒーを飲む。

 苦いけど、コーヒーを飲むと少しは頭が覚醒(かくせい)するのだ。その後、自分の部屋に戻って体中に保湿剤(ほしつざい)を塗(ぬ)る。これは僕がアトピーで朝と風呂上がりにこれを塗らないといけないのだ。

 その後、制服を着替える。制服はアトピーの人にとってかなりつらいけど着替えるのだ。

 それがすんだら学校を出るのだ。

「一樹君、今から行くの?」

「はい、そうです。康子さん。それでは行ってきます」

「はい、いってらっしゃい」

 そして、僕は自宅を出て自転車に乗ろうとする。その自転車置き場の外側に一つのタンポポが目に留まる。

 それを見ているとなんだかいい事があるような気がしてきた。

 そして、僕は自転車に乗って学校に行った。




 僕は自転車に乗って登校する。早朝の澄んだ空気を感じながら進んでいく。

 そのうちに学校についた。

学校につき、自転車を降り、そのまま校舎に向かっているとあちらこちらで声が聞こえてくる。

「おはよう」

「おはよう」

 学校内で挨拶(あいさつ)の声が聞こえてくる。 

 普通、人にであったら挨拶をするのが普通だが、僕はこの挨拶が中々できない。今まで、学校に行ってないからそういうのができないと言うのがあるけど、出会ってすぐに言うという事が僕にはできない。

 いきなり突然会って、それですぐ挨拶なんて思いつかない。会って、人を認識して挨拶しなければならないと思うまで、だいたい3秒はかかる。最悪なときは6秒かかる。そのぐらいかかるともう通り過ぎるし、3秒経って挨拶するというのも相手にとっては不気味ではないだろうか、と思って中々(なかなか)挨拶ができないのだ。

 人間関係のマニュアル本なんかを読んだのだが、人に出会ってすぐ挨拶するのが良好な人間関係を作る上で大事らしい。

 後、就職(しゅうしょく)関係の本も少し読んだけど、挨拶できるかどうかで人を選ぶらしい。

 教室に行く傍(かたわ)らいろんな人にあったけど、挨拶をしていいのだろうかと僕自身悩んでる。見知らぬ人に挨拶をしてもいいのだろうか。とつくづく思ってしまうのだ。

 知らない人に挨拶をしていいのか、いきなり挨拶したならびっくりするのではないのかと思ってしまう。

 これはさっきの3秒の話とは違うけど、こういう事も僕の中にある。

 何か、高校では400人ぐらいの人がいるのだ。出会うだけでもかなり多くの人に遭遇(そうぐう)する。それをいちいち挨拶するというのは変ではないだろうか、と僕は思うのだ。

 この二つの事があって僕は挨拶がなかなかできない。

 そんな事を考えながら、人に挨拶をせずに教室まで来た。

 開けたら僕は挨拶する事ができるのか?

 開ける前にそう思う。そう思いつつ、突っ立てるわけにはいかないのでドアを開ける。

—がらっ。

 何人かの生徒がこちらを振り向く。その瞬間僕の心が止まる。一気に息苦しくなってきて、すぐにその視線から逃れようとして、すぐ通り過ぎた。

 それで生徒達の関心がそれる。それを感じて僕は安堵した。  

 これでは挨拶する事が難しい。

 僕はそう思った。




「笹原君」

 額田君が僕を見つけ少し興奮気味にこっちによってきた。

「ああ、額田君。おはよう」

「ああ、おはよう」

 僕の言葉に気づいて、額田君が挨拶をする。しかし、額田君はそれよりもこの話題をいきなりふれてきた。

「笹原君。昨日言っていたCDもってきたよ。君もきっと気に入るから聞いてよ」

「うん。わかった」

 それで僕はそのCDを受け取った。これを気に入るかどうかが、今後の友情の試金石(しきんせき)になる、と思う。

 しかし、それだけではダメだと思うので僕は他にも色々聞こうと思った。

「それでさ、額田君。額田君が好きなゲームってなに?」

「ああ、ゲームね。俺はTT系とかドラコエとかが好きなんだ」

「なるほどね〜」

 僕はにこやかに笑いながら心では、それらは自分が好きなものじゃない!と思っていた。しかし、これをどうするか。しかたないので自分が好きなものを言ってみるか。ちなみにTTとドラコエはゲーム好きなら誰もが知っている超有名ゲームだ。それらはシリーズとかしており、6や7とかいろんなのが出ている。

「メイルズ・オブ・エターニアは知ってるかな」

「ああ、ソレあるね。かなり古いやつだよね。でも、僕のメイルズの最高はアビスだよ」

「へ〜,そうなんだ。でも、エターニアもおもしろいとは思わない?」

「う〜ん。確かに悪くなかったけど、ちょっと地味だというか」

 第一の作戦失敗。他に話題は何かないだろうか。

 ここで僕は新しい話題を探そうとしたけど、少し人生経験をすんだ今ならわかるけど、今出た話題を使って関係をつなげるというやり方ができるのだ。つまりこういう事だ。額田君はTT、ドラコエ、アビスが好きだと言っていた。これらについてなぜ、それが好きなのか、という事を聞けば話題が新たに生まれるのだ。

 しかも額田君は歴代メイルズの中でもアビスを上げてそれをもっと詳しく聞けばより彼の自分に対する好感度があがるだろう。

 ちなみにメイルズというのも超有名ゲームだ。MMやドラコエよりは知名度が下がるが、ストーリー構成なら少なくともMMよりは丁寧に作られている。このシリーズは1とか2という形式ではなくてメイルズ・オブ何々という形式でシリーズを出すのだ。

 話を戻す。この対人関係のスキル最近気づいた。しかし、これを中々実行する事ができない。というのはつい人とつきあう時これを失念してしまう。色々話してると目先の事に気をとらわれて相手に詳(くわ)しく尋ねるという事を忘れてしまうのだ。

 特に僕の場合、人とつきあうのが基本的に嫌いだから、人と話すと消耗して、この事を尋ねる事が頭に浮かんでこないのだ。

 こういう事を考えるとまだまだ自分も修行が足りないと思う。

 しかし現在の事は置いといて、当時の自分に話を戻す。

 当時は確かゲームの話がダメだったから漫画について話したんだっけな。

「ねえ、額田君が好きな漫画って何かな?」

(どうだろう。これがダメだったら僕はどうつきあえばいいのだろう?)

 と内心思いつつ、額田君の話を聞こうとした。

「ああ、僕はワンピールが好きだよ」

「そうか……ワンピールかぁ。まあ、僕も好きだよ……」

「そうか!そうだよな。ワンピールっていいよな。ああいう、仲間を思う気持ちっていつ見ても感動するんだよ、ホントに」

「…………うん,そうだね……」

 僕は言葉だけ同意していても、本当はワンピールは好きではなかった。時たま見る程度だった。まあ、嫌いではないよ?嫌いではないけどでも、格別好きなわけでもないのだ。

 まだこの頃は高校生の入り立て、つまり昨日まで中学生だったからな、少年漫画もこの当時は案外好きだった。

 しかし、この頃はもう漫画やライトノベルから関心から少しづつ離れて文学系等に興味が移りつつあったんだ。この頃には重松清とか森絵都あたりを読んでいたし、夏目漱石もちらほら読み始めていた。確か、この一年後にドストエフスキーの『罪と罰』を読んだっけな。

 そのまま、額田君がワンピールについて熱く語るのを懸命(けんめい)に聞いていた。

 その時だった。

 教室のドアが開いて一人の少女が入ってきた。その少女が昨日の僕の横に座ったクラスの少女だ。

「はぁはぁ、うん,ギリギリセーフ」

 少女が時計を見て一人納得していた。その少女に女の子達が声をかける。

「寺島(てらじま)、遅〜い。ホントギリギリだね」

「うん,ギリギリ。私,ギリギリ感を楽しむ女なの♡」

 それをまた別の少女が突っ込む。

「ほらバカな事言ってないでさっさと席に座って」

「ハーイ」

 それで少女、寺島さんが女の子達の席のすぐ近くに座る。今はまだ席替えを行っていないから各人が自由に座れるのだ。確か、席替えは今朝あるはずだ。

 寺島さんの笑顔を見ていると、なぜか胸がきゅっとなって………。

「おい!笹原、聞いているのか」

「ああ、ごめん。ぼーっとしてたんで」

 笹原が怒ったように言ってくる。

「もう、せっかく人がワンピールについて語っているって言うのに……で、笹原はワンピールの中じゃあ、誰が好きだ?」

「…………。それよりも額田君。そろそろ、ホームルームが始まるんじゃない?」

「おっと!いけねえ。じゃあ、昼飯の時にでもワンピールについて語り合おうや」

「ああ」

 それで額田君は僕の後ろの席に座った。それでも額田君は何か話そうとしてたけど、先生が来て、話をやめた。先生は挨拶をして早速(さっそく)、席替えの発表をしたのだ。




「よう、笹原。まあ、近くの席になれなくて残念だった。でも、遠くても友達だからな」

「ああ」

 クラスの席替えが終わって、初の授業を受けてお昼になった。ここには食堂がないが購買(こうばい)はある。購買は校舎の中にある。そこに行くか、近くのコンビニで買うか、事前に弁当をもつか。僕は弁当をもってきていないので購買かコンビに行くしかないのだが、購買は明らかに大勢押し掛けていたのでコンビニに行く事にしたのだ。

 それはともかく、席替え。額田は廊下(ろうか)の側の最も近いところからの前の3番目の席。僕は窓際の最後尾。はっきり言って正反対のところに写ってしまった。それはいいのだが、それよりも……。

 あの少女、寺島さんの席が窓際の前から4番目の席なのだ。僕の席からその後ろ姿がちらっと見える。

 寺島さんは今、女の子達とおしゃべりしている。寺島さん、今、あなたはなにを考えているのだろう?

「笹原」

 ぼんやりとした僕に額田君が肩を叩いた。

「ほら、何やってんだよ。コンビニに行くぞ」

「ああ、すまない。すぐいく」

 それで僕たちは教室を出て、コンビニに向かった。


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